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うに鍋とシフォンケーキ
うに鍋とシフォンケーキ③
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「キスで。僕はあなたの声が好きですけど、それを紡いでいるこの唇、味わったらどんな気分でしょうね?」
急にそんなことを言い出した運転席の蓮根から、もう途轍もなく妖艶な雰囲気が流れてきて、結衣は背中がぞくぞくっ、とする。
今、そのリアルな感触すら感じた気がして。
結衣は思わず、ぎゅっとシートベルトを掴んでしまった。
運転席から、すうっと伸びた手が、結衣の唇を親指でなぞる。
逃げればいいのに、結衣は身動き出来ない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
運転席の蓮根が射るように、真っ直ぐ見て来るから。
その整った顔に笑みが浮かんでいると、それはもう壮絶な色気で。
しかも、蓮根は全くそれを、隠そうとはしていない。
獲物を狩るようだ。
「この唇に唇を重ねて……そうだな、舌でも味わってみたい。それから、中に舌を入れて、あなたを思う存分味わったら……」
「っ……あ、いやですっ……」
「いや? そうかな?」
蓮根の整った顔が近づいて、唇が重なるかも……!と結衣がぎゅっと目をつむると、ふわっと耳に息がかかる。
「気持ちいいですよ、きっと」
耳元で囁かれて、そのぞくっとした感じは出口がなくてお腹の辺りがきゅっとする。
「っう……」
思わず目に涙が溜まってしまう結衣だ。
こんな色気には耐性はないのだ。
「なんで泣くんです? してませんよ? なにも」
「うー、しましたよ! いじわる!」
分からないけど感極まったと言うか、気持ちの行き場がないと思ったら涙が溢れていたのだ。
「ある意味、車でよかったですよ」
蓮根に頭を抱かれて、ポンポンと頭を撫でられる。それは、今までの中ではいちばん安心できる接触だった。
「別の場所ならそんな顔で目に涙を浮かべていたら、平静でいられる自信はなかったですね」
「蓮根先生、怖いです……」
「男はみんなオオカミらしいですよ」
さっきまでの気配は消して、くすくすと笑う蓮根はハンドルを握ってエンジンをかけた。
……にしても、この顔にあの声。凶器だよ。
「結衣さん、着きましたよ?」
「ん……」
蓮根に声をかけられて結衣は目を覚ます。
いつの間にか緊張していたはずなのに、眠ってしまっていたようだ。
──本当だ。ちゃんとマンションの前だ。
「ありがとうございます。本当に充分気をつけて帰って下さいね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
蓮根がにこっと笑う。
「帰ったら連絡してください。心配だから」
対する結衣は真顔である。
「分かりました。結衣さん」
「笑ってないで、真剣なんです」
常に事故と向き合う仕事をしている結衣だ。
それは他人事には思えず、過剰な心配かも知れないが。
それでも……。
「事故を起こしたら、あなたが対応してくれますか?」
ふと目元を笑ませて蓮根がそんなことを言うので、結衣は笑い事じゃないです!とぷりぷりして返す。
「しません! もう代車はありませんからね!」
「結衣さん、ちゃんと気をつけて帰ります。あなたが心配してくれるから。だから、お約束の印にハグだけさせて?」
もう、意味わかんない。
けれど、ベルトを外した結衣は蓮根をきゅっと抱きしめた。
離れようとするが、蓮根は離してくれない。
「あの……蓮根先生?」
「名前で呼んでくれませんか?」
「で、も……」
背中を撫でられる。
「あの、もう良くないですか?」
「もう少し……」
そう囁きかけられて、はあっとため息。
「……っ」
思わず、ぎゅっと蓮根の背中を掴んでしまった。
このため息がそもそもっ……。
「耳、感じるの?」
違うけど、そういうことにしておきたい。
「ねえ?」
息を吹きかけられるようにして、声を注ぎ込まれたらどうしたらいいのか分からない!
「んっ……」
「可愛い……。キスしちゃだめかな?」
「だめですっ」
ハグだけって言ったし!
「もういいですよね? お約束……したでしょう?」
「あー結衣さん、可愛い。確かに今キスしたら、それだけでは止められないかも知れませんね」
「絶対ダメ」
「分かりました。今日は帰ります」
名残惜しそうに、ゆっくりと身体が離れて、最後にふわっと頬を撫でられた。
急にそんなことを言い出した運転席の蓮根から、もう途轍もなく妖艶な雰囲気が流れてきて、結衣は背中がぞくぞくっ、とする。
今、そのリアルな感触すら感じた気がして。
結衣は思わず、ぎゅっとシートベルトを掴んでしまった。
運転席から、すうっと伸びた手が、結衣の唇を親指でなぞる。
逃げればいいのに、結衣は身動き出来ない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
運転席の蓮根が射るように、真っ直ぐ見て来るから。
その整った顔に笑みが浮かんでいると、それはもう壮絶な色気で。
しかも、蓮根は全くそれを、隠そうとはしていない。
獲物を狩るようだ。
「この唇に唇を重ねて……そうだな、舌でも味わってみたい。それから、中に舌を入れて、あなたを思う存分味わったら……」
「っ……あ、いやですっ……」
「いや? そうかな?」
蓮根の整った顔が近づいて、唇が重なるかも……!と結衣がぎゅっと目をつむると、ふわっと耳に息がかかる。
「気持ちいいですよ、きっと」
耳元で囁かれて、そのぞくっとした感じは出口がなくてお腹の辺りがきゅっとする。
「っう……」
思わず目に涙が溜まってしまう結衣だ。
こんな色気には耐性はないのだ。
「なんで泣くんです? してませんよ? なにも」
「うー、しましたよ! いじわる!」
分からないけど感極まったと言うか、気持ちの行き場がないと思ったら涙が溢れていたのだ。
「ある意味、車でよかったですよ」
蓮根に頭を抱かれて、ポンポンと頭を撫でられる。それは、今までの中ではいちばん安心できる接触だった。
「別の場所ならそんな顔で目に涙を浮かべていたら、平静でいられる自信はなかったですね」
「蓮根先生、怖いです……」
「男はみんなオオカミらしいですよ」
さっきまでの気配は消して、くすくすと笑う蓮根はハンドルを握ってエンジンをかけた。
……にしても、この顔にあの声。凶器だよ。
「結衣さん、着きましたよ?」
「ん……」
蓮根に声をかけられて結衣は目を覚ます。
いつの間にか緊張していたはずなのに、眠ってしまっていたようだ。
──本当だ。ちゃんとマンションの前だ。
「ありがとうございます。本当に充分気をつけて帰って下さいね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
蓮根がにこっと笑う。
「帰ったら連絡してください。心配だから」
対する結衣は真顔である。
「分かりました。結衣さん」
「笑ってないで、真剣なんです」
常に事故と向き合う仕事をしている結衣だ。
それは他人事には思えず、過剰な心配かも知れないが。
それでも……。
「事故を起こしたら、あなたが対応してくれますか?」
ふと目元を笑ませて蓮根がそんなことを言うので、結衣は笑い事じゃないです!とぷりぷりして返す。
「しません! もう代車はありませんからね!」
「結衣さん、ちゃんと気をつけて帰ります。あなたが心配してくれるから。だから、お約束の印にハグだけさせて?」
もう、意味わかんない。
けれど、ベルトを外した結衣は蓮根をきゅっと抱きしめた。
離れようとするが、蓮根は離してくれない。
「あの……蓮根先生?」
「名前で呼んでくれませんか?」
「で、も……」
背中を撫でられる。
「あの、もう良くないですか?」
「もう少し……」
そう囁きかけられて、はあっとため息。
「……っ」
思わず、ぎゅっと蓮根の背中を掴んでしまった。
このため息がそもそもっ……。
「耳、感じるの?」
違うけど、そういうことにしておきたい。
「ねえ?」
息を吹きかけられるようにして、声を注ぎ込まれたらどうしたらいいのか分からない!
「んっ……」
「可愛い……。キスしちゃだめかな?」
「だめですっ」
ハグだけって言ったし!
「もういいですよね? お約束……したでしょう?」
「あー結衣さん、可愛い。確かに今キスしたら、それだけでは止められないかも知れませんね」
「絶対ダメ」
「分かりました。今日は帰ります」
名残惜しそうに、ゆっくりと身体が離れて、最後にふわっと頬を撫でられた。
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