君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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個別案件

個別案件②

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「結衣ちゃん、ちょっと言ってること分かんないけど」
「萌え?」

「んー、センター内にはいますよ。声優さんが好きって人とか」
「それはプロだもんねぇ。萌えだなあ。莉奈ちゃんは? そーゆーのないの?」

──萌え!?萌えについて語ればいいの?
結衣の意図が読めず、なんとなく語り出す莉奈だ。どっちも割とお酒が入っている。

「私の萌えは鎖骨と腕かなぁ。普段隠れているでしょ。たまにちらっと見えるときゅんとするんだよね。シャツの隙間とか、袖の端からとか! あれ? 結衣さん声フェチだった? そんなこと聞いた事なかったよね?」

「声フェチではない」
キッパリと結衣は言い切る。

(つまり、声フェチとは蓮根先生みたいな人のことで、約款でもいいとか、そういう事を言い出す人でしょ!? そんな風には思わないもんっ)

「私、結衣さん伝説、聞いたことあります」
急に莉奈はそんなことを言い出した。
「何それ?」
結衣はキョトンとする。自分が伝説になってるなど聞いたことはない。

「お客様とお電話してて、対応が完了するとき、あなたと話せなくなるのが嫌だと言われたとか」

それは事実だ。
すごいごねられて困った。もう保険金請求なんかしない!まで言い出したのだ。
結局上司が説得し、書類は問題なく揃ったが。

「お褒めが一転して、クレームになるところよ」
「神対応といわれてますもんね」

「私はいいんだよね、ある意味プロだから。けど、お客様に……ってのははどーなのよ」
「え? お客様? そんな素敵な声の持ち主いるんですか?」
莉奈が食いつく。

「そーだよね! 仕事だとそうなるじゃない?私だって今まで、そんなんなったことない!」
「んー、個別案件ってことですよね? それはー……」

個別案件……それは通常案件とは別のものだ。その表現は今の結衣の気分にぴったりだった。

──個別案件!そうかー、個別案件かぁ。

「ログ、聞いてみたいなー」
「聞けるよ。報告書作ったやつだから」

蓮根の件はクレームではなかったけれど、その後SVに引き継いだ案件は、報告書が必要なのだ。
「クレーマーなんですか?」
「いや? 通常対応だったよ。ただ、後日ご本人にお会いして……」

「なんで⁉︎  なんでそんなことが起こるんですか? 運命ですか? 運命なんですね?」

なんで、この子がこんなに興奮してんの!?

「なんかー、それだけ聞いてたら運命じゃないですか! それはきゅんきゅんしますよー」
「向こうはガチの声フェチなんだよね」

結衣もまさかレコーダーで録音されている、とまでは思っていない。

「声フェチなら結衣さんに堪らないって、分かりますよ。もう女神?って思いますよ、先方は」
「私はそうでもないはずなんだけどなぁ」

「それはフェチとは違いますよ! ツボじゃないですか? ヘンな言い方ですけど、たまたま入ったそこがツボだった、みたいな」
「ツボってんの? 私?」
「なら、納得じゃないですか?」

確かに。
それならありうるかも。
たまたま顔も声も好みドンピシャだった、とか。

いつでもどんな時でも蓮根の顔立ちが整っていることは結衣は認める。
そして、声もいいことも。
ついでにスタイルもそこそこいいし、背も高い……。

「それって、考えてもしよーがないやつ?」
「しょーがないですね。ツボだもん。もう、会わないの?」
「あ……いや、会うことになったの。土曜日に」
「マジですか!?」
いや、鼻息かかるから……。

会ってみたら、もっとまたいろいろ分かりますよ!と莉奈はにこにこしている。

「面白がっている?」
「ちょっとだけ。だって、納得なんですもん」

ツボってるから、納得??
「違います。結衣さんの神対応に惹かれる人が出てしまったことに納得。本当にうちのセンターの女神と呼ばれてるの、知ってます?」

「え?知らないよー」
女神だの伝説だの、結衣はどういう存在だと思われているのか聞きたい。

「女神だから、納得する!」
「もー、訳分かんない」
そうして、夜は更けていったのだった。


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