君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

文字の大きさ
上 下
13 / 70
うに鍋とシフォンケーキ

うに鍋とシフォンケーキ②

しおりを挟む
「チェックアウト、済ませましょうね。荷物、お預かりします」
蓮根にいそいそと荷物を持たれて、結衣は抵抗する気力はなかった。

もう……燃え尽きました。
好きにしてください。

結衣は地下駐車場に停めてある蓮根の車まで連れて行かれる。
「結衣さん、荷物後ろに積んでいいですか?」
「はい……」

もう、観念しました。
結衣は助手席に座り、シートベルトを付ける。

運転席に乗ってきた蓮根がじっと結衣をみつめる。

「少し、強引にしました」
そっ、と頬を撫でられる。

分かってるんじゃん。
「そんな、可愛い顔で見ないで下さい」
「蓮根先生、綺麗な顔ですよね」

「そんな事はどうでもいいんです。一つだけ教えてください。結衣さん、僕の顔に別に惹かれてはいませんよね」
ん……まあ、綺麗とは思うけど。

「顔って、人はそれだけじゃないですから」
「そうです。顔だけでも、声だけでもない。僕はあなたの知的で美しくて、安心感のある声に惹かれました。そして、こんな対応をしてくれるのはどんな人なんだろうと思って、昨日は本当に衝撃的でした。今日も」
「今日?」

「そのオフホワイトのニット、とても可愛いですよ」
「普通です!」

「あなたのその清楚で上品な雰囲気にとても似合っていますよ」
その綺麗な顔とイケボで褒めまくるのは本当にやめてほしい。

しかも車の中って密室じゃない!?

「蓮根先生……」
「はい?」
「っ……近い、です」

「車ですから。普通ですよ。あなたは僕に興味なんてないくせに、時折、どきりとするような表情をするんですよ。その理由が知りたい」
この観察力、やっぱりただの変態ではない。

でも、でも言いたくない!絶対!
顔と声は良いとか認めたくない!

「僕は、本当にあなたに会えるなんて思っていなくて。だから昨日会えたことは、本当に運命のようだと思っています。それは僕の本音です。本当はあなたにも本音で話して欲しい」

けれど、そんな結衣の気持ちなどお構いなしに蓮根は話し続ける。
「けど……いきなりは無理なのも分かります。だから、あなたが僕のことを知って、話してもいいと思ったら話して欲しい」

いいですか?と結衣は蓮根に額をこつんと合わせられた。
まるで恋人のような距離感だ。
助手席に座っていた結衣は一瞬おののく。

けれど、蓮根はそれ以上は何をすることもなく、
「ね?」
と結衣に首を傾げて笑顔を向けただけだ。

「は……い」
思わず返事してしまって結衣は気づく。
いつもそうなのだ。蓮根の声には逆らえない。



その後は本当に驚くくらい、普通にお出かけしたのだ。

結衣が見たいという服を見て、食事をし、お茶をする。
その間も蓮根は楽しい話をしてくれたり、結衣も差し障りのないところで裏話をしたりした。

「はー、すっごく楽しかったです! あのシフォンケーキは、もう神レベル! ほんっとに、美味しかったぁ。いいお店を教えて頂いて、ありがとうございます」

美味しいランチを食べ、さらに隠れ家的な美味しいカフェまで教えてもらって結衣はご満悦だ。
        
「いいえ。気に入って頂けてよかった。このまま高速に乗っていいですか? お送りします」
カフェの近くのパーキングに停めてあった車に二人で乗り込み、蓮根はエンジンをかけた。

送る、と言う蓮根に結衣は首を横に振る。
「でも、遠いし大丈夫ですよ。近くの駅で」
「ドライブ、好きなんですよ」
確かに車の選択からして、そうなのかもしれない。

今日一日、一緒の時間を過ごして、結衣は最初ほど蓮根には警戒しなくなっていた。
「お言葉に甘えてしまって、いいんですか?」
「あなたなら、どれだけでも甘やかしたい」

「もう! すぐ、そういうこと言いますね。では、お願いします」
住所を言うと、蓮根がそれをナビに入力していた。

「二時間か。結衣さん、疲れたら休んでいて下さいね。」
「え? 往復四時間ですか? それ、申し訳ないです。やっぱり私、その辺で……」

「結衣さん」
「はい」
「それ以上言ったら口を塞ぎます」

え?やだ、怖い。
「塞ぐって……」

事件?事件なの?
結衣の頭の中をサスペンスな曲が流れる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

Perverse

伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない ただ一人の女として愛してほしいだけなの… あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる 触れ合う身体は熱いのに あなたの心がわからない… あなたは私に何を求めてるの? 私の気持ちはあなたに届いているの? 周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女 三崎結菜 × 口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男 柴垣義人 大人オフィスラブ

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...