君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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月が綺麗ですね

月が綺麗ですね③

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『なぜ、どちらですか、なんてメールなんですか?』
それには答えないで結衣は笑いを堪えながら確認する。
「会社ですか?」

『ええ』
「外とか、見れます?」
『え……』
蓮根の声がとても、戸惑っている。

それだけでも、結衣は心の中でガッツポーズだ。
蓮根が驚くことなんてないから、ちょっとしたいたずらのようで、楽しい。

ブラインドカーテンが動いて、蓮根の姿が見えた。
結衣はひらひらっと手を振る。

さっとカーテンから、蓮根が姿を消した。
事務所は半地下が駐車場で、中二階の電気は消えていたが、その上の部屋の電気が着いていた。

恐らくそこが、蓮根のオフィスなのだろう。
「結衣さんっ!」
入口のドアが空いて、中から、蓮根が顔を出す。
お仕事モードなので、髪はキレイにオールバックで、少しだけ度が入っているはずの眼鏡。

仕事に邪魔なのか、ジャケットは脱いでいるけれど、ベストは着たままだ。
あ、やっぱ、お仕事モードすごく素敵かも。

「おつかれ様です! あ、これ差し入れです。お食事しました?」
「いや、まだ……」
蓮根はじいっと結衣を見ている。

ん? あれ? あまり嬉しくなかったかな?
蓮根にしてみたら、サプライズ過ぎて現実感がなくて、本当に結衣かどうか確認していたところだ。

(まさか、好きすぎて会いたすぎて蜃気楼とかでは……)
砂漠ではない。

「良かったらどうぞ。お仕事中ですよね! お邪魔して、ごめんなさい」
蓮根にデリの入った紙袋を押し付けて結衣はくるりと踵を返した。
「ちょっ……」
帰ろうとした腕を掴まれる。

「たくさん、ありますよ」
渡された紙袋を蓮根は掲げて見せた。
「んー、一応、多めに買ったんです。でも、邪魔しちゃ悪いなあって思いまして」
「邪魔になんて、なりませんよ。あなたって人はもう……」

「驚きました?」
「とてもね。けれど嬉しいです。せっかく来たのだし、会社の中を見学して一緒に頂きませんか? これ」
そう言って、蓮根が紙袋を再度掲げる。

結衣は嬉しくなって、ぎゅうっと蓮根の腕に掴まった。
「ぜひ!」

蓮根が中へと案内してくれる。ここがオフィスです、と見せてくれたのは中2階だ。先程暗かった部屋である。
手前は応接で、奥がオフィスなのだが、すでに職員は帰った後で中は暗い。
その上階に会議室と蓮根のオフィスがあるということだ。

「僕のオフィスで食べましょう」
「はい」
蓮根のオフィスは、中に入るとまず目につくのが、大きなデスクにパソコンのモニターが三面。

更にその横の脇机の上にも、ノートパソコンが置いてある。
資料が入っているとおぼしき、鍵付きのキャビネがいくつもある。顧客情報だろうか。

そして、専門書の入った本棚。簡易な応接セット。極めて、シンプルな内装だ。
なんというか、とても、らしいオフィスだった。

「つまんなくて、申し訳ないですね」
「いえ、シンプルでいいなぁって思いますけど」

「結衣さん」
「はい?」
「あなたは、僕を喜ばせるのがとても上手ですね」

オフィスの中を見学していた結衣を、蓮根が後ろから抱きしめる。

「声だけじゃなくて会いに来てくれるなんて嬉しい。僕のことを心配して、食事まで持ってきてくれて。この前の写メも、とても嬉しかった。大事に使っていますよ」

ん?使って……?

「えっと、涼真さん? 使って……?」
結衣は身体を捻って、後ろの蓮根を見る。

「ええ。結衣さん、ベッドの上でしたから、妄そ……いえ、想像が膨らんでしまって」

品良く微笑まないっ!!
妄想……って言おうとしてるから!

「使ってるんですか?」
「おや? つい……」
つい!? ついって? 本当なんだ、本当なんだー。

「でも、あなたにしか勃たないし、あなたでしか出せない。至極、健全ではないですか?」

「不健全なことに使っていますよね。本音、ダダ漏れていますけど、大丈夫ですか?」
「あなたに知られて困ることは何もありません」

きりっと蓮根に返されて、結衣は身体の力が抜けそうだった。

てか、逆に知りたくなかったし……。
隠していいんだ!むしろ、隠そう!!   
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