君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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あの時のこちら側

あの時のこちら側①

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──そう言えば、ここ数ヶ月、私服で出かけることはなかったな。

蓮根はクローゼットの前で両腕を組んで、考える。

高槻結衣の正式な年齢は知らない。
先日、ランチを取り、自宅まで送り届けた際の私服はオフホワイトのニットワンピースで、彼女の清楚な雰囲気にとても似合っていた。

5~10歳位の年齢差だろうか。
全ての反応が初々しかったなと思い返すと、休みの日に会えることは楽しみで仕方ない。
本当にこんなことは、最近なかった気持ちだ。

行先は決めていた。
たまたま偶然なのだが数年前に購入したリゾートマンションが、結衣のセンターから1時間ほどの場所にある。

周りに観光地もあることは知っているが、行ったことはない。
そもそも、ここ数ヶ月間で久しぶりの休みなのだ。

『私でいいんですか?』
ドライブに行きたいと言ったらそんな返事があって、声に戸惑いがあった。

「結衣さんと行きたい」
『……っ!』
軽く、息を飲む音。

やはり、いい。
息を飲むそれだけでも……
いや、そんな風に駆り立てられるから堪らないのだ。

彼女にとってはたいして意味のない言葉かも知れない。
でも彼女から発せられるものであれば、意味があろうがなかろうが愛おしく感じるし、言ってくれる言葉には素直に喜べる。

可能であれば、もっと声を聞きたい。
けれど結衣は忙しいし、責任感もある。

蓮根は結衣の声が、本当に好きなのだ。

仕事仕様で澄ましている声も、自然に笑っている声も、すごーいと感心している声も。
そして困っている声も、吐息すら……。

蓮根は軽くため息をつく。
──キリがない。
本当に最初は声の持ち主が知りたいだけだった。
それが、出会ったらその姿にも惹かれてしまったのだ。

声だけでも完璧だったのに、最初個室に二人取り残されて、少し困ったような様子を見ていたら、もう少し話してみたくなった。

もっと聞かせてほしい。

仕事のときには、動揺したり困った様子は多分見せないはずだ。
あの時の感じから、仕事中はプロに徹していることは分かる。

実物は目の前で困ったりするのかと思うと当然なのだが、その戸惑っている様子は可愛くて愛おしくて、とても欲しくなってしまった。

最近、そのように思うことはなかった。
仕事が忙しかったし、適度に女性も側にいた。

今は仕事が忙しすぎて、そんな風に女性が欲しいとも思ったことはなかったし、必要な場合はすぐに呼び出せる割り切った関係の相手もいた。

だから、そんな気持ちになった自分に驚いたし、こんなことはいつ起こるか分からない。
そう思うと、なりふり構うつもりはなかった。

そんな、自分に苦笑したのだ。
一日だけでも、側にいたいだけ。
それが今後ももっと会いたいとなり、たまに話せるだけでもいい、がもっと会いたい、に変わって。

もっともっと、と欲しがる自分の欲しい気持ちは底無しな気がして、怖いと思いつつその深淵を覗いてみたいとも思う。

厄介だな。
嫌なら、いつでも拒まれて構わないのだ。それもやむない。
けれど結衣の優しい、思いやりある性格ではおそらく無理だろう。

蓮根はそれを察している。
(知ってて、引かないんですよ)

彼女の弱みにつけ込んででも、彼女が欲しい。
今は定期的に連絡をし、休みの日に会ってもらえる所まで来た。

次は、どうしましょうね……?
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