21 / 70
したいからする
したいからする①
しおりを挟む
「そうだ、今日のお寺、お茶が頂けるんですよ。お薄ですけど。予約したのでそれもどうですか?」
お寺でお茶!……でもまあそうか、と結衣は思い直す。
もともと茶道はお坊さんが伝えたものだ。お寺で頂けることは不思議ではない。
「作法とかあまり知りませんけど」
なんとなくの飲み方は学生の時に体験授業でやったけれど、正式な作法は知らない。
そう言った結衣に蓮根は運転しながら返した。
「大丈夫です。僕も知らないので。聞きながら一緒にやりましょう。解説しながら立てて下さるそうですよ」
「う……頑張ります」
ふふっと、蓮根が笑っている。
「何事も正面から取り組むんですね。本当に可愛い」
好奇心旺盛なのは、認める。
そのお寺はさすがに景勝地と呼ばれるだけのことはあり、お茶室までの渡り廊下から見る外の景色は素晴らしいものだった。
少し高台にあり田畑や海が一望できる。
素朴で綺麗な風景だ。
お茶室から望む庭は、完璧に手入れされており渡り廊下の素朴な風景とはまた違う。
お寺の人がお茶の用意をしてくれている間、二人で横に座って庭を眺めていた。
ふと横を見ると蓮根は自然にすっきりと背筋を伸ばして座っている。
整った綺麗な横顔に、思わず見とれそうになった。
そうして自然体でそこにいる蓮根を見て、結衣もすうっと気持ちが落ち着いた。
とても、静かな時間だ。
結衣には初めての経験だったけれど、その清浄な雰囲気は良いなと思う。
その後お茶を頂きながら庭などの解説をしてもらい、結衣がお茶の作法が分からないと言うと、丁寧に教えてもらいながら楽しい時間を過ごした。
対応して下さったお寺の方にお礼を言って、結衣と蓮根は車に向かう。
「どうでしたか?」
車に乗る時に蓮根に聞かれた。
「とても、素晴らしかったです。ありがとうございます」
蓮根がにこりと笑う。
「喜んで頂けて良かった」
(あ……)
結衣はどきっとする。
蓮根が本当に嬉しそうなのが分かるから。
心からの素直な笑顔が本当に綺麗だ。ただでさえ整った顔立ちだから尚更。
すごく純粋で真っ直ぐな人なのかも。
先日から結衣を喜ばせることばかりを考えていて、結衣が喜ぶと一緒に喜んでくれる。
「蓮根さんは、いかがだったんですか?」
「あなたが初めての体験だと言うので、その初めてを一緒に過ごせた幸せを噛み締めていました」
そこかー……。
まあ、ある意味まっすぐだよ。
方向性は別にしてね!
清浄な雰囲気とか……感動した気持ちを返してほしい。
もー、初めての体験とか……よこしま過ぎて、申し訳ない気持ちになるよ。
そんな結衣の気持ちにはお構いなしで、車のドアを開けた蓮根が車越しに結衣に尋ねる。
「さっき海、見えましたよね。行ってみませんか?」
確かにお寺から見えた。
「行きたいです!」
秋も終わりかけの海は、あまり人はいない。
天気が良くて幸いだ。
車を駐車場に停めて、結衣は海に向かって駆け寄る。
海なんて久しく来ていないし、なんだかはしゃいでしまうのだ。
「音がすごいですね!」
波打ち際で結衣は蓮根を振り返った。
「波の音ですか?」
「はい。けど、落ち着きます。自然って、いいですよね」
「そうですね」
そう言って、蓮根は結衣の手を握る。
「転ぶといけませんから」
「転びませんよ」
そうは言ったけれど、結衣は振りほどくことは出来ない。
お寺でお茶!……でもまあそうか、と結衣は思い直す。
もともと茶道はお坊さんが伝えたものだ。お寺で頂けることは不思議ではない。
「作法とかあまり知りませんけど」
なんとなくの飲み方は学生の時に体験授業でやったけれど、正式な作法は知らない。
そう言った結衣に蓮根は運転しながら返した。
「大丈夫です。僕も知らないので。聞きながら一緒にやりましょう。解説しながら立てて下さるそうですよ」
「う……頑張ります」
ふふっと、蓮根が笑っている。
「何事も正面から取り組むんですね。本当に可愛い」
好奇心旺盛なのは、認める。
そのお寺はさすがに景勝地と呼ばれるだけのことはあり、お茶室までの渡り廊下から見る外の景色は素晴らしいものだった。
少し高台にあり田畑や海が一望できる。
素朴で綺麗な風景だ。
お茶室から望む庭は、完璧に手入れされており渡り廊下の素朴な風景とはまた違う。
お寺の人がお茶の用意をしてくれている間、二人で横に座って庭を眺めていた。
ふと横を見ると蓮根は自然にすっきりと背筋を伸ばして座っている。
整った綺麗な横顔に、思わず見とれそうになった。
そうして自然体でそこにいる蓮根を見て、結衣もすうっと気持ちが落ち着いた。
とても、静かな時間だ。
結衣には初めての経験だったけれど、その清浄な雰囲気は良いなと思う。
その後お茶を頂きながら庭などの解説をしてもらい、結衣がお茶の作法が分からないと言うと、丁寧に教えてもらいながら楽しい時間を過ごした。
対応して下さったお寺の方にお礼を言って、結衣と蓮根は車に向かう。
「どうでしたか?」
車に乗る時に蓮根に聞かれた。
「とても、素晴らしかったです。ありがとうございます」
蓮根がにこりと笑う。
「喜んで頂けて良かった」
(あ……)
結衣はどきっとする。
蓮根が本当に嬉しそうなのが分かるから。
心からの素直な笑顔が本当に綺麗だ。ただでさえ整った顔立ちだから尚更。
すごく純粋で真っ直ぐな人なのかも。
先日から結衣を喜ばせることばかりを考えていて、結衣が喜ぶと一緒に喜んでくれる。
「蓮根さんは、いかがだったんですか?」
「あなたが初めての体験だと言うので、その初めてを一緒に過ごせた幸せを噛み締めていました」
そこかー……。
まあ、ある意味まっすぐだよ。
方向性は別にしてね!
清浄な雰囲気とか……感動した気持ちを返してほしい。
もー、初めての体験とか……よこしま過ぎて、申し訳ない気持ちになるよ。
そんな結衣の気持ちにはお構いなしで、車のドアを開けた蓮根が車越しに結衣に尋ねる。
「さっき海、見えましたよね。行ってみませんか?」
確かにお寺から見えた。
「行きたいです!」
秋も終わりかけの海は、あまり人はいない。
天気が良くて幸いだ。
車を駐車場に停めて、結衣は海に向かって駆け寄る。
海なんて久しく来ていないし、なんだかはしゃいでしまうのだ。
「音がすごいですね!」
波打ち際で結衣は蓮根を振り返った。
「波の音ですか?」
「はい。けど、落ち着きます。自然って、いいですよね」
「そうですね」
そう言って、蓮根は結衣の手を握る。
「転ぶといけませんから」
「転びませんよ」
そうは言ったけれど、結衣は振りほどくことは出来ない。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる