君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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時間は少し元に戻る。
蓮根涼真はすねりょうまは、客先での打ち合わせのため、先方に車で向かっているところだった。

右折しようと信号で止まっていたところ、正面から直進の車が来たので、停止したのだ。

ガシャン!と音がして、身体が揺れる。
そこそこの衝撃があった。

突っ込まれたのか……。
この忙しい時に。

「大丈夫ですか⁉︎」
後ろの車の運転手が慌てて降りてくる。

大丈夫な訳がないだろう。
シートベルトをしていたし停車中でもあったので、さほど大きなケガはないが車は後ろが大きくへこんでいる。

相手は若い営業社員のようだった。
ふぅ、とため息をついた蓮根を見て、泣きそうになっている。

いや車を見て、か?
両方かもしれない。
高級外車に乗り、見て分かるほどの高級なスーツを身にまとい、冷ややかな雰囲気を醸し出す。
いかにもエリート然とした蓮根には若くても有無を言わさない迫力がある。

「ケガは?」
「大丈夫です! あ、おケガないですか?」

「多分大丈夫だと思うが。とりあえず警察と保険会社かな。君はそれは社用車じゃないですか? 多分会社に連絡した方がいいと思いますよ」

それを聞いた後ろの運転手は、慌てて車に携帯を取りに行っていた。

蓮根も事務所に連絡をして、保険会社から連絡を寄越すよう伝える。
アポイントもリスケを頼んだ。

ディーラーにも連絡を取る。
『自走出来そうですか?』
ディーラーは馴染みなので、蓮根のこともよく知っている。そのこだわりの強さも。

「エンジンはかかるが、へこみがありますからね。出来なくはないですけど、警察には嫌な顔をされそうだ」

『すぐレッカー手配します。あ、蓮根先生、保険会社は?』

「警察と保険会社は連絡しました。今、先方からの連絡待ちです」
『分かりました』

その後、実況見分やらレッカー待ちで、蓮根のイライラがマックスに達しようとしていた時、保険会社に代車は同じ車種での用意が難しいと言われる。

「同等の車を用意して下さい」
『同じ車種ではご用意が難しくて、同等クラスのお車をお探しします』
慌てたような声が電話口から聞こえてきた。

先程から、蓮根は同等クラスだと言っている。
そもそも同じ車種での用意が無理なことなど、分かっている。
蓮根の車はその辺に売っているものとは、訳が違うのだ。

「急いでいるんだけどね? 無理は言っていないと思いますよ?」

判断出来ないのなら、上席に変われ!と怒鳴りつけたいところをぐっと抑えて敢えて淡々と話す。

やはり担当者では判断つけかねるようで、結局変わってもらうことになったのだ。
これで上席まで話にならなかったら、本気で切れようと思っていた蓮根である。

『お電話変わりました。上席の高槻と申します』

女性か!

しかしさすがに上席と言うだけはあって、落ち着いていて柔らかい声はこちらに安心感を与えてくれた。

『お車ないと困りますよね?』
そう問い掛けられ、そうだと返事をしようとして彼女の声に気付いたのだ。

『今すぐ、ご用意出来るのが……』
何か話しているが、今耳に入ってくるのは、柔らかいそのトーン。

柔らかいくせ、言うべきことは伝えてくる。
マニュアルがあるはずなのに、ある程度内容が頭にはいっているのか画一化された答えではない。

それがさらにこちらの気分を良くしてくれている。気持ちの良い声だ。
言うなれば、蓮根の好みにピタリと当てはまる。

明日改めますと言うので、この人に対応して欲しいと思い、フルネームを聞き出した。

高槻結衣たかつきゆい
それが彼女の名前だった。
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