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2.ご褒美をくれると言ったくせに
ご褒美をくれると言ったくせに④
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ピンクベージュに染めた髪は下手をしたらキワモノにも見えそうなのに、石丸がしていてもその品格を失うことはない。
むしろ元からその髪色だったかのように違和感がないのは、見た目の良さがあるからだと美冬は思っている。
まるで二次元から飛び出してきた王子様のようだ。
本人がモデルをやっていてもおかしくないような美形なのである。そしてそのデザインも本人に負けず劣らず優美だ。
その二人を引き連れて、美冬は張り切ってコンペに挑んだのである。経営者として判断することは今までもあったけれど、会社の今後を左右するほどの話は初めてだった。
準備されていた会議室には30代から40代くらいの男性が六名、50代ほどの女性が一名が入ってきて、テーブルの周りに座る。
特に自己紹介的なものはなく、その中でも比較的若い眼鏡をかけた理知的な男性がにこりと笑って石丸を促した。
「準備ができたら、どうぞ?」
美冬はすう……と息を吸った。
「私は『ミルヴェイユ』の代表をしています、椿美冬です」
テーブルの周りの人のうち、数人が息を呑んで美冬を見たのが分かった。
美冬と一緒に来た石丸がプレゼンをするのだと思ったのだろう。
いつものことだ。美冬は慣れている。
「ミルヴェイユについてお話させていただきます」
女性なのかとか、若造がと思われても構わない。美冬は自分にできることをやる。
会社の理念や創業からの流れ、今回の話を受けた動機など準備した通りに美冬は話していく。
何人かはメモもしてくれているようだったし、時折深く頷いている様子も見えたので、感触は悪くないのかなと思った。
美冬は一時間ほどでプレゼンを終え、
「何かご質問はありますか?」
と締めに入る。
目つきの鋭い若い男性が手を挙げた。
「お願いします」
美冬が彼の方を見ると彼は腕を組んだ。
美冬はどきんとする。
それは別に彼が顔立ちが整っているどうのこうのではなくて、腕を組む、という行為自体が美冬達に対していい印象がない、と言う事だからだ。
「シナジー効果が見えない」
「はい?」
案の定硬くて冷たい声だ。
美冬は柔らかく笑顔を向けたが、正直怖い。彼の迫力に圧されそうで、それを一生懸命鼓舞しながら笑顔を作った。
「弊社が御社と手を結ぶに当たっての相乗効果だ」
「それは企業価値が上がれば……」
「曖昧なんだな。その企業価値を上げる具体的な方法論を聞きたい」
そこで、たった一人参加していた女性が手を挙げた。
「槙野さん、この会社はとても価値のある会社です。女性にとっての憧れを具現化している。そうね……男性にはお分かりにならない感覚かもしれないわ」
「木崎さん、それはどうだろうか?」
槙野と呼ばれた目付きの悪い男性と、女性の間で火花のようなものが散ったのが見えたような気が美冬にはした。
──え、えーと?
突然始まったその争いに美冬は戸惑う。すると、最初に口を開いた眼鏡の男性が口を挟んだ。
「ここでお話が決定するという訳ではない。椿さん、他社のお話もお伺いして決定することなのですよ。ただ、槙野が言うことも間違ってはいない。お話をお伺いすると、今まで他社との提携などはされていないようだし。椿さん、相乗効果というものを少し考えてみてほしい」
眼鏡の男性の穏やかな話し方に、美冬は頷いた。
「分かりました」
むしろ元からその髪色だったかのように違和感がないのは、見た目の良さがあるからだと美冬は思っている。
まるで二次元から飛び出してきた王子様のようだ。
本人がモデルをやっていてもおかしくないような美形なのである。そしてそのデザインも本人に負けず劣らず優美だ。
その二人を引き連れて、美冬は張り切ってコンペに挑んだのである。経営者として判断することは今までもあったけれど、会社の今後を左右するほどの話は初めてだった。
準備されていた会議室には30代から40代くらいの男性が六名、50代ほどの女性が一名が入ってきて、テーブルの周りに座る。
特に自己紹介的なものはなく、その中でも比較的若い眼鏡をかけた理知的な男性がにこりと笑って石丸を促した。
「準備ができたら、どうぞ?」
美冬はすう……と息を吸った。
「私は『ミルヴェイユ』の代表をしています、椿美冬です」
テーブルの周りの人のうち、数人が息を呑んで美冬を見たのが分かった。
美冬と一緒に来た石丸がプレゼンをするのだと思ったのだろう。
いつものことだ。美冬は慣れている。
「ミルヴェイユについてお話させていただきます」
女性なのかとか、若造がと思われても構わない。美冬は自分にできることをやる。
会社の理念や創業からの流れ、今回の話を受けた動機など準備した通りに美冬は話していく。
何人かはメモもしてくれているようだったし、時折深く頷いている様子も見えたので、感触は悪くないのかなと思った。
美冬は一時間ほどでプレゼンを終え、
「何かご質問はありますか?」
と締めに入る。
目つきの鋭い若い男性が手を挙げた。
「お願いします」
美冬が彼の方を見ると彼は腕を組んだ。
美冬はどきんとする。
それは別に彼が顔立ちが整っているどうのこうのではなくて、腕を組む、という行為自体が美冬達に対していい印象がない、と言う事だからだ。
「シナジー効果が見えない」
「はい?」
案の定硬くて冷たい声だ。
美冬は柔らかく笑顔を向けたが、正直怖い。彼の迫力に圧されそうで、それを一生懸命鼓舞しながら笑顔を作った。
「弊社が御社と手を結ぶに当たっての相乗効果だ」
「それは企業価値が上がれば……」
「曖昧なんだな。その企業価値を上げる具体的な方法論を聞きたい」
そこで、たった一人参加していた女性が手を挙げた。
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「木崎さん、それはどうだろうか?」
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──え、えーと?
突然始まったその争いに美冬は戸惑う。すると、最初に口を開いた眼鏡の男性が口を挟んだ。
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眼鏡の男性の穏やかな話し方に、美冬は頷いた。
「分かりました」
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