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うに鍋とシフォンケーキ
うに鍋とシフォンケーキ②
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「チェックアウト、済ませましょうね。荷物、お預かりします」
蓮根にいそいそと荷物を持たれて、結衣は抵抗する気力はなかった。
もう……燃え尽きました。
好きにしてください。
結衣は地下駐車場に停めてある蓮根の車まで連れて行かれる。
「結衣さん、荷物後ろに積んでいいですか?」
「はい……」
もう、観念しました。
結衣は助手席に座り、シートベルトを付ける。
運転席に乗ってきた蓮根がじっと結衣をみつめる。
「少し、強引にしました」
そっ、と頬を撫でられる。
分かってるんじゃん。
「そんな、可愛い顔で見ないで下さい」
「蓮根先生、綺麗な顔ですよね」
「そんな事はどうでもいいんです。一つだけ教えてください。結衣さん、僕の顔に別に惹かれてはいませんよね」
ん……まあ、綺麗とは思うけど。
「顔って、人はそれだけじゃないですから」
「そうです。顔だけでも、声だけでもない。僕はあなたの知的で美しくて、安心感のある声に惹かれました。そして、こんな対応をしてくれるのはどんな人なんだろうと思って、昨日は本当に衝撃的でした。今日も」
「今日?」
「そのオフホワイトのニット、とても可愛いですよ」
「普通です!」
「あなたのその清楚で上品な雰囲気にとても似合っていますよ」
その綺麗な顔とイケボで褒めまくるのは本当にやめてほしい。
しかも車の中って密室じゃない!?
「蓮根先生……」
「はい?」
「っ……近い、です」
「車ですから。普通ですよ。あなたは僕に興味なんてないくせに、時折、どきりとするような表情をするんですよ。その理由が知りたい」
この観察力、やっぱりただの変態ではない。
でも、でも言いたくない!絶対!
顔と声は良いとか認めたくない!
「僕は、本当にあなたに会えるなんて思っていなくて。だから昨日会えたことは、本当に運命のようだと思っています。それは僕の本音です。本当はあなたにも本音で話して欲しい」
けれど、そんな結衣の気持ちなどお構いなしに蓮根は話し続ける。
「けど……いきなりは無理なのも分かります。だから、あなたが僕のことを知って、話してもいいと思ったら話して欲しい」
いいですか?と結衣は蓮根に額をこつんと合わせられた。
まるで恋人のような距離感だ。
助手席に座っていた結衣は一瞬おののく。
けれど、蓮根はそれ以上は何をすることもなく、
「ね?」
と結衣に首を傾げて笑顔を向けただけだ。
「は……い」
思わず返事してしまって結衣は気づく。
いつもそうなのだ。蓮根の声には逆らえない。
その後は本当に驚くくらい、普通にお出かけしたのだ。
結衣が見たいという服を見て、食事をし、お茶をする。
その間も蓮根は楽しい話をしてくれたり、結衣も差し障りのないところで裏話をしたりした。
「はー、すっごく楽しかったです! あのシフォンケーキは、もう神レベル! ほんっとに、美味しかったぁ。いいお店を教えて頂いて、ありがとうございます」
美味しいランチを食べ、さらに隠れ家的な美味しいカフェまで教えてもらって結衣はご満悦だ。
「いいえ。気に入って頂けてよかった。このまま高速に乗っていいですか? お送りします」
カフェの近くのパーキングに停めてあった車に二人で乗り込み、蓮根はエンジンをかけた。
送る、と言う蓮根に結衣は首を横に振る。
「でも、遠いし大丈夫ですよ。近くの駅で」
「ドライブ、好きなんですよ」
確かに車の選択からして、そうなのかもしれない。
今日一日、一緒の時間を過ごして、結衣は最初ほど蓮根には警戒しなくなっていた。
「お言葉に甘えてしまって、いいんですか?」
「あなたなら、どれだけでも甘やかしたい」
「もう! すぐ、そういうこと言いますね。では、お願いします」
住所を言うと、蓮根がそれをナビに入力していた。
「二時間か。結衣さん、疲れたら休んでいて下さいね。」
「え? 往復四時間ですか? それ、申し訳ないです。やっぱり私、その辺で……」
「結衣さん」
「はい」
「それ以上言ったら口を塞ぎます」
え?やだ、怖い。
「塞ぐって……」
事件?事件なの?
結衣の頭の中をサスペンスな曲が流れる。
蓮根にいそいそと荷物を持たれて、結衣は抵抗する気力はなかった。
もう……燃え尽きました。
好きにしてください。
結衣は地下駐車場に停めてある蓮根の車まで連れて行かれる。
「結衣さん、荷物後ろに積んでいいですか?」
「はい……」
もう、観念しました。
結衣は助手席に座り、シートベルトを付ける。
運転席に乗ってきた蓮根がじっと結衣をみつめる。
「少し、強引にしました」
そっ、と頬を撫でられる。
分かってるんじゃん。
「そんな、可愛い顔で見ないで下さい」
「蓮根先生、綺麗な顔ですよね」
「そんな事はどうでもいいんです。一つだけ教えてください。結衣さん、僕の顔に別に惹かれてはいませんよね」
ん……まあ、綺麗とは思うけど。
「顔って、人はそれだけじゃないですから」
「そうです。顔だけでも、声だけでもない。僕はあなたの知的で美しくて、安心感のある声に惹かれました。そして、こんな対応をしてくれるのはどんな人なんだろうと思って、昨日は本当に衝撃的でした。今日も」
「今日?」
「そのオフホワイトのニット、とても可愛いですよ」
「普通です!」
「あなたのその清楚で上品な雰囲気にとても似合っていますよ」
その綺麗な顔とイケボで褒めまくるのは本当にやめてほしい。
しかも車の中って密室じゃない!?
「蓮根先生……」
「はい?」
「っ……近い、です」
「車ですから。普通ですよ。あなたは僕に興味なんてないくせに、時折、どきりとするような表情をするんですよ。その理由が知りたい」
この観察力、やっぱりただの変態ではない。
でも、でも言いたくない!絶対!
顔と声は良いとか認めたくない!
「僕は、本当にあなたに会えるなんて思っていなくて。だから昨日会えたことは、本当に運命のようだと思っています。それは僕の本音です。本当はあなたにも本音で話して欲しい」
けれど、そんな結衣の気持ちなどお構いなしに蓮根は話し続ける。
「けど……いきなりは無理なのも分かります。だから、あなたが僕のことを知って、話してもいいと思ったら話して欲しい」
いいですか?と結衣は蓮根に額をこつんと合わせられた。
まるで恋人のような距離感だ。
助手席に座っていた結衣は一瞬おののく。
けれど、蓮根はそれ以上は何をすることもなく、
「ね?」
と結衣に首を傾げて笑顔を向けただけだ。
「は……い」
思わず返事してしまって結衣は気づく。
いつもそうなのだ。蓮根の声には逆らえない。
その後は本当に驚くくらい、普通にお出かけしたのだ。
結衣が見たいという服を見て、食事をし、お茶をする。
その間も蓮根は楽しい話をしてくれたり、結衣も差し障りのないところで裏話をしたりした。
「はー、すっごく楽しかったです! あのシフォンケーキは、もう神レベル! ほんっとに、美味しかったぁ。いいお店を教えて頂いて、ありがとうございます」
美味しいランチを食べ、さらに隠れ家的な美味しいカフェまで教えてもらって結衣はご満悦だ。
「いいえ。気に入って頂けてよかった。このまま高速に乗っていいですか? お送りします」
カフェの近くのパーキングに停めてあった車に二人で乗り込み、蓮根はエンジンをかけた。
送る、と言う蓮根に結衣は首を横に振る。
「でも、遠いし大丈夫ですよ。近くの駅で」
「ドライブ、好きなんですよ」
確かに車の選択からして、そうなのかもしれない。
今日一日、一緒の時間を過ごして、結衣は最初ほど蓮根には警戒しなくなっていた。
「お言葉に甘えてしまって、いいんですか?」
「あなたなら、どれだけでも甘やかしたい」
「もう! すぐ、そういうこと言いますね。では、お願いします」
住所を言うと、蓮根がそれをナビに入力していた。
「二時間か。結衣さん、疲れたら休んでいて下さいね。」
「え? 往復四時間ですか? それ、申し訳ないです。やっぱり私、その辺で……」
「結衣さん」
「はい」
「それ以上言ったら口を塞ぎます」
え?やだ、怖い。
「塞ぐって……」
事件?事件なの?
結衣の頭の中をサスペンスな曲が流れる。
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