君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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『こちらこそ。また、ご連絡します』
そう返信しておいて、カバンからレコーダーを出す。

業務用のICレコーダーだ。
主に顧客との打ち合わせに使うものだが。

蓮根は、書斎代わりにしている部屋のパソコンに向かった。
音声をデータ化して、取り出す。こだわりのヘッドフォンである。

それをかけて軽く目を閉じ、椅子に深く座ってヘッドフォンから聞こえてくる声に耳を傾けた。

一見すると、クラッシックでも聴いているかのような雰囲気である。

『蓮根先生……』
『はい?』
『っ……近いです』

仕事柄持ち歩いているレコーダーをまさか、こんな風に使うとは思わなかったけれど、とっさの思いつきには満足する。

『……それを紡いでいるこの唇、味わったらどんな気分でしょうね?』

蓮根はこの時の結衣を思い出す。

追い詰められた小動物みたいに、シートベルトに捕まっていた。

嫌なら逃げればいいのに。

それすらしないから、追い詰めたくなる。
本音は違うんじゃないか。口では嫌がっているけれど、実は求めているんじゃないか。
そんな風に思って。

蓮根はこの時、結衣の唇を指でなぞった。
結衣は、呆然としながら自分を見つめていただけだ。

『この、唇に唇を重ねて。そうだな、舌でも味わってみたい。それから中に舌を入れてあなたを思う存分味わったら……』
『っ……あ、いや、です』

蓮根はぞくっとする。
それはひどく強い快感で。
なにもしていないそこが、熱を帯びて立ち上がってくるのを感じた。

この時もなにもしていない。
ただ、唇を指でなぞっただけ。

けれど、この結衣の声。
まるで、ベッドにでもいるかのようだ。

『気持ちいいですよ、きっと』

ふっ……と結衣の吐息が、ヘッドフォンから流れる。泣き出す寸前の堪えている声だ。
高性能のレコーダーは、そんな吐息さえ余すことろなく拾っていた。
その機能に蓮根は満足する。

『っう……』
『なんで、泣くんです? してませんよ? なにも』
『うー、しましたよ! いじわる!』

人を思いやる力がある、ということは返せば想像力が豊かだから、とも考えられる。結衣は察する能力がとても高い。
さらに、それを鍛えるような仕事についている結衣だ。

受けた電話で、現場の状況を詳細に組み立てられるということは、頭の中でその状況を再現している、ということだ。
さらに、その時のその人の心情まで、思いやる。

だからなんだな……。
唇に唇を重ねて、と言った時も結衣は想像したはずだ。

その感触を。

それは触れたと同義なんだろうか?
あの時の結衣は単純に嫌がっていると思っていたけれど、そうではなかったら?

生々しく触れられた、と、同義で、喘ぎだったとしたら?

ふっ……と蓮根は笑う。
そんな訳はないな。
最後まで名前では呼んでくれなかった。距離がある証拠だ。

抱きしめただけであんな甘い声を上げたくせに、キスもダメと言われたし。

『もう、いいですよね。お約束したでしょう?』

いい聞かせるような声。
なんでも叶えてあげてしまいたくなる。

蓮根は両腕を組んで、天井を見上げる。
大きく息をついた。

中毒みたいだ。

また、欲しい。あの声が。
もっと話しかけてほしい。名前を呼んでほしい。
もっと、もっと……欲しい彼女が。
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