君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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研修講師は未経験

研修講師は未経験④

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このセンターでは、5人ほどのリーダーの上に一人のコントローラーが付く。
とは言えリーダーはシフトでもあるので、全員が毎日顔を合わせる訳ではない。

佐野は夜勤を中心に見ている男性社員で、厳しいけれど裏表はない人だ。

普段はふざけてばかりの明るい人だが、一旦インカムを付けると、その低くてよく響く声で、動揺しているお客様を落ち着かせる天才だとも言われていた。

180センチを超える長身と体格が良いので、何か運動でもやっていたのかと思うが、本人曰くにスポーツとはほとんどご縁がないと言っていた。

ただ体調を整えるために、身体は鍛えてはいるらしい。

「高槻! お疲れ! ん? 誰かな?」
「佐野さんお疲れ様です。今、研修中の研修生さんです。夜勤の契約社員さんになる予定なんですよ」

「おー! ようこそ! 今日の夜勤の当番の佐野です」
「藤川です」
藤川は緊張した様子ながらも、一生懸命顔を上げ挨拶している。

結衣はその様子を見ていて、ついにこにこしてしまった。

「見学?」
「はい。少し見せてください。比較的落ち着いてるみたいですし」

「まあな。今のところは」
そう言って佐野はセンターの中を振り返った。
「男性……多いですね」
センター全体を見渡して、藤川がそう感想を言う。

「うん。夜勤は7割8割男性かな。手、空いてるから俺が案内してやるよ。大丈夫だよ、取って食わねーから」

なと佐野は藤川を連れていこうとする。
佐野は結衣の上席になるので預けても問題はない。

が、一瞬心細そうな顔で、藤川は結衣をちらっと見た。
そんな子犬のような目で……。

「15分くらいだよ。それくらいは結衣先生がいなくても、大丈夫だろ? ほら、高槻はメールチェックとかしてこい」
「お願いしまーす」

「藤川くん? 下の名前は?」
そんな風に聞きながら、佐野は藤川を案内し始めるそうして、結衣に大丈夫と言いたげに笑顔を向けた。
結衣も頭を下げる。

佐野らしい気づかいで、フリーになった結衣は、15分で今日の報告書の作成を終える。

リーディングルームには残業中の莉奈もいた。
「ご相談? どうだった?」
「佐野さんが案内してくれてる」

結衣のその言葉を聞いて、莉奈はリーディングルームの自分の席から立ち上がりガラス張りの外を見る。
「じゃあ、大丈夫かな。お、可愛い系男子だ」

藤川は佐野と手隙のセンター員と話をしていた。佐野は時間の空いている時は、センター員のサポートなどもしているから、その対応もしながら藤川に説明をしているようだ。

離れたところから見ていると、藤川は熱心に佐野の話を聞いているように見える。

そうこうしている内、一回りした佐野がリーディングルームをひょいっと覗いた。
「高槻どう? 終わりそう?」

「あと5分、10分です」
「了解。そうしたら屋上を案内してくるから。10分で戻る。莉奈、10分頼めるか?」
「はい! お任せください」

会社の最上階は社員用の休憩室だ。
最上階の3分の2は食堂兼用の休憩室で、残りは屋上庭園なのだ。
屋上庭園の一部は喫煙所が準備されている。

休憩室とは言うものの、中にコンビニがあるし食堂がないので、その施設がない分かなりの広さがある。

藤川もお昼休憩は取っているとは思うが、男性なりの別の視点での案内が、佐野ならば出来るかもしれない。



報告書を仕上げて、結衣は屋上に向かった。
屋上庭園で、2人でコーヒーを飲んでいるのが見える。

藤川の表情が先程よりも落ち着いて見えて、結衣は安心した。   
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