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カチ、それはスイッチの入る音です
カチ、それはスイッチの入る音です②
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「弟ですよ。この前、顔は見ましたよね」
「涼真さん、開けてあげましょう」
涼真がオートロックを解除する。
そのまま、玄関の鍵を開けに行った。
「涼真兄~」
「どうしたんだ?」
「俺のマンション帰ったら……てか、なんかすげーいい匂いする」
兄弟っぽいやりとりが微笑ましくて、思わず笑みが浮かんでしまう結衣だ。
「こんばんは」
結衣はキッチンから出て、ぺこりと頭を下げる。
「あ、この前の人だ。やっぱ可愛い」
「楓真、結衣さんは僕のなんで」
「分かってるよ。こんばんは。弟の蓮根楓真です」
「先日は失礼しました。高槻結衣です」
「結衣さん。よろしくお願いします」
楓真は、にこっと笑う笑顔が爽やかで可愛い。
「で、こんな時間にどうした?」
「そう!俺のマンション帰ったら、上の住人が風呂溢れさせたらしくて、水漏れしてたんだよー」
「え⁉︎」
「この時間だから管理会社には電話繋がんねえし、とりあえず避難させて」
「大丈夫か?」
「だいじょばねーよ。まあ、でも起こったもんは仕方ないからなぁ。先方の連絡先も聞いてきたから。どうやって対応すんのか、知らねーけど」
──うずうず……。
「賠責じゃないかな」
結衣はつい、ぽろっと言葉が出てしまう。
「結衣さん?」
楓真は目を丸くしている。
「このケースはお相手方に100%責任がありますから向こうに支払い義務がありますよね。賃貸なら必ず保険に入っていますから、補償はしてもらえると思いますよ。お相手の方ご本人が溢れさせたのなら賠責ですし、建物構造上の問題なら、別の保険です。でもどちらにしても現状復帰にご負担はないと思いますよ」
大丈夫と結衣はにっこり笑う。
お仕事モードの結衣を久々に見て、涼真は結衣に見蕩れている。
「ちょっと安心しました……けど、何者ですか?」
「通りすがりの保険会社の者です」
「結衣さん、ホントにあなた……素晴らしいですね」
うっとりとした、涼真の声。
いえ!一応、それが仕事なので!
「……というか、仕事モード素敵です」
そっちか……。
「ごめんなさい……。つい、スイッチ入ってしまった。あの、管理会社に連絡したらちゃんとしてくれると思いますけど、何かあれば言って下さい。アドバイスは出来るかも知れないので」
結衣はそう言って、楓真に笑顔を向ける。
「是非! 助かります!」
「結衣さんは無防備に笑顔を振り撒かないでください。楓真、その気になるなよ。結衣さんはお仕事モードだ」
涼真が楓真に釘を刺している。
「可愛いってのは、一般的な褒め言葉だよ。一般的に見て結衣さん可愛いじゃん。涼真兄がもう愛してやまないってのは分かってるんで揺らがないし、その気にはならないから」
仲良し兄弟なんだなあ。
見ていて、結衣はにこにこしてしまう。
何となく涼真を見ていると、独りで生きている感じがする。
けれどこんなに仲の良い兄弟がいて、歯に衣着せぬやり取りが出来る相手がいて、良かったと結衣は思うのだ。
「それにさぁ、なんなのそのさり気に色んなお揃い。見てるこっちがげんなりするんですけど」
「部屋着なんだから、構わないだろう」
「あー、さっきから、すっげーいい匂い! バタバタしてて、何も食ってないんだよ」
何も食べていない!と言う楓真に結衣はダイニングの椅子を勧めた。
「涼真さん、開けてあげましょう」
涼真がオートロックを解除する。
そのまま、玄関の鍵を開けに行った。
「涼真兄~」
「どうしたんだ?」
「俺のマンション帰ったら……てか、なんかすげーいい匂いする」
兄弟っぽいやりとりが微笑ましくて、思わず笑みが浮かんでしまう結衣だ。
「こんばんは」
結衣はキッチンから出て、ぺこりと頭を下げる。
「あ、この前の人だ。やっぱ可愛い」
「楓真、結衣さんは僕のなんで」
「分かってるよ。こんばんは。弟の蓮根楓真です」
「先日は失礼しました。高槻結衣です」
「結衣さん。よろしくお願いします」
楓真は、にこっと笑う笑顔が爽やかで可愛い。
「で、こんな時間にどうした?」
「そう!俺のマンション帰ったら、上の住人が風呂溢れさせたらしくて、水漏れしてたんだよー」
「え⁉︎」
「この時間だから管理会社には電話繋がんねえし、とりあえず避難させて」
「大丈夫か?」
「だいじょばねーよ。まあ、でも起こったもんは仕方ないからなぁ。先方の連絡先も聞いてきたから。どうやって対応すんのか、知らねーけど」
──うずうず……。
「賠責じゃないかな」
結衣はつい、ぽろっと言葉が出てしまう。
「結衣さん?」
楓真は目を丸くしている。
「このケースはお相手方に100%責任がありますから向こうに支払い義務がありますよね。賃貸なら必ず保険に入っていますから、補償はしてもらえると思いますよ。お相手の方ご本人が溢れさせたのなら賠責ですし、建物構造上の問題なら、別の保険です。でもどちらにしても現状復帰にご負担はないと思いますよ」
大丈夫と結衣はにっこり笑う。
お仕事モードの結衣を久々に見て、涼真は結衣に見蕩れている。
「ちょっと安心しました……けど、何者ですか?」
「通りすがりの保険会社の者です」
「結衣さん、ホントにあなた……素晴らしいですね」
うっとりとした、涼真の声。
いえ!一応、それが仕事なので!
「……というか、仕事モード素敵です」
そっちか……。
「ごめんなさい……。つい、スイッチ入ってしまった。あの、管理会社に連絡したらちゃんとしてくれると思いますけど、何かあれば言って下さい。アドバイスは出来るかも知れないので」
結衣はそう言って、楓真に笑顔を向ける。
「是非! 助かります!」
「結衣さんは無防備に笑顔を振り撒かないでください。楓真、その気になるなよ。結衣さんはお仕事モードだ」
涼真が楓真に釘を刺している。
「可愛いってのは、一般的な褒め言葉だよ。一般的に見て結衣さん可愛いじゃん。涼真兄がもう愛してやまないってのは分かってるんで揺らがないし、その気にはならないから」
仲良し兄弟なんだなあ。
見ていて、結衣はにこにこしてしまう。
何となく涼真を見ていると、独りで生きている感じがする。
けれどこんなに仲の良い兄弟がいて、歯に衣着せぬやり取りが出来る相手がいて、良かったと結衣は思うのだ。
「それにさぁ、なんなのそのさり気に色んなお揃い。見てるこっちがげんなりするんですけど」
「部屋着なんだから、構わないだろう」
「あー、さっきから、すっげーいい匂い! バタバタしてて、何も食ってないんだよ」
何も食べていない!と言う楓真に結衣はダイニングの椅子を勧めた。
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