君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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個別案件

個別案件①

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結衣は手元のスマートフォンをじっと見ていた。
リーディングルームにいる時は携帯はロッカーに入れてあるから見ることは出来ないのだ。

表示されていたのは、蓮根からの着信3回の後『ご都合の良い時ご連絡下さい』のメッセージだった。それもご丁寧に音声での留守番センター預かりだ。

『仕事中は携帯に出られないんです。今、気付きました。その後、いかがですか?』

てててっと結衣はメッセージを打って返す。ぴょん、とメッセージが返ってきた。

『仕事が不規則なんですよね? 大丈夫です』

(あ、即レスだ)

そう思ったら、通話が着信して驚く。思わず結衣は慌てて出てしまった。
「はいっ!」
『結衣さん。やっと声が聞けた』

「なかなかご連絡出来なくて、すみません」
『いえ、お忙しいでしょうから』

「蓮根先生もお忙しいんですよね?」
『おかげさまで。忙しくなかったら、即食いあげですから。ああ、そう言えば車が戻ってきたんですよ。ありがとうございました』
「良かった!」

はぁ……と蓮根は電話の向こうでため息をついている。
結衣はぞくんとはするが、実際に耳に吹き込まれた時程ではない。

『あなたのそんな声を聞いたら、すごく会いたくなる』
スイッチの入っている蓮根の声。

普通に話しているといい声だなあ、くらいなのだが、これはダメだ。
くらくらする。

「そんなこと、言わないで下さい……」
    
『そうだ! せっかく車が帰ってきたので、ドライブに行こうと思うんです。今週末、どこか空いていませんか?』
先程まで耳元で甘く低く囁くように会いたいなんて言っていたのに、蓮根は途端に明るい声になった。

ドライブに行きたい!と言う蓮根の明るい声には、結衣も警戒心を解いてしまう。
先日も一緒にウィンドウショッピングをしている間はとても楽しかったのだ。

「土曜日なら行けるかも知れません」
『ああ、いいですね、土曜日。そこから車で1時間位のところにいろいろ観光スポットがあるの、ご存知ですか?』

観光できるところがあるよ、とは同僚に聞いていたけれど、きっかけもなければ、なかなか一人で行くようなことはなかった。

「聞いたことはあります。行ったことはないんですけど」
『じゃあ、行きませんか? 土曜日』
行くのは構わない……のだけれど。
「私でいいんですか?」

『結衣さんと行きたい』
「っ……!」
急に甘い声を出すのは、本当に止めて頂きたい。

頬が熱い。
赤くなっている自覚がある。

「分かりました、から」
『では、また改めて連絡します。楽しみにしていますね?』
そう言って機嫌良さげに蓮根は通話を切った。

通話を切られたスマートフォンを結衣はじいっとまた見つめる。
囁き声に息を吹きかけることができる機能とか付いてないよね!?
絶対ついていないハズ!
あと、甘い声に催眠機能とか!!

もちろんそんな機能は付いていない。
ほんっと!どうなってんの!?むしろ、自分!!

いつもそうなのだ。
蓮根と話していると、気づいたら了承させられて、蓮根の思い通りになっている気がする。



その日、同僚を誘って食事に行くことにした結衣だ。同じようにリーダーで、結衣より数ヶ月前に入社して配属された名塚莉奈なつかりなだった。

結衣は転勤組なので、社歴は結衣の方が長いけれど、配属は彼女の方が先輩になる。お互いに不足を補える仲間で、同僚としても気兼ねなく接することができる女性なのだ。
歳も近いし、気も合う。

「コールセンターで声フェチってあるのかなぁ」
居酒屋でししゃもの頭をつつきながら、突然そんなことを言い出す結衣に、緑茶ハイを吹きそうになった莉奈だ。
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