君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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折り返し致します

折り返し致します④

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翌日の結衣だ。
昨日のこともあり結衣は、ふうっと息をついてからヘッドセットをつける。

『はい。蓮根です』
「お忙しいところ、恐れ入ります」
『高槻さんかな?』
「は……い」

今まで何年もこの仕事についてきて、結衣は言葉に詰まってしまうことなどない。

たまに呆れてどう返そうか?ということはあっても名前を呼ばれただけで、というのは。
『大丈夫?』
「あ、申し訳ございません」

いつも意識している声に戻す。

代理店で抑えてもらっている車種を伝えると、電話の向こうで蓮根のふふっと満足そうな笑い声が聞こえた。

『ありがとう。そこまでしてくださるなんて、思いませんでした。昨日は少し動揺していて、つい無茶を言って言い過ぎてしまったのではないかと思っていたんです』

「皆さま、動揺なさるものですよ。その後お身体は大丈夫ですか?」
『大丈夫そうです』

「よかったです。今後は事故対応担当からご連絡させて頂きますので、ご不明点やご不安などその者にお申し付けください」
『高槻さんは違うんですか?』

こういうことはたまにある。

コールセンターは受付であり、全てをここで対応する訳ではない。

「はい。こちらは受付のセンターとなっておりますので、今後は専門の担当者がご連絡させて頂きます」
『分かりました。お手数をお掛けした。ありがとう』

"ありがとう"という言葉は結衣にとっては勝ちなのだと思っている。
よっしゃ!勝った!となににかは分からないがとにかく勝った気分で結衣は電話を切った。

切電し、結衣はふーっとため息をつく。
リーディングルームで横に座っていた同僚の名塚莉奈なつかりな
「トラブル案件?」
と聞いてくる。

「ううん。スタッフさんが対応しきれない件だった。勉強になったよ」

「通常対応だったもんね」
「うん。無茶言う人ではないから良かったよ」

「結衣さん、査定とか営業さん、代理店さんとも連携とれているからいいよね」
「一人で仕事できないだけです。ほんと、助けてもらわないと全然できない」

周りの協力があるだけで仕事が驚くほどスムーズに進むことがあるのは、結衣も実感しているところではある。
今回も知り合いの代理店に助けてもらっているのだから。

「そう言って、周りを巻き込む力があるのが、アナタのすごいところよ」
そう言って笑う名塚に結衣は照れてしまった。
「褒めても何もないですよ」

フロアに出てきます、と結衣はリーディングルームを出る。
    

蓮根に連絡したことで肩の荷がおり、身軽な気分になっていつものように仕事をする。

その日も勤務が終わり、日報を作成しようとしていたところ、メールが来ているのを結衣は確認したのである。

それは本社研修の案内だった。
本社は査定の部署が入っているところで、研修を受けに行けば、以前のメンバーとも顔を会わせることができる。

──みんなに会いたいしな。

事前課題を提出し、結衣はスケジュールを確認してシフトに入力した。
研修は3日間を予定されている。
今のコールセンターの場所からだと宿泊が必要だ。
コールセンターは本社からは少し離れた場所にあるのだ。

せっかくの機会だからみんなに会いたいと思った結衣は『本社研修があるからそっちに行くね』と元のメンバーにメールを送る。

すると即座に『3日目の夜は食事に行こうね!』とお誘いがあった。
『結衣ちゃんの好きなお店を予約しておくからね!』と添えられており、結衣はくすっと笑ってしまう。

水曜日から金曜日の研修なので、土曜日にホテルを延泊してもいいな、と思い、OKの返事を出す。

本社での研修はたびたびあるので、その都度前の仲間達と会えるのも楽しみだ。

コールセンターは都心とは離れた場所にあるから、なかなか街中に出ることはない。
延泊するなら、ついでに買い物もしよう、と思う結衣なのだった。
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