47 / 70
研修講師は未経験
研修講師は未経験③
しおりを挟む
「はい」
俯いていた藤川が、少しづつ顔を上げてくれる。
結衣は嬉しくなってきた。
「そうだ! 藤川さん、この後時間あります?」
「はい」
「もう、夜勤の方が出勤していると思うんですよね、コールセンターを覗いてみませんか?」
「え⁉︎」
「ご自身が勤務されるところですから、確認しておいてもいいんじゃないでしょうか?」
「いいんですか?」
それくらいは、結衣の権限内だ。
「どうぞ」
にこっと笑って、結衣は案内する。
「藤川さん、結構、背高いですね」
「デカいだけで、あんまりいいことはないんですけど」
エレベーターの中で隣合った藤川をふと見上げると、顔立ちが整っているのが見える。
けれど猫背気味だし、何やら自信がなさそうに見える。
「背、高いの気にしてるんですか?」
それで猫背なんだろうか。
「はい。それで目立つせいかじろじろ見られたりするので」
「それ、多分顔立ちのせいですよ」
「顔……ですか?」
結衣に言われたことがピンときていないみたいで、藤川は戸惑っている。
けれど、結衣の角度から見上げる藤川はとても綺麗で整った顔をしているのだ。
「うん。藤川さん、背高くて顔立ちが整っているから目立つんです。目立つの苦手なんですね?」
「整っているかは別にして。確かに見られるのはあまり得意じゃないかもです」
「そうですね。じゃあ例えば藤川さんをじっと見てくる人がいたら、まっすぐ見てちょっとだけ笑ってみてください。絶対目は逸らさないで。逸らしたくなるけど逸らしたら死ぬ! くらいの感じで逸らさない」
藤川は驚いているけれど、結衣はどんどん言葉を続ける。
若いから迷うことはたくさんあるだろうけれど、自分も先輩方にたくさん助けてもらったのだ。
今はそれを返す時でもあると思っている。
「藤川さんがそれをしたら、多分向こうが笑い返すか、目をそらすと思いますよ。あと髪切ってみて。眉が見えるくらいでもいいと思います。綺麗な顔立ちだし、眉も綺麗な形しているから」
「試してみます」
「うん! 藤川さん、穏やかでとてもいい声です。お電話の向こうの方は声でしか分からないから、藤川さんのその声質は相手を安心させるし、とてもいいと思いますよ」
「声……そんな風に言われたことないです」
「意識しない部分ですからね」
結衣はどうぞとコールセンターのドアを開けた。
藤川が緊張した面持ちで中に入る。
「個人情報などの問題もあるので、私からは離れないでくださいね」
「はい」
コールセンターの中を見た藤川が一瞬息を呑んだのが分かる。
200人は入れそうなホール並の広いフロアだ。それだけでも相当な迫力がある。
デスクは島のように点在していて、チームの対応をしているSVが歩き周り、デスク越しにスタッフ同士で分からないことを教え合ったり、リーダーに確認していたりする。
結衣は天井から吊るされている電光掲示版を確認した。
天井から吊るされている電光掲示版では、現在の待ち時間や対応時間を確認することができる。
待ちが点滅を始めたら、場合によっては他のセンターに電話を回したり、また他のセンターで対応しきれない場合は、結衣達のセンターに電話が回ってくることもある。
それを一目で確認できるのだ。
今は、コールの待ちはないようだ。
比較的手隙なようだった。
この日の当番の佐野太一が話しかけてくる。
佐野は、結衣のこのセンターでのOJT を担当してくれた社員だ。
そしてリーダーを束ねるコントローラーと呼ばれる立場でもある。
結衣の直属の上司となるのだ。
俯いていた藤川が、少しづつ顔を上げてくれる。
結衣は嬉しくなってきた。
「そうだ! 藤川さん、この後時間あります?」
「はい」
「もう、夜勤の方が出勤していると思うんですよね、コールセンターを覗いてみませんか?」
「え⁉︎」
「ご自身が勤務されるところですから、確認しておいてもいいんじゃないでしょうか?」
「いいんですか?」
それくらいは、結衣の権限内だ。
「どうぞ」
にこっと笑って、結衣は案内する。
「藤川さん、結構、背高いですね」
「デカいだけで、あんまりいいことはないんですけど」
エレベーターの中で隣合った藤川をふと見上げると、顔立ちが整っているのが見える。
けれど猫背気味だし、何やら自信がなさそうに見える。
「背、高いの気にしてるんですか?」
それで猫背なんだろうか。
「はい。それで目立つせいかじろじろ見られたりするので」
「それ、多分顔立ちのせいですよ」
「顔……ですか?」
結衣に言われたことがピンときていないみたいで、藤川は戸惑っている。
けれど、結衣の角度から見上げる藤川はとても綺麗で整った顔をしているのだ。
「うん。藤川さん、背高くて顔立ちが整っているから目立つんです。目立つの苦手なんですね?」
「整っているかは別にして。確かに見られるのはあまり得意じゃないかもです」
「そうですね。じゃあ例えば藤川さんをじっと見てくる人がいたら、まっすぐ見てちょっとだけ笑ってみてください。絶対目は逸らさないで。逸らしたくなるけど逸らしたら死ぬ! くらいの感じで逸らさない」
藤川は驚いているけれど、結衣はどんどん言葉を続ける。
若いから迷うことはたくさんあるだろうけれど、自分も先輩方にたくさん助けてもらったのだ。
今はそれを返す時でもあると思っている。
「藤川さんがそれをしたら、多分向こうが笑い返すか、目をそらすと思いますよ。あと髪切ってみて。眉が見えるくらいでもいいと思います。綺麗な顔立ちだし、眉も綺麗な形しているから」
「試してみます」
「うん! 藤川さん、穏やかでとてもいい声です。お電話の向こうの方は声でしか分からないから、藤川さんのその声質は相手を安心させるし、とてもいいと思いますよ」
「声……そんな風に言われたことないです」
「意識しない部分ですからね」
結衣はどうぞとコールセンターのドアを開けた。
藤川が緊張した面持ちで中に入る。
「個人情報などの問題もあるので、私からは離れないでくださいね」
「はい」
コールセンターの中を見た藤川が一瞬息を呑んだのが分かる。
200人は入れそうなホール並の広いフロアだ。それだけでも相当な迫力がある。
デスクは島のように点在していて、チームの対応をしているSVが歩き周り、デスク越しにスタッフ同士で分からないことを教え合ったり、リーダーに確認していたりする。
結衣は天井から吊るされている電光掲示版を確認した。
天井から吊るされている電光掲示版では、現在の待ち時間や対応時間を確認することができる。
待ちが点滅を始めたら、場合によっては他のセンターに電話を回したり、また他のセンターで対応しきれない場合は、結衣達のセンターに電話が回ってくることもある。
それを一目で確認できるのだ。
今は、コールの待ちはないようだ。
比較的手隙なようだった。
この日の当番の佐野太一が話しかけてくる。
佐野は、結衣のこのセンターでのOJT を担当してくれた社員だ。
そしてリーダーを束ねるコントローラーと呼ばれる立場でもある。
結衣の直属の上司となるのだ。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる