君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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したいからする

したいからする①

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「そうだ、今日のお寺、お茶が頂けるんですよ。お薄ですけど。予約したのでそれもどうですか?」
お寺でお茶!……でもまあそうか、と結衣は思い直す。
もともと茶道はお坊さんが伝えたものだ。お寺で頂けることは不思議ではない。
「作法とかあまり知りませんけど」

なんとなくの飲み方は学生の時に体験授業でやったけれど、正式な作法は知らない。
そう言った結衣に蓮根は運転しながら返した。
「大丈夫です。僕も知らないので。聞きながら一緒にやりましょう。解説しながら立てて下さるそうですよ」
「う……頑張ります」

ふふっと、蓮根が笑っている。
「何事も正面から取り組むんですね。本当に可愛い」

好奇心旺盛なのは、認める。



そのお寺はさすがに景勝地と呼ばれるだけのことはあり、お茶室までの渡り廊下から見る外の景色は素晴らしいものだった。

少し高台にあり田畑や海が一望できる。
素朴で綺麗な風景だ。

お茶室から望む庭は、完璧に手入れされており渡り廊下の素朴な風景とはまた違う。
お寺の人がお茶の用意をしてくれている間、二人で横に座って庭を眺めていた。

ふと横を見ると蓮根は自然にすっきりと背筋を伸ばして座っている。
整った綺麗な横顔に、思わず見とれそうになった。
そうして自然体でそこにいる蓮根を見て、結衣もすうっと気持ちが落ち着いた。

とても、静かな時間だ。

結衣には初めての経験だったけれど、その清浄な雰囲気は良いなと思う。

その後お茶を頂きながら庭などの解説をしてもらい、結衣がお茶の作法が分からないと言うと、丁寧に教えてもらいながら楽しい時間を過ごした。

対応して下さったお寺の方にお礼を言って、結衣と蓮根は車に向かう。

「どうでしたか?」
車に乗る時に蓮根に聞かれた。
「とても、素晴らしかったです。ありがとうございます」

蓮根がにこりと笑う。
「喜んで頂けて良かった」
(あ……)
結衣はどきっとする。

蓮根が本当に嬉しそうなのが分かるから。
心からの素直な笑顔が本当に綺麗だ。ただでさえ整った顔立ちだから尚更。

すごく純粋で真っ直ぐな人なのかも。
先日から結衣を喜ばせることばかりを考えていて、結衣が喜ぶと一緒に喜んでくれる。

「蓮根さんは、いかがだったんですか?」

「あなたが初めての体験だと言うので、その初めてを一緒に過ごせた幸せを噛み締めていました」

そこかー……。

まあ、ある意味まっすぐだよ。
方向性は別にしてね!

清浄な雰囲気とか……感動した気持ちを返してほしい。
もー、初めての体験とか……よこしま過ぎて、申し訳ない気持ちになるよ。

そんな結衣の気持ちにはお構いなしで、車のドアを開けた蓮根が車越しに結衣に尋ねる。
「さっき海、見えましたよね。行ってみませんか?」
確かにお寺から見えた。
「行きたいです!」



秋も終わりかけの海は、あまり人はいない。
天気が良くて幸いだ。
車を駐車場に停めて、結衣は海に向かって駆け寄る。
海なんて久しく来ていないし、なんだかはしゃいでしまうのだ。

「音がすごいですね!」
波打ち際で結衣は蓮根を振り返った。
「波の音ですか?」
「はい。けど、落ち着きます。自然って、いいですよね」
「そうですね」

そう言って、蓮根は結衣の手を握る。
「転ぶといけませんから」
「転びませんよ」
そうは言ったけれど、結衣は振りほどくことは出来ない。
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