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鳥籠から逃れた君を想う
鳥籠から逃れた君を想う③
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父は一瞬、ムッとした顔をしたが、圭一郎の呆れたような顔を見て諦めた。
「画像で狭窄部を確認しました。CABG(バイパス手術)でなくても、PCIでいけるそうです。」
「お前はどう思うんだ?」
父が今まで圭一郎の意見を聞くことなどなかったので、圭一郎も少し驚いた。
「PCIで良いかと」
「じゃあそれでいい」
妙に聞き分けが良くて、圭一郎としては少し背中がむずむずするくらいだ。
けれど、心配であったことも確かだ。
ある意味、画像を見て安心したところもある。
見えないものに、人は怯える。
あの時もそうだった。
珠月がいつ記憶を蘇らせるか……そんなことにも怯えていたような気がする。
2人でいたのに見えないものが多すぎて、いつそれを失うかを怖がって、閉じ込めることしかできなかった。
その対応が間違っている、と気づくこともできなかった。
しっかり見つめるべきだった。
それが見えれば、なんとか出来るものだったかもしれないのに。
病気もそれに近いものがあるな、圭一郎は思う。
見えないと、怖い。
見えれば手当てもできたのに。
今こうなっては、自嘲の笑みを浮かべることしか出来ない。
圭一郎は、ベッド脇の椅子に座った。
「尾永先生が後で画像を持ってきて下さるそうなのでお父さんも確認してください」
「分かった」
「いつからなんです?」
こうなるまでには兆候があったはずだ。
「正確には覚えていないが、1年ほど前だろうかな。もしかしてと思うような胸部痛はあったよ。けど、まさかと思ったしな」
「そんなに前から……」
「医師の不養生と言いたいんだろう。そんな顔をするな。処置が終わったら、別荘で大人しくしているよ」
「別荘……」
「お前が何日間も引きこもっていたのだし、休養するにはいい所だろう」
「そうですね。ごゆっくりされたらいいと思いますよ」
特に何の感情も込めずに、圭一郎はそう返した。
今となっては圭一郎にとって、取り返しのつかない逃げてしまった鳥の思い出のようなものなのだ。
「別荘で……お前は何を見たんだ?」
「佐々木から聞いていないですか?」
父は目を閉じた。
その静かな表情からはなにも分からない。
「女が……いるなら、分別をつけろと言ったのは私だ」
「鳥を……」
「鳥?」
「モノクロのような世界に住んでいた俺に、色をつけてくれた鳥がいたんです。その鳥を見ている時だけ、俺の世界には色がありました。その鳥を欲しいと思った時、その鳥が怪我をして俺の手の中に落ちてきた」
まるで手の中にその鳥がいるかのように、圭一郎はその手の平を見る。
「捕えずにはいられなかった」
けれど握られた手の平は、もしそこに小鳥がいたなら潰れてしまうのではないかと思うほど、強く握られている。
夢に浮かされているかのような、捉えどころのない瞳をする圭一郎を父はじっと見ていた。
「捕らえて、閉じ込めて……幸せだったんですよ。籠の中にいる時は、まるで自分のもののように思えたんです」
急にふと現実に戻ったかのように、圭一郎は父親の不安げな瞳をとらえる。
「鳥は逃げました」
「そうまでして欲しかったものというのは、簡単に諦めがつくものなのか?」
「どうでしょう……。戻ってきてしばらくは何もする気が起きませんでしたから、そういうことなんでしょうね」
圭一郎は、首元のチェーンに手を触れた。
仕事中は外しているものだが、帰るところだったのでかけていたのだ。
「もしその鳥をもう一度籠に入れられたら、圭一郎はどうするんだ?」
その仕草を見ながら、父は聞いた。
圭一郎はにこりと笑う。
「もう、籠から出さないでしょうね」
「画像で狭窄部を確認しました。CABG(バイパス手術)でなくても、PCIでいけるそうです。」
「お前はどう思うんだ?」
父が今まで圭一郎の意見を聞くことなどなかったので、圭一郎も少し驚いた。
「PCIで良いかと」
「じゃあそれでいい」
妙に聞き分けが良くて、圭一郎としては少し背中がむずむずするくらいだ。
けれど、心配であったことも確かだ。
ある意味、画像を見て安心したところもある。
見えないものに、人は怯える。
あの時もそうだった。
珠月がいつ記憶を蘇らせるか……そんなことにも怯えていたような気がする。
2人でいたのに見えないものが多すぎて、いつそれを失うかを怖がって、閉じ込めることしかできなかった。
その対応が間違っている、と気づくこともできなかった。
しっかり見つめるべきだった。
それが見えれば、なんとか出来るものだったかもしれないのに。
病気もそれに近いものがあるな、圭一郎は思う。
見えないと、怖い。
見えれば手当てもできたのに。
今こうなっては、自嘲の笑みを浮かべることしか出来ない。
圭一郎は、ベッド脇の椅子に座った。
「尾永先生が後で画像を持ってきて下さるそうなのでお父さんも確認してください」
「分かった」
「いつからなんです?」
こうなるまでには兆候があったはずだ。
「正確には覚えていないが、1年ほど前だろうかな。もしかしてと思うような胸部痛はあったよ。けど、まさかと思ったしな」
「そんなに前から……」
「医師の不養生と言いたいんだろう。そんな顔をするな。処置が終わったら、別荘で大人しくしているよ」
「別荘……」
「お前が何日間も引きこもっていたのだし、休養するにはいい所だろう」
「そうですね。ごゆっくりされたらいいと思いますよ」
特に何の感情も込めずに、圭一郎はそう返した。
今となっては圭一郎にとって、取り返しのつかない逃げてしまった鳥の思い出のようなものなのだ。
「別荘で……お前は何を見たんだ?」
「佐々木から聞いていないですか?」
父は目を閉じた。
その静かな表情からはなにも分からない。
「女が……いるなら、分別をつけろと言ったのは私だ」
「鳥を……」
「鳥?」
「モノクロのような世界に住んでいた俺に、色をつけてくれた鳥がいたんです。その鳥を見ている時だけ、俺の世界には色がありました。その鳥を欲しいと思った時、その鳥が怪我をして俺の手の中に落ちてきた」
まるで手の中にその鳥がいるかのように、圭一郎はその手の平を見る。
「捕えずにはいられなかった」
けれど握られた手の平は、もしそこに小鳥がいたなら潰れてしまうのではないかと思うほど、強く握られている。
夢に浮かされているかのような、捉えどころのない瞳をする圭一郎を父はじっと見ていた。
「捕らえて、閉じ込めて……幸せだったんですよ。籠の中にいる時は、まるで自分のもののように思えたんです」
急にふと現実に戻ったかのように、圭一郎は父親の不安げな瞳をとらえる。
「鳥は逃げました」
「そうまでして欲しかったものというのは、簡単に諦めがつくものなのか?」
「どうでしょう……。戻ってきてしばらくは何もする気が起きませんでしたから、そういうことなんでしょうね」
圭一郎は、首元のチェーンに手を触れた。
仕事中は外しているものだが、帰るところだったのでかけていたのだ。
「もしその鳥をもう一度籠に入れられたら、圭一郎はどうするんだ?」
その仕草を見ながら、父は聞いた。
圭一郎はにこりと笑う。
「もう、籠から出さないでしょうね」
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