契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

文字の大きさ
上 下
13 / 109
4.悪魔?小悪魔?

悪魔?小悪魔?②

しおりを挟む
「お前はこの前、夫婦、といったらはしゃいでいただろう。結婚に夢持ってるんじゃないのか? なのにこんな形で決めてしまっていいのか?」

 そう。はしゃいでいた。夢も持っていた。
 けれど、その相手が槙野ではいけないのだろうか。

 美冬には今、恋愛する気持ちの余裕はない。
 誰かに恋したり、その人に気持ちや時間を持っていかれたり、そんな余裕はないのだ。
 今後、そのために婚活する時間を作るくらいなら、会社のことを考えていたい。

「冷たい、とか女子っぽくないって思われても構いません。恋愛なんてする余裕私にはないんです」
「余裕……」

「その時間があったら会社のことを考えたいの。槙野さんだって事情があると言ったわ」
 いつ見ても自信満々な槙野の表情が、少しだけ揺らいで見えた。
「悪い……俺の事情にお前を巻き込むのはどうかと……」

 少なくとも浮き立っていた。ここにこうして座って槙野の話を聞くまでは。

 好みではないと言われて、契約婚であるはずなのに、事情もあると言っていたのに、槙野がすでに後悔しているような雰囲気だったとしても今さらやめる気は美冬にはない。

 美冬は少しだけ、切ないような気持ちになった気がした。
 一瞬俯いて、ギュッと美冬は手のひらを握る。
 この契約婚の目的を思い返すのだ。

 ──何があっても絶対、後悔はしないわ……!
 それはまるで自分の心に刻みつけるかのように、そう決心した。
 美冬は顔を上げて笑う。

「じゃあやっぱりお互いにメリットがある、ということよね。お話は進めましょう」

 では割り切った関係であればいい。
 多分自分たちにはそのほうが向いている。
 結婚という言葉に浮き立ったり揺らいだりはもうしない。

 ──この人と契約婚する。
 美冬は心の中でそう決めた。

 その美冬の顔をみて、槙野は頷いた。
「分かった」
 そう言って槙野は足元のカバンから書類を取り出したのである。
 それを美冬に向ける。

『婚姻生活に関する事柄についての契約』

 真っ白な中にその文字だけ妙に浮き上がって見える。美冬がそれに手を伸ばすと、槙野がその上に自分の手を置いた。
 これでは見られない。

「なによ」
「その前に会社のことで伝えたいことがある」
 美冬は槙野の顔を見た。槙野の顔はとても真剣なものだ。

「あの場にいた木崎さんという人なんだがな、エス・ケイ・アールと言う会社を知っているか?」
 そう聞かれて美冬は即答する。
「知ってます!」
 ミルヴェイユとコンセプトは違うけれど、大手のアパレル企業だ。

「木崎さんはエス・ケイ・アールの社長だ。うちはあまりそっち方面に詳しくないんで、この前はアドバイザーとして来てもらっていた」

 だからいろいろ詳しかったのだ。
 ミルヴェイユが高級路線なら、エス・ケイ・アールはいわゆるファストファッションを扱うブランドである。

『ケイエム』というそのブランドはファッションビルや、ショッピングモールでは必ずと言っていいほど見かける。

「あっちはお前とは真逆だな。彼女自身は一流ブランドに身を包んで、経営に関してはアグレッシブだ」
 確かに美冬は自社ブランドに身を包み、経営に関しては保守的だ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」  祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。  こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。  あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。   ※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。

海月いおり
恋愛
昔からプログラミングが大好きだった黒磯由香里は、念願のプログラマーになった。しかし現実は厳しく、続く時間外勤務に翻弄される。ある日、チームメンバーの1人が鬱により退職したことによって、抱える仕事量が増えた。それが原因で今度は由香里の精神がどんどん壊れていく。 総務から産業医との面接を指示され始まる、冷酷な精神科医、日比野玲司との関わり。 日比野と関わることで、由香里は徐々に自分を取り戻す……。

処理中です...