君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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個別案件

個別案件③

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やってきた土曜日である。
天気は快晴で絶好のお出かけ日和だった。

「結衣さん!」
結衣のマンションの前に高級外車で乗り付け手を振っている蓮根を見て、ちょっとだけ引き返したくなる結衣だ。

すっごい、いい笑顔で出待ちしてる……。
「今日も可愛いですね」

大柄なチェックのフレアミニ、とベージュのタートルネックにタイツとブーツ、という至ってシンプルな服装なのだが。

どうぞ、と助手席を開けてくれる蓮根は、変態を除けば完璧な紳士だ。

コート預かりますよと、とても優しい。
笑顔も素敵だし。
ん?と首を傾げる表情は大人なのに、無邪気できゅんとする。


「車で1時間くらいですけど、ここ、知ってますか?」
車に乗ると、早速スマートフォンで場所を見せてくれた。
それは景勝地として、有名なお寺だ。

「聞いた事あります。でも行ったことない」
「じゃあ、ここから。あ、その前に今日も安全運転しますから、お約束のハグして下さい」
いつの間にか、ルールにされているし。

なんだか蓮根がとても幸せそうなので、結衣は、ま、いっか……となり、きゅっと抱きつく。

「結衣さん……。会いたかった」
きゅっと胸の中に抱き込まれると、つい、ほだされそうになる。

くんくんくん……
ん?

「あ、の……何してるんです?」
匂いを嗅がれているような気がするのだけれど?

結衣は蓮根をがっ!と引き離す。

「いえ、あなたは声だけじゃなくて、匂いも素敵なんです」

無理くり引き剥がされたからって、そんな切ない顔してもダメだ!
なに、その引き絞るような声……っ!!

「つい……」
ついって何だ、ついって。

「行きましょうか?」
結衣は笑顔を向ける。
「はい」
何事もなかったように蓮根に笑顔を返される。
ご機嫌な蓮根はエンジンをかけ、ハンドルを握った。

なんだろうか?
出発前からどっと疲れたのだけれど。

「暑かったり、寒かったらすぐ言って下さいね」
助手席の結衣に蓮根は気遣って声を掛けてくれる。
こういうところはホント完璧!なのに。
久しぶりに会ったら、変態がエスカレートしてない⁉︎ 

蓮根は眼鏡を掛けてから、エンジンをかける。
「あれ? 目、悪いんですか?」
そう言えば最初に会った時は、眼鏡かけていたけど、休日はしてなかった。

「少しだけ。普段はいいんですけど、運転する時と仕事中はかけるようにしています。あと、紫外線カットも」

「ドライブ、よく行くんですか?」
「運転は好きなんですけどね、なかなか時間が。だから今日は運転する口実も頂けて、結衣さんに感謝していますよ。結衣さん、運転しないんですか?」

「免許はあるけど、運転しないですねえ。今のところも会社までは徒歩で行けるし」
「歩いて?」

「まあ、何かあったら、すぐ、行かなきゃですからね。公共交通機関が止まってるからコール受けません、てのはちょっとね」
お客様の万が一に対応出来ないようではダメだと結衣は思うのだ。

「真面目なんですね」
運転席の蓮根からは感心したような声が聞こえる。
「一応、他よりお給料頂いてるので、そんなことくらいはしないと」

「責任感が強い。素敵ですよ」
「蓮根先生もお忙しいって仰ってましたよね?」

「本当に。僕は税理士なんて季節労働者だからと聞いていたんですよ。ただ、師匠は忙しい人でしたけど。でも独立して師匠のお客様を引き継いで、そのご縁でまた仕事を頂いてってしてたら、とんでもないことになっています」

話の内容を聞いていると、蓮根はサラッと言っているけれど、実はとても多忙な人なのではないかと結衣は思った。

「無理、しませんでした? 今日……」
「正直に言うとちょっとだけ。でもリフレッシュも必要ですし。お陰でとても頑張れましたから」

(そっかぁ。忙しいのに、日にち開けてくれたんだ……)

「やりがいはあるんですよ? それなりに」
「大変だけどやりがいあるっていいですよね」
「結衣さんもでしょう? でなきゃ、会社に徒歩で行ける距離でなんて家借りないでしょ」

確かにそうかもしれない。
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