20 / 70
個別案件
個別案件③
しおりを挟む
やってきた土曜日である。
天気は快晴で絶好のお出かけ日和だった。
「結衣さん!」
結衣のマンションの前に高級外車で乗り付け手を振っている蓮根を見て、ちょっとだけ引き返したくなる結衣だ。
すっごい、いい笑顔で出待ちしてる……。
「今日も可愛いですね」
大柄なチェックのフレアミニ、とベージュのタートルネックにタイツとブーツ、という至ってシンプルな服装なのだが。
どうぞ、と助手席を開けてくれる蓮根は、変態を除けば完璧な紳士だ。
コート預かりますよと、とても優しい。
笑顔も素敵だし。
ん?と首を傾げる表情は大人なのに、無邪気できゅんとする。
「車で1時間くらいですけど、ここ、知ってますか?」
車に乗ると、早速スマートフォンで場所を見せてくれた。
それは景勝地として、有名なお寺だ。
「聞いた事あります。でも行ったことない」
「じゃあ、ここから。あ、その前に今日も安全運転しますから、お約束のハグして下さい」
いつの間にか、ルールにされているし。
なんだか蓮根がとても幸せそうなので、結衣は、ま、いっか……となり、きゅっと抱きつく。
「結衣さん……。会いたかった」
きゅっと胸の中に抱き込まれると、つい、ほだされそうになる。
くんくんくん……
ん?
「あ、の……何してるんです?」
匂いを嗅がれているような気がするのだけれど?
結衣は蓮根をがっ!と引き離す。
「いえ、あなたは声だけじゃなくて、匂いも素敵なんです」
無理くり引き剥がされたからって、そんな切ない顔してもダメだ!
なに、その引き絞るような声……っ!!
「つい……」
ついって何だ、ついって。
「行きましょうか?」
結衣は笑顔を向ける。
「はい」
何事もなかったように蓮根に笑顔を返される。
ご機嫌な蓮根はエンジンをかけ、ハンドルを握った。
なんだろうか?
出発前からどっと疲れたのだけれど。
「暑かったり、寒かったらすぐ言って下さいね」
助手席の結衣に蓮根は気遣って声を掛けてくれる。
こういうところはホント完璧!なのに。
久しぶりに会ったら、変態がエスカレートしてない⁉︎
蓮根は眼鏡を掛けてから、エンジンをかける。
「あれ? 目、悪いんですか?」
そう言えば最初に会った時は、眼鏡かけていたけど、休日はしてなかった。
「少しだけ。普段はいいんですけど、運転する時と仕事中はかけるようにしています。あと、紫外線カットも」
「ドライブ、よく行くんですか?」
「運転は好きなんですけどね、なかなか時間が。だから今日は運転する口実も頂けて、結衣さんに感謝していますよ。結衣さん、運転しないんですか?」
「免許はあるけど、運転しないですねえ。今のところも会社までは徒歩で行けるし」
「歩いて?」
「まあ、何かあったら、すぐ、行かなきゃですからね。公共交通機関が止まってるからコール受けません、てのはちょっとね」
お客様の万が一に対応出来ないようではダメだと結衣は思うのだ。
「真面目なんですね」
運転席の蓮根からは感心したような声が聞こえる。
「一応、他よりお給料頂いてるので、そんなことくらいはしないと」
「責任感が強い。素敵ですよ」
「蓮根先生もお忙しいって仰ってましたよね?」
「本当に。僕は税理士なんて季節労働者だからと聞いていたんですよ。ただ、師匠は忙しい人でしたけど。でも独立して師匠のお客様を引き継いで、そのご縁でまた仕事を頂いてってしてたら、とんでもないことになっています」
話の内容を聞いていると、蓮根はサラッと言っているけれど、実はとても多忙な人なのではないかと結衣は思った。
「無理、しませんでした? 今日……」
「正直に言うとちょっとだけ。でもリフレッシュも必要ですし。お陰でとても頑張れましたから」
(そっかぁ。忙しいのに、日にち開けてくれたんだ……)
「やりがいはあるんですよ? それなりに」
「大変だけどやりがいあるっていいですよね」
「結衣さんもでしょう? でなきゃ、会社に徒歩で行ける距離でなんて家借りないでしょ」
確かにそうかもしれない。
天気は快晴で絶好のお出かけ日和だった。
「結衣さん!」
結衣のマンションの前に高級外車で乗り付け手を振っている蓮根を見て、ちょっとだけ引き返したくなる結衣だ。
すっごい、いい笑顔で出待ちしてる……。
「今日も可愛いですね」
大柄なチェックのフレアミニ、とベージュのタートルネックにタイツとブーツ、という至ってシンプルな服装なのだが。
どうぞ、と助手席を開けてくれる蓮根は、変態を除けば完璧な紳士だ。
コート預かりますよと、とても優しい。
笑顔も素敵だし。
ん?と首を傾げる表情は大人なのに、無邪気できゅんとする。
「車で1時間くらいですけど、ここ、知ってますか?」
車に乗ると、早速スマートフォンで場所を見せてくれた。
それは景勝地として、有名なお寺だ。
「聞いた事あります。でも行ったことない」
「じゃあ、ここから。あ、その前に今日も安全運転しますから、お約束のハグして下さい」
いつの間にか、ルールにされているし。
なんだか蓮根がとても幸せそうなので、結衣は、ま、いっか……となり、きゅっと抱きつく。
「結衣さん……。会いたかった」
きゅっと胸の中に抱き込まれると、つい、ほだされそうになる。
くんくんくん……
ん?
「あ、の……何してるんです?」
匂いを嗅がれているような気がするのだけれど?
結衣は蓮根をがっ!と引き離す。
「いえ、あなたは声だけじゃなくて、匂いも素敵なんです」
無理くり引き剥がされたからって、そんな切ない顔してもダメだ!
なに、その引き絞るような声……っ!!
「つい……」
ついって何だ、ついって。
「行きましょうか?」
結衣は笑顔を向ける。
「はい」
何事もなかったように蓮根に笑顔を返される。
ご機嫌な蓮根はエンジンをかけ、ハンドルを握った。
なんだろうか?
出発前からどっと疲れたのだけれど。
「暑かったり、寒かったらすぐ言って下さいね」
助手席の結衣に蓮根は気遣って声を掛けてくれる。
こういうところはホント完璧!なのに。
久しぶりに会ったら、変態がエスカレートしてない⁉︎
蓮根は眼鏡を掛けてから、エンジンをかける。
「あれ? 目、悪いんですか?」
そう言えば最初に会った時は、眼鏡かけていたけど、休日はしてなかった。
「少しだけ。普段はいいんですけど、運転する時と仕事中はかけるようにしています。あと、紫外線カットも」
「ドライブ、よく行くんですか?」
「運転は好きなんですけどね、なかなか時間が。だから今日は運転する口実も頂けて、結衣さんに感謝していますよ。結衣さん、運転しないんですか?」
「免許はあるけど、運転しないですねえ。今のところも会社までは徒歩で行けるし」
「歩いて?」
「まあ、何かあったら、すぐ、行かなきゃですからね。公共交通機関が止まってるからコール受けません、てのはちょっとね」
お客様の万が一に対応出来ないようではダメだと結衣は思うのだ。
「真面目なんですね」
運転席の蓮根からは感心したような声が聞こえる。
「一応、他よりお給料頂いてるので、そんなことくらいはしないと」
「責任感が強い。素敵ですよ」
「蓮根先生もお忙しいって仰ってましたよね?」
「本当に。僕は税理士なんて季節労働者だからと聞いていたんですよ。ただ、師匠は忙しい人でしたけど。でも独立して師匠のお客様を引き継いで、そのご縁でまた仕事を頂いてってしてたら、とんでもないことになっています」
話の内容を聞いていると、蓮根はサラッと言っているけれど、実はとても多忙な人なのではないかと結衣は思った。
「無理、しませんでした? 今日……」
「正直に言うとちょっとだけ。でもリフレッシュも必要ですし。お陰でとても頑張れましたから」
(そっかぁ。忙しいのに、日にち開けてくれたんだ……)
「やりがいはあるんですよ? それなりに」
「大変だけどやりがいあるっていいですよね」
「結衣さんもでしょう? でなきゃ、会社に徒歩で行ける距離でなんて家借りないでしょ」
確かにそうかもしれない。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる