君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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研修講師は未経験

研修講師は未経験①

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「新人研修ですか?」
「うん。新人研修もリーダーの役目だし、そろそろ慣れてきたでしょう?」

結衣が日勤で出勤したところ、センター長に呼び出され言われたのがそのセリフだ。
確かに研修講師も今後やってもらうからとは聞いていた。

それ、今なのかぁ……。
センター長に資料をもらい、席に座っていつでも対応できるようにしながら、結衣は資料に目を通す。

ん……ここの言い回しは、専門的になりすぎるとわかりにくいかな。

書き込みをしたり、ラインを引いたりしながらチェックする。
驚きはしても、いざやると決めたら真っ直ぐに向き合う結衣なのだ。

「結衣先生!」
「にゃー?」
「何、その返事ー」

「ダレが結衣先生なのよ」
「そうやって呼ばれるし、生徒は可愛いんだよー。リーダーとは別に悩みとか相談されたりするんだから」

同僚の名塚莉奈なつかりなだった。
名塚莉奈が前回の講師で、今回は結衣なのだ。

研修講師も時間を取られるので、持ち回りで実施することになっている。
支払査定の部署でも結衣はOJTを行ってはいたけれど、数人を同時に教える講師は初めてだ。

センター長である野坂からは、今回はさほど人数は多くないとは聞いてはいるが、それでも緊張する。
会社から提供されている資料を人数分用意し、結衣は研修室へと向かった。

今回は8名の研修を結衣が行うのだ。
多い時で20名程と聞いているので、確かに少ないが、結衣としては自分で把握出来るギリギリの人数のように思った。

研修室のドアを開け、結衣が中に入ると、研修を受ける側も緊張している様子がひしひしと伝わってくる。

コールセンターには、経験者、未経験者、年齢も幅広く入ってくるのだ。
今回も下は24歳の深夜勤専門の未経験の契約社員で、上は40代の経験者のパートさんだ。
この幅広い生徒さん達を2週間で、当社のコール対応出来るまで育てるのが結衣の仕事である。

「では、資料をお配りしますね。いちばん上に今回の研修の日程と資料の内訳がありますので揃っているかご確認下さい」

今日は念の為にと研修室の後ろには、センター長の野坂が控えてくれている。
野坂はこの道10年以上の大ベテランで、この会社の各コールセンターを転々としながら現在の位置にいるという人だ。

コールセンターが大好きでお客様対応が好きで、これで食べていくと決意した時に、アナウンサーの専門学校まで通ったという経歴の持ち主で、結衣も今までの上司の中で指折りの尊敬できる上司である。

立ち姿も声も美しいその人は結衣に笑いかけて、サムアップしそっと部屋を出ていった。

良かった、まずは合格点らしい。
結衣は資料に沿って、研修を進める。   

比較的頭の冴えている午前中を座学に充てていて、午後は発声や機器に慣れてもらうよう、実際の機械と同じものを使用して研修する。

「皆様、午前中の座学は一日終わったらペーパーテストを実施しますので、こちらも真面目に受けて下さいね」
研修生からは、ええーっという声が上がる。

「大丈夫、大丈夫。真面目に受けてたらチョロいから」
結衣は手をひらひらさせて笑って見せた。
「高槻さん、見た目に反して厳しいですぅ」

「みんな、やってるので頑張りましょうね。ちなみに合格点に達しない方はお残りです」
結衣がにっこり笑うと、オニだぁぁ……と声が上がる。

ふふふー!楽しいなぁ。
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