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4.悪魔?小悪魔?
悪魔?小悪魔?②
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「お前はこの前、夫婦、といったらはしゃいでいただろう。結婚に夢持ってるんじゃないのか? なのにこんな形で決めてしまっていいのか?」
そう。はしゃいでいた。夢も持っていた。
けれど、その相手が槙野ではいけないのだろうか。
美冬には今、恋愛する気持ちの余裕はない。
誰かに恋したり、その人に気持ちや時間を持っていかれたり、そんな余裕はないのだ。
今後、そのために婚活する時間を作るくらいなら、会社のことを考えていたい。
「冷たい、とか女子っぽくないって思われても構いません。恋愛なんてする余裕私にはないんです」
「余裕……」
「その時間があったら会社のことを考えたいの。槙野さんだって事情があると言ったわ」
いつ見ても自信満々な槙野の表情が、少しだけ揺らいで見えた。
「悪い……俺の事情にお前を巻き込むのはどうかと……」
少なくとも浮き立っていた。ここにこうして座って槙野の話を聞くまでは。
好みではないと言われて、契約婚であるはずなのに、事情もあると言っていたのに、槙野がすでに後悔しているような雰囲気だったとしても今さらやめる気は美冬にはない。
美冬は少しだけ、切ないような気持ちになった気がした。
一瞬俯いて、ギュッと美冬は手のひらを握る。
この契約婚の目的を思い返すのだ。
──何があっても絶対、後悔はしないわ……!
それはまるで自分の心に刻みつけるかのように、そう決心した。
美冬は顔を上げて笑う。
「じゃあやっぱりお互いにメリットがある、ということよね。お話は進めましょう」
では割り切った関係であればいい。
多分自分たちにはそのほうが向いている。
結婚という言葉に浮き立ったり揺らいだりはもうしない。
──この人と契約婚する。
美冬は心の中でそう決めた。
その美冬の顔をみて、槙野は頷いた。
「分かった」
そう言って槙野は足元のカバンから書類を取り出したのである。
それを美冬に向ける。
『婚姻生活に関する事柄についての契約』
真っ白な中にその文字だけ妙に浮き上がって見える。美冬がそれに手を伸ばすと、槙野がその上に自分の手を置いた。
これでは見られない。
「なによ」
「その前に会社のことで伝えたいことがある」
美冬は槙野の顔を見た。槙野の顔はとても真剣なものだ。
「あの場にいた木崎さんという人なんだがな、エス・ケイ・アールと言う会社を知っているか?」
そう聞かれて美冬は即答する。
「知ってます!」
ミルヴェイユとコンセプトは違うけれど、大手のアパレル企業だ。
「木崎さんはエス・ケイ・アールの社長だ。うちはあまりそっち方面に詳しくないんで、この前はアドバイザーとして来てもらっていた」
だからいろいろ詳しかったのだ。
ミルヴェイユが高級路線なら、エス・ケイ・アールはいわゆるファストファッションを扱うブランドである。
『ケイエム』というそのブランドはファッションビルや、ショッピングモールでは必ずと言っていいほど見かける。
「あっちはお前とは真逆だな。彼女自身は一流ブランドに身を包んで、経営に関してはアグレッシブだ」
確かに美冬は自社ブランドに身を包み、経営に関しては保守的だ。
そう。はしゃいでいた。夢も持っていた。
けれど、その相手が槙野ではいけないのだろうか。
美冬には今、恋愛する気持ちの余裕はない。
誰かに恋したり、その人に気持ちや時間を持っていかれたり、そんな余裕はないのだ。
今後、そのために婚活する時間を作るくらいなら、会社のことを考えていたい。
「冷たい、とか女子っぽくないって思われても構いません。恋愛なんてする余裕私にはないんです」
「余裕……」
「その時間があったら会社のことを考えたいの。槙野さんだって事情があると言ったわ」
いつ見ても自信満々な槙野の表情が、少しだけ揺らいで見えた。
「悪い……俺の事情にお前を巻き込むのはどうかと……」
少なくとも浮き立っていた。ここにこうして座って槙野の話を聞くまでは。
好みではないと言われて、契約婚であるはずなのに、事情もあると言っていたのに、槙野がすでに後悔しているような雰囲気だったとしても今さらやめる気は美冬にはない。
美冬は少しだけ、切ないような気持ちになった気がした。
一瞬俯いて、ギュッと美冬は手のひらを握る。
この契約婚の目的を思い返すのだ。
──何があっても絶対、後悔はしないわ……!
それはまるで自分の心に刻みつけるかのように、そう決心した。
美冬は顔を上げて笑う。
「じゃあやっぱりお互いにメリットがある、ということよね。お話は進めましょう」
では割り切った関係であればいい。
多分自分たちにはそのほうが向いている。
結婚という言葉に浮き立ったり揺らいだりはもうしない。
──この人と契約婚する。
美冬は心の中でそう決めた。
その美冬の顔をみて、槙野は頷いた。
「分かった」
そう言って槙野は足元のカバンから書類を取り出したのである。
それを美冬に向ける。
『婚姻生活に関する事柄についての契約』
真っ白な中にその文字だけ妙に浮き上がって見える。美冬がそれに手を伸ばすと、槙野がその上に自分の手を置いた。
これでは見られない。
「なによ」
「その前に会社のことで伝えたいことがある」
美冬は槙野の顔を見た。槙野の顔はとても真剣なものだ。
「あの場にいた木崎さんという人なんだがな、エス・ケイ・アールと言う会社を知っているか?」
そう聞かれて美冬は即答する。
「知ってます!」
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「木崎さんはエス・ケイ・アールの社長だ。うちはあまりそっち方面に詳しくないんで、この前はアドバイザーとして来てもらっていた」
だからいろいろ詳しかったのだ。
ミルヴェイユが高級路線なら、エス・ケイ・アールはいわゆるファストファッションを扱うブランドである。
『ケイエム』というそのブランドはファッションビルや、ショッピングモールでは必ずと言っていいほど見かける。
「あっちはお前とは真逆だな。彼女自身は一流ブランドに身を包んで、経営に関してはアグレッシブだ」
確かに美冬は自社ブランドに身を包み、経営に関しては保守的だ。
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