君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

文字の大きさ
上 下
61 / 70
カチ、それはスイッチの入る音です

カチ、それはスイッチの入る音です②

しおりを挟む
「弟ですよ。この前、顔は見ましたよね」
「涼真さん、開けてあげましょう」
涼真がオートロックを解除する。

そのまま、玄関の鍵を開けに行った。
「涼真兄~」
「どうしたんだ?」

「俺のマンション帰ったら……てか、なんかすげーいい匂いする」
兄弟っぽいやりとりが微笑ましくて、思わず笑みが浮かんでしまう結衣だ。

「こんばんは」
結衣はキッチンから出て、ぺこりと頭を下げる。

「あ、この前の人だ。やっぱ可愛い」
「楓真、結衣さんは僕のなんで」

「分かってるよ。こんばんは。弟の蓮根楓真です」

「先日は失礼しました。高槻結衣です」

「結衣さん。よろしくお願いします」
楓真は、にこっと笑う笑顔が爽やかで可愛い。

「で、こんな時間にどうした?」
「そう!俺のマンション帰ったら、上の住人が風呂溢れさせたらしくて、水漏れしてたんだよー」

「え⁉︎」
「この時間だから管理会社には電話繋がんねえし、とりあえず避難させて」
「大丈夫か?」
「だいじょばねーよ。まあ、でも起こったもんは仕方ないからなぁ。先方の連絡先も聞いてきたから。どうやって対応すんのか、知らねーけど」

──うずうず……。
「賠責じゃないかな」
結衣はつい、ぽろっと言葉が出てしまう。
「結衣さん?」
楓真は目を丸くしている。

「このケースはお相手方に100%責任がありますから向こうに支払い義務がありますよね。賃貸なら必ず保険に入っていますから、補償はしてもらえると思いますよ。お相手の方ご本人が溢れさせたのなら賠責ですし、建物構造上の問題なら、別の保険です。でもどちらにしても現状復帰にご負担はないと思いますよ」
大丈夫と結衣はにっこり笑う。

お仕事モードの結衣を久々に見て、涼真は結衣に見蕩れている。

「ちょっと安心しました……けど、何者ですか?」
「通りすがりの保険会社の者です」

「結衣さん、ホントにあなた……素晴らしいですね」
うっとりとした、涼真の声。
いえ!一応、それが仕事なので!

「……というか、仕事モード素敵です」
そっちか……。

「ごめんなさい……。つい、スイッチ入ってしまった。あの、管理会社に連絡したらちゃんとしてくれると思いますけど、何かあれば言って下さい。アドバイスは出来るかも知れないので」
結衣はそう言って、楓真に笑顔を向ける。

「是非! 助かります!」
「結衣さんは無防備に笑顔を振り撒かないでください。楓真、その気になるなよ。結衣さんはお仕事モードだ」
涼真が楓真に釘を刺している。

「可愛いってのは、一般的な褒め言葉だよ。一般的に見て結衣さん可愛いじゃん。涼真兄がもう愛してやまないってのは分かってるんで揺らがないし、その気にはならないから」

仲良し兄弟なんだなあ。
見ていて、結衣はにこにこしてしまう。

何となく涼真を見ていると、独りで生きている感じがする。
けれどこんなに仲の良い兄弟がいて、歯に衣着せぬやり取りが出来る相手がいて、良かったと結衣は思うのだ。

「それにさぁ、なんなのそのさり気に色んなお揃い。見てるこっちがげんなりするんですけど」
「部屋着なんだから、構わないだろう」

「あー、さっきから、すっげーいい匂い! バタバタしてて、何も食ってないんだよ」
何も食べていない!と言う楓真に結衣はダイニングの椅子を勧めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

Perverse

伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない ただ一人の女として愛してほしいだけなの… あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる 触れ合う身体は熱いのに あなたの心がわからない… あなたは私に何を求めてるの? 私の気持ちはあなたに届いているの? 周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女 三崎結菜 × 口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男 柴垣義人 大人オフィスラブ

純真~こじらせ初恋の攻略法~

伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。 未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。 この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。 いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。 それなのに。 どうして今さら再会してしまったのだろう。 どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。 幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。

処理中です...