契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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2.ご褒美をくれると言ったくせに

ご褒美をくれると言ったくせに②

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 それでも自宅近くであれば美冬も助かるので、転院したと聞いて美冬は病院に駆け付けた。

「美冬……」
 祖父の弱々しい声を聞いて、さすがに心配になった美冬だ。

「おじいちゃん……大丈夫なの?」
「俺はいつ死ぬか分からん」
「え? おじいちゃん、何かお医者様に言われたの?」

 先ほど美冬は医師から説明を受けたが
『いやー、骨折以外は本当にお元気で……』
と言葉を濁されたところだ。

 わがままを言ったのかも知れないと青ざめた美冬は、担当医にひとしきり頭を下げてきたところである。

 その後の検査などで何か重大な病気でも発見されたのだろうか。

「え? いや骨さえ折れてなければ太鼓判を押してもいいほどの健康体だと言われたぞ」
 身体年齢は20歳は若いですよーと医師に言われたかなんかでご機嫌である。

 だったらちょっとくらい殴ってもいいかな?
 豪快に笑う祖父にちょっと殺意が芽生えた美冬なのだ。

「じゃあ、なんでそんないつ死ぬとか言う話になったのよ」

「いや……この年齢ともなれば、正直何が起きても不思議じゃないということが入院して分かった」
 まあ、矍鑠かくしゃくとした祖父だが、世間的には年齢を重ねていることも間違いではない。

「そうだなー、引退も考えなくてはいけないな……」
「え!? それは……」

 さすがにそこまでは話が進むとは思わなくて、美冬は言葉を失くした。

「美冬が結婚してくれたらなー……」
 ──出た……。

 ここ1、2年の祖父の流行りだ。ここ1、2年で百回は聞いたと思う。
 いや、百回は盛った。三十回くらいだったかも知れない。
 とにかく、なかなかの頻度で聞くようになったのだ。

「えーとね、おじいちゃん、結婚するには相手が必要なのよ?」
「美冬は俺に似てイケメンだろうが」
 おじいちゃん、それは男子に使う比喩でしょう。

「彼氏がいるならいつでも紹介していいんだぞ」
 むしろ紹介したい。いるなら。

「美冬……ミルヴェイユのことが好きか?」
「うん! 大好き!」
 好きかと聞かれれば即答できるくらい大好きだ。

「だったら、彼氏を連れてこい。このまま右肩下がりの経営は許されないぞ。経営状態を改善するか、彼氏を連れてきたら、社長にそのまま残すよう株主におじいちゃんが働きかけてやる」

 何!?突然のその訳の分からない天秤!!
「はあ!? そんなの横暴よ!」

「どこがだ? 経営できない社長を据えておくほどおじいちゃんは寛容じゃないぞ」
「私が会社を引き継いで2年よ。その前の業績不調までは私の責任じゃないでしょ」

 ミルヴェイユは業績不調ではない。経営状態は悪くはないのだ。ただ、緩く下がってきているだけで。
 だが、今の二人にはそんなことは関係なかった。

 美冬の反論にぐっと一瞬詰まった祖父だ。
 しかし祖父は真顔で美冬に言った。

「美冬、結婚か経営改善だ」
「結婚ー!? さっきまで彼氏と言っていたじゃない!」

 祖父はつーん、と横を向く。
「結婚か経営改善だ」

 悔しいことに祖父は筆頭株主だ。しかも株主にも経営陣にも顔が利く立場なのだ。
 祖父が美冬をクビにする、と言えばそれは可能なのである。

 

「杉村さん、経営改善ってなにかしら?」
「経営を良くするってことですか?」
 社長室で頭を抱えていた美冬に報告に来ていたマネージャーの杉村理恵すぎむらりえが美冬に書類を渡しながら淡々と返した。
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