9 / 70
それは通常対応です
それは通常対応です④
しおりを挟む
「いえ、助けてもらっていたのは私達の方なんです。私の仕事はいつも周りの方に助けていただいて成り立つようなものなので。今も最前線でコールとってくださるスタッフさんや、わからない時教えてくれる査定の方や、営業さんに助けられています」
「そうなんですね。僕はあなたに助けられた。その後、大丈夫ですか? と気遣いしてくださったあなたに」
むしろそれは通常対応なので、そんな風に言われると胸が痛みます……。
つまり、蓮根への特別対応でもなんでもないっつーか。
なのに蓮根はとても嬉しそうなのだ。
「高槻さん。今日はこの後、どうされるご予定なんですか?」
「いえ、みんなでご飯しているところで」
「それが終わってからは?」
「帰ると思いますけど」
帰る以外に選択肢はない気がする。
「ご自宅は近いんですか? コールセンターは他府県と聞いてますけど」
「はい。なのでホテルに」
「では、皆さんとの飲食が終わった後1杯だけ、いかがです?」
声も含めて、この雰囲気、そんなん行っちゃいけない気がする。
「ね?」
蓮根のとんでもなく整った顔がふわりと笑って、優しく首を傾げる。それだけなのに、なんだかとても妖しい雰囲気の人なのだ。
結衣は自然にすっと伸びてきた指に頬を撫でられた。
ね?と言われて身動きできない。
まるで、催眠術にかかったかのように、結衣は頷いてしまった。
「では終わったら、僕の携帯に連絡してください。あ、ここに番号入れておいて? そうしたら高槻さんからの着信だと分かるから」
蓮根から携帯を渡されたので、結衣はてててっと自分の番号を入れてしまう。
そのまま、彼の指が発信を押すのをなんだかぼうっとして見ていた。
今は、結衣の携帯がなっているはずだ。
「その番号が僕のですよ」
蓮根は妖艶な雰囲気や、逆らいがたい声の持ち主だった。きっと他の人には冷たく見えるはずの整いすぎた美貌なのに、先ほどから結衣を見る瞳は逆らいがたく、熱い。
こんな初対面の人に連絡先を教えるようなこと、普段ならしないけれど、蓮根の雰囲気に逆らいがたい何かがあるのだ。
「北条さんは本社の女の子達に囲まれて、楽しくやっているんでしょうか。呼んできていただいていいですか?」
そんなことにも逆らえない。
「はい」
こくっと、結衣は頷く。
それを見て、蓮根は目を細めた。
部屋を出てみんなのところに帰る途中、急に動悸が激しくなる結衣だ。
──な……なにが起こってる……の?
『ね?』ってなにが?ほっぺた、撫でられた。
き……危険すぎるでしょ!ダメでしょ‼︎
ダダ漏れの色気と、深い声で、聞いているだけでなにも考えずに頷いてしまう。
すごいなー。しかし、怖いなー。
「結衣ちゃん? 大丈夫?」
「うん。平気。ホテル近いし」
食事が終わり、気をつけて帰りなよーとか、またこっち来るときは連絡してねーという声を聞いて、またねーと手を振って、結衣はホテルに向かって歩き始めた。
携帯を手に取る。
着信には番号が表示されていた。
蓮根に連絡はしないつもりだ。
そんな連絡など、できるはずもない。
ところが急に手元の携帯が着信を知らせて、ぷるるっとなり、わああっ!と驚いた結衣は、思わず反射で出てしまった。
『今、終わったんですよね?』
携帯から聞こえてくるのは、もちろん蓮根の声だ。
怖い、怖い、どっかで見てんの?
つい、その場でキョロキョロしてしまう結衣である。
『先程のお店のオーナーさんに、終わったらご連絡いただくようお願いしていたんですよ』
くすくす聞こえる笑い声。
「あ……のっ」
『高槻さん、ぜひ会ってほしい。聞いてほしいことがあるんです』
また……だ。
その、とても真摯な声と逆らい難い響きに
「どうすればいいんですか?」
と結衣は答えてしまう。
『宿泊先のホテルの少し手前にバーがあるんです。そこにいます』
今、結衣がいるところから歩いて5分くらいのところだ。
そんなところにいるのでは仕方ない。
それに聞いてほしいこと、の中身も気になる。
「分かりました。」
そう返事して、結衣はその店に向かった。
「そうなんですね。僕はあなたに助けられた。その後、大丈夫ですか? と気遣いしてくださったあなたに」
むしろそれは通常対応なので、そんな風に言われると胸が痛みます……。
つまり、蓮根への特別対応でもなんでもないっつーか。
なのに蓮根はとても嬉しそうなのだ。
「高槻さん。今日はこの後、どうされるご予定なんですか?」
「いえ、みんなでご飯しているところで」
「それが終わってからは?」
「帰ると思いますけど」
帰る以外に選択肢はない気がする。
「ご自宅は近いんですか? コールセンターは他府県と聞いてますけど」
「はい。なのでホテルに」
「では、皆さんとの飲食が終わった後1杯だけ、いかがです?」
声も含めて、この雰囲気、そんなん行っちゃいけない気がする。
「ね?」
蓮根のとんでもなく整った顔がふわりと笑って、優しく首を傾げる。それだけなのに、なんだかとても妖しい雰囲気の人なのだ。
結衣は自然にすっと伸びてきた指に頬を撫でられた。
ね?と言われて身動きできない。
まるで、催眠術にかかったかのように、結衣は頷いてしまった。
「では終わったら、僕の携帯に連絡してください。あ、ここに番号入れておいて? そうしたら高槻さんからの着信だと分かるから」
蓮根から携帯を渡されたので、結衣はてててっと自分の番号を入れてしまう。
そのまま、彼の指が発信を押すのをなんだかぼうっとして見ていた。
今は、結衣の携帯がなっているはずだ。
「その番号が僕のですよ」
蓮根は妖艶な雰囲気や、逆らいがたい声の持ち主だった。きっと他の人には冷たく見えるはずの整いすぎた美貌なのに、先ほどから結衣を見る瞳は逆らいがたく、熱い。
こんな初対面の人に連絡先を教えるようなこと、普段ならしないけれど、蓮根の雰囲気に逆らいがたい何かがあるのだ。
「北条さんは本社の女の子達に囲まれて、楽しくやっているんでしょうか。呼んできていただいていいですか?」
そんなことにも逆らえない。
「はい」
こくっと、結衣は頷く。
それを見て、蓮根は目を細めた。
部屋を出てみんなのところに帰る途中、急に動悸が激しくなる結衣だ。
──な……なにが起こってる……の?
『ね?』ってなにが?ほっぺた、撫でられた。
き……危険すぎるでしょ!ダメでしょ‼︎
ダダ漏れの色気と、深い声で、聞いているだけでなにも考えずに頷いてしまう。
すごいなー。しかし、怖いなー。
「結衣ちゃん? 大丈夫?」
「うん。平気。ホテル近いし」
食事が終わり、気をつけて帰りなよーとか、またこっち来るときは連絡してねーという声を聞いて、またねーと手を振って、結衣はホテルに向かって歩き始めた。
携帯を手に取る。
着信には番号が表示されていた。
蓮根に連絡はしないつもりだ。
そんな連絡など、できるはずもない。
ところが急に手元の携帯が着信を知らせて、ぷるるっとなり、わああっ!と驚いた結衣は、思わず反射で出てしまった。
『今、終わったんですよね?』
携帯から聞こえてくるのは、もちろん蓮根の声だ。
怖い、怖い、どっかで見てんの?
つい、その場でキョロキョロしてしまう結衣である。
『先程のお店のオーナーさんに、終わったらご連絡いただくようお願いしていたんですよ』
くすくす聞こえる笑い声。
「あ……のっ」
『高槻さん、ぜひ会ってほしい。聞いてほしいことがあるんです』
また……だ。
その、とても真摯な声と逆らい難い響きに
「どうすればいいんですか?」
と結衣は答えてしまう。
『宿泊先のホテルの少し手前にバーがあるんです。そこにいます』
今、結衣がいるところから歩いて5分くらいのところだ。
そんなところにいるのでは仕方ない。
それに聞いてほしいこと、の中身も気になる。
「分かりました。」
そう返事して、結衣はその店に向かった。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる