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2.ご褒美をくれると言ったくせに
ご褒美をくれると言ったくせに⑤
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「次があれば、お会いしましょう」
そう言われて美冬は背中が寒くなった。
当たりは柔らかいけれど、『次があれば』とは。
「今頂いた宿題を必ずお持ちします」
咄嗟に出た言葉だ。
彼は眼鏡の奥の目をふっと細めた。
「お待ちしていますよ」
その後も数人から質問が出たけれど、それ以降先ほどの2人が口をはさむことはなかった。
それにしてもインパクトのある2人だったと思う。
一通りの質疑応答を終えたら『グローバル・キャピタル・パートナーズ』の人達は会議室から出ていったので、3人で片づけを始めた。
「噂通り、CEOは冷静な方でしたね」
「え!? 杉村さんCEOを知っているの?」
「ええ。美冬さんの答え方から、ご存じかと思いました。キラキラしたお目目で『宿題をお持ちします!』とか言うからうちの社長はさすがだなあ……と」
キラキラしたお目目って……。
杉村にはそんな風に見えているのか、と思う。
しかし、話の内容から美冬も察する。
「眼鏡の人か……。割とあの中では若い方だったよね」
「そうですね。若きエリートとして有名です。あの年齢で小規模ながらもベンチャーキャピタルを運営されているのですから、相当なやり手ですし、お金持ちですよ」
「まあ、整ったお顔をされていたわよね」
あの時のことを思い出しながら、美冬はため息をついて、パソコンをバッグに片付けた。確かに優しそうに見えるけれど、切り捨てるべき時は切り捨てる判断力もありそうだった。
あの人多分、笑顔で人を切れそう……。
「すごくモテるみたいですね。私は好みじゃないけど」
そんな風に杉村がさらりと言うのに石丸の方が反応している。片付けの作業の手を止めて、その王子様のような顔が美冬を見た。
「え? 美冬、彼みたいなの好みなの?」
「そういう風に見てないから。それよりも落ち込んだよ。頑張っているつもりでも全然ダメダメなんだなー」
その時、美冬の頭にあの目つきの鋭い男性の言葉がリフレインしてきた。
「シナジーってなに?」
「相乗効果ですね」
さらりと杉村に返される。
「理恵さん、気づいてた?」
「まあ……。でもうちは困っているわけではないですし、それで美冬さんがお勉強になるかな、とも思いましたし、上手くいったらラッキーくらいの感じで」
杉村は淡々としている。
「すっごい、お前アホかみたいな目で見てたわね」
「そうでしょうか? そんなことはないと思いますよ」
けれど、美冬はきっとダメだったんだろうと落ち込んでいた。
『次があれば』なんてシビアすぎる。
なでなで、と杉村が美冬の頭を撫でた。
「美冬さんは頑張りましたよ。元気出して。美味しいものごちそうしますから」
美冬がきょろん、と上目遣いで杉村を見る。その可愛さにさすがの杉村も怯んだ。
「元町ヴィラ……」
可愛い口からこぼれ出たおねだりだ。
それは予約の取れないことで有名なレストランの名前である。
「却下です。とり政ですね」
可愛らしい美冬に惑わされそうなので、杉村はさっと目を逸らして早口に伝えた。
「えー!? 頑張ったって言ったじゃーん!」
「今から予約なんて、取れないでしょう? それはコンペ成功の時まで取っておきましょうね」
そう言ってにっこり微笑まれたら、美冬に返す言葉はなかった。
そう言われて美冬は背中が寒くなった。
当たりは柔らかいけれど、『次があれば』とは。
「今頂いた宿題を必ずお持ちします」
咄嗟に出た言葉だ。
彼は眼鏡の奥の目をふっと細めた。
「お待ちしていますよ」
その後も数人から質問が出たけれど、それ以降先ほどの2人が口をはさむことはなかった。
それにしてもインパクトのある2人だったと思う。
一通りの質疑応答を終えたら『グローバル・キャピタル・パートナーズ』の人達は会議室から出ていったので、3人で片づけを始めた。
「噂通り、CEOは冷静な方でしたね」
「え!? 杉村さんCEOを知っているの?」
「ええ。美冬さんの答え方から、ご存じかと思いました。キラキラしたお目目で『宿題をお持ちします!』とか言うからうちの社長はさすがだなあ……と」
キラキラしたお目目って……。
杉村にはそんな風に見えているのか、と思う。
しかし、話の内容から美冬も察する。
「眼鏡の人か……。割とあの中では若い方だったよね」
「そうですね。若きエリートとして有名です。あの年齢で小規模ながらもベンチャーキャピタルを運営されているのですから、相当なやり手ですし、お金持ちですよ」
「まあ、整ったお顔をされていたわよね」
あの時のことを思い出しながら、美冬はため息をついて、パソコンをバッグに片付けた。確かに優しそうに見えるけれど、切り捨てるべき時は切り捨てる判断力もありそうだった。
あの人多分、笑顔で人を切れそう……。
「すごくモテるみたいですね。私は好みじゃないけど」
そんな風に杉村がさらりと言うのに石丸の方が反応している。片付けの作業の手を止めて、その王子様のような顔が美冬を見た。
「え? 美冬、彼みたいなの好みなの?」
「そういう風に見てないから。それよりも落ち込んだよ。頑張っているつもりでも全然ダメダメなんだなー」
その時、美冬の頭にあの目つきの鋭い男性の言葉がリフレインしてきた。
「シナジーってなに?」
「相乗効果ですね」
さらりと杉村に返される。
「理恵さん、気づいてた?」
「まあ……。でもうちは困っているわけではないですし、それで美冬さんがお勉強になるかな、とも思いましたし、上手くいったらラッキーくらいの感じで」
杉村は淡々としている。
「すっごい、お前アホかみたいな目で見てたわね」
「そうでしょうか? そんなことはないと思いますよ」
けれど、美冬はきっとダメだったんだろうと落ち込んでいた。
『次があれば』なんてシビアすぎる。
なでなで、と杉村が美冬の頭を撫でた。
「美冬さんは頑張りましたよ。元気出して。美味しいものごちそうしますから」
美冬がきょろん、と上目遣いで杉村を見る。その可愛さにさすがの杉村も怯んだ。
「元町ヴィラ……」
可愛い口からこぼれ出たおねだりだ。
それは予約の取れないことで有名なレストランの名前である。
「却下です。とり政ですね」
可愛らしい美冬に惑わされそうなので、杉村はさっと目を逸らして早口に伝えた。
「えー!? 頑張ったって言ったじゃーん!」
「今から予約なんて、取れないでしょう? それはコンペ成功の時まで取っておきましょうね」
そう言ってにっこり微笑まれたら、美冬に返す言葉はなかった。
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