君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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研修講師は未経験

研修講師は未経験③

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「はい」
俯いていた藤川が、少しづつ顔を上げてくれる。
結衣は嬉しくなってきた。

「そうだ! 藤川さん、この後時間あります?」
「はい」

「もう、夜勤の方が出勤していると思うんですよね、コールセンターを覗いてみませんか?」
「え⁉︎」

「ご自身が勤務されるところですから、確認しておいてもいいんじゃないでしょうか?」
「いいんですか?」
それくらいは、結衣の権限内だ。

「どうぞ」
にこっと笑って、結衣は案内する。

「藤川さん、結構、背高いですね」
「デカいだけで、あんまりいいことはないんですけど」

エレベーターの中で隣合った藤川をふと見上げると、顔立ちが整っているのが見える。
けれど猫背気味だし、何やら自信がなさそうに見える。

「背、高いの気にしてるんですか?」
それで猫背なんだろうか。

「はい。それで目立つせいかじろじろ見られたりするので」
「それ、多分顔立ちのせいですよ」
「顔……ですか?」

結衣に言われたことがピンときていないみたいで、藤川は戸惑っている。
けれど、結衣の角度から見上げる藤川はとても綺麗で整った顔をしているのだ。

「うん。藤川さん、背高くて顔立ちが整っているから目立つんです。目立つの苦手なんですね?」
「整っているかは別にして。確かに見られるのはあまり得意じゃないかもです」

「そうですね。じゃあ例えば藤川さんをじっと見てくる人がいたら、まっすぐ見てちょっとだけ笑ってみてください。絶対目は逸らさないで。逸らしたくなるけど逸らしたら死ぬ! くらいの感じで逸らさない」

藤川は驚いているけれど、結衣はどんどん言葉を続ける。

若いから迷うことはたくさんあるだろうけれど、自分も先輩方にたくさん助けてもらったのだ。
今はそれを返す時でもあると思っている。

「藤川さんがそれをしたら、多分向こうが笑い返すか、目をそらすと思いますよ。あと髪切ってみて。眉が見えるくらいでもいいと思います。綺麗な顔立ちだし、眉も綺麗な形しているから」

「試してみます」
「うん! 藤川さん、穏やかでとてもいい声です。お電話の向こうの方は声でしか分からないから、藤川さんのその声質は相手を安心させるし、とてもいいと思いますよ」

「声……そんな風に言われたことないです」
「意識しない部分ですからね」

結衣はどうぞとコールセンターのドアを開けた。
藤川が緊張した面持ちで中に入る。

「個人情報などの問題もあるので、私からは離れないでくださいね」
「はい」

コールセンターの中を見た藤川が一瞬息を呑んだのが分かる。
200人は入れそうなホール並の広いフロアだ。それだけでも相当な迫力がある。

デスクは島のように点在していて、チームの対応をしているSVが歩き周り、デスク越しにスタッフ同士で分からないことを教え合ったり、リーダーに確認していたりする。

結衣は天井から吊るされている電光掲示版を確認した。

天井から吊るされている電光掲示版では、現在の待ち時間や対応時間を確認することができる。
待ちが点滅を始めたら、場合によっては他のセンターに電話を回したり、また他のセンターで対応しきれない場合は、結衣達のセンターに電話が回ってくることもある。

それを一目で確認できるのだ。
今は、コールの待ちはないようだ。
比較的手隙てすきなようだった。

この日の当番の佐野太一さのたいちが話しかけてくる。
佐野は、結衣のこのセンターでのOJT を担当してくれた社員だ。

そしてリーダーを束ねるコントローラーと呼ばれる立場でもある。
結衣の直属の上司となるのだ。
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