君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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それは通常対応です

それは通常対応です④

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「いえ、助けてもらっていたのは私達の方なんです。私の仕事はいつも周りの方に助けていただいて成り立つようなものなので。今も最前線でコールとってくださるスタッフさんや、わからない時教えてくれる査定の方や、営業さんに助けられています」

「そうなんですね。僕はあなたに助けられた。その後、大丈夫ですか? と気遣いしてくださったあなたに」

 むしろそれは通常対応なので、そんな風に言われると胸が痛みます……。
 つまり、蓮根への特別対応でもなんでもないっつーか。
 なのに蓮根はとても嬉しそうなのだ。

「高槻さん。今日はこの後、どうされるご予定なんですか?」
「いえ、みんなでご飯しているところで」
「それが終わってからは?」

「帰ると思いますけど」
帰る以外に選択肢はない気がする。
「ご自宅は近いんですか? コールセンターは他府県と聞いてますけど」
「はい。なのでホテルに」

「では、皆さんとの飲食が終わった後1杯だけ、いかがです?」

声も含めて、この雰囲気、そんなん行っちゃいけない気がする。
「ね?」
蓮根のとんでもなく整った顔がふわりと笑って、優しく首を傾げる。それだけなのに、なんだかとても妖しい雰囲気の人なのだ。
結衣は自然にすっと伸びてきた指に頬を撫でられた。

ね?と言われて身動きできない。
まるで、催眠術にかかったかのように、結衣は頷いてしまった。

「では終わったら、僕の携帯に連絡してください。あ、ここに番号入れておいて? そうしたら高槻さんからの着信だと分かるから」
    
蓮根から携帯を渡されたので、結衣はてててっと自分の番号を入れてしまう。
そのまま、彼の指が発信を押すのをなんだかぼうっとして見ていた。

今は、結衣の携帯がなっているはずだ。

「その番号が僕のですよ」
蓮根は妖艶な雰囲気や、逆らいがたい声の持ち主だった。きっと他の人には冷たく見えるはずの整いすぎた美貌なのに、先ほどから結衣を見る瞳は逆らいがたく、熱い。

こんな初対面の人に連絡先を教えるようなこと、普段ならしないけれど、蓮根の雰囲気に逆らいがたい何かがあるのだ。

「北条さんは本社の女の子達に囲まれて、楽しくやっているんでしょうか。呼んできていただいていいですか?」

そんなことにも逆らえない。
「はい」
こくっと、結衣は頷く。
それを見て、蓮根は目を細めた。

部屋を出てみんなのところに帰る途中、急に動悸が激しくなる結衣だ。

──な……なにが起こってる……の?

『ね?』ってなにが?ほっぺた、撫でられた。
き……危険すぎるでしょ!ダメでしょ‼︎

ダダ漏れの色気と、深い声で、聞いているだけでなにも考えずに頷いてしまう。
すごいなー。しかし、怖いなー。



「結衣ちゃん? 大丈夫?」
「うん。平気。ホテル近いし」

食事が終わり、気をつけて帰りなよーとか、またこっち来るときは連絡してねーという声を聞いて、またねーと手を振って、結衣はホテルに向かって歩き始めた。

携帯を手に取る。
着信には番号が表示されていた。

蓮根に連絡はしないつもりだ。
そんな連絡など、できるはずもない。

ところが急に手元の携帯が着信を知らせて、ぷるるっとなり、わああっ!と驚いた結衣は、思わず反射で出てしまった。
『今、終わったんですよね?』

携帯から聞こえてくるのは、もちろん蓮根の声だ。
怖い、怖い、どっかで見てんの?
つい、その場でキョロキョロしてしまう結衣である。

『先程のお店のオーナーさんに、終わったらご連絡いただくようお願いしていたんですよ』
くすくす聞こえる笑い声。

「あ……のっ」
『高槻さん、ぜひ会ってほしい。聞いてほしいことがあるんです』

また……だ。
その、とても真摯な声と逆らい難い響きに
「どうすればいいんですか?」
と結衣は答えてしまう。

『宿泊先のホテルの少し手前にバーがあるんです。そこにいます』

今、結衣がいるところから歩いて5分くらいのところだ。

そんなところにいるのでは仕方ない。
それに聞いてほしいこと、の中身も気になる。

「分かりました。」
そう返事して、結衣はその店に向かった。
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