君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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月が綺麗ですね

月が綺麗ですね②

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そうやって蓮根のことを思うと、とても心が満たされてそれだけでも幸せな気持ちになるのだ。

「そうですね。確かに欲張りかも。でも涼真さんがいてくれるだけでも、私幸せかもしれないです」

『ん?』
よく響く、ん?と言う声。
そんな声を聞くだけで、結衣はため息が出そうだ。
「ほら、そうやって聞いてくれるし。夕焼け綺麗ですよって写メしたら、お返事とかくれるし。他愛ないことを聞いてくれるでしょ。で、それにお返事までくれるから」

『結衣さん……もう、あなたという人は……』
ふと気付くと、キーボードの音が止まっている。

お仕事大丈夫ですか?と聞こうと思ったら、はあっとため息の音が受話器から漏れてくる。
「涼真さん?」
『会いたいです……』

「えっと、私もですよ?」
少し照れくさかったけど、思い切って結衣は言ってみた。
変な人だけれども、蓮根はいつも正直で誠実だ。
だからそれに応えたい、と思うのだ。

『次に会ったらあなたを隅々まで奪いつくしますから、覚悟していて。結衣さんの声も身体も心も、全てを僕のものにしたい』
「そんなこと言われたら、すごくどきどきします……」

『ああ、いいですね。声が色っぽいですよ。結衣さん。堪らない』
「涼真さんもです。そんな声出されたら……」
聞いている結衣だってドキドキしてしまう。

ふっ……と笑った声が耳を掠めた。
結衣は、あ……と思った。

多分、いつものあの顔だ。

甘く結衣を見つめて、いつもはキリッとしている目元が、ふ……と緩んで口角がきゅっと上がる。
目尻に少しだけ皺が寄って、とても綺麗な笑顔をしているはずだ。
    
『来週末、楽しみにしています』
「はい。私も」
『結衣さん、約束。電話切ったら、写メ忘れずに送ってください』
そんな約束……?ふふっと、結衣は笑ってしまった。

「分かりました。約束、ね」
『おやすみなさい、結衣さん』
「お仕事頑張ってください」

結衣はあまり深く考えずベッドサイドで写メを撮り、おやすみなさいとメールアプリに添付して送った。

それに対しての返事が、
『これで来週まで頑張れるかも知れません。僕の結衣さん、おやすみなさい』
で、結衣はひとしきり照れてしまった。



その日結衣のシフトは早番だったのだ。

早朝6時から14時までというシフトで、夜番から日勤の繋ぎのような当番である。
とは言え、なかなかその時間には帰れないもので、16時まで残っていろいろやっていたところ、早く帰れと上司に言われてしまった。

小腹が空いたので、何か買って帰ろうかと思ったのだが、ふと思う。
(涼真さん、ちゃんと食べてるかな……)

昨日も遅い時間まで会社にいたようだし、取り損ねて、遅い時間になってしまうこともあると聞いていた。

(差し入れでも、持っていこうかな)

蓮根の事務所までは電車で一時間半ほどなので、買い物をすれば、夕食を取るのにちょうどいい位の時間ではないだろうか。

駅前で、いくつかデリカテッセンを選んで、結衣はご機嫌で電車に乗った。
しかし、いざ会社の前に行くと、足がすくんでしまって入れない。

外観がなかなか立派な、コンクリート打ちっぱなしのオシャレな建物なのだ。
そこに黒い看板。ライトがキレイに当たっている。

事務所かなぁとおぼしき部屋は全面のガラス張りのようだが、ブラインドカーテンが閉まっていて中は伺い知れない。

──メールでも、しようかな。

『今、どちらですか?』
少し迷って結衣はそんなメールを送る。
『仕事、終わったの? お疲れ様』
相変わらずの即レスだ。

ぴるるっ!と携帯がなる。驚いた結衣は慌てて電話を取ってしまった。
『終わったんですか?』
「はい」
『メールを下さったから声が聞きたくてつい電話してしまいました』

声を聞きたいから、とすぐ電話をかけてくるところが、結衣にはくすぐったい。
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