君の声を聴かせて~声フェチの人には聞かせたくないんですけどっ!~

如月 そら

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それは通常対応です

それは通常対応です③

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その名前は結衣の頭の中に引っかかる。

(蓮根先生? はぁ!? あの人じゃん!)

結衣の頭の中で情報がいろいろと繋がる。
"先生"と呼ばれるその職業。本社の営業と直の顔見知り。
そして先日、結衣が直に対応していて、名前はその名前。

え!?え!?えーーーーっっ!?

「え……」 
ちょ……ちょっと、無理無理無理ーっ。
なんでこの人は、いつも心の準備のない時に……。

くるりと振り返ろうとした結衣の視線の先には、北条のくぅーんと言いたげな仔犬のような表情だ。
くっ……逃げられない、と結衣は察する。

ふっと息をついて結衣は腹をくくり、蓮根に向き直りお仕事用の声を出す。
そうして畳に手を付いた。
「お世話になります。高槻結衣です。先日は失礼いたしました」

「ああ。こちらこそ」
そう!この声だ。

下げていた頭をふとあげると、冷たく整っていた表情が柔らかく微笑んで、結衣を見ている。

印象悪くないのは本当のようだ。
それを見て、結衣は少し安心する。

「先日の対応の件で蓮根先生は高槻さんにすごく感謝されてて。対応良かったって。蓮根先生、彼女はもともと査定にいた人で、僕もお世話になっていた人でした。この人の対応なら納得です」

2人を引き合せると、ちょっとあっちの査定の方に少しお話しがあるので、と北条は行っていってしまう。

──おい~~。重要客先……放置なの?
結衣はその場に残されてしまった。
困った様子の結衣を見て、蓮根がふっと笑う。

「高槻さん?」
「はい!」
「一杯だけ、如何ですか?」
「お願いします」

メタルフレームのメガネはその白皙、とも言う顔にぴったりで、冷たそうな雰囲気にも見えるのに、先程から結衣を見る目だけが……むしろ、熱心?

結衣はばくばく言う心臓の音を抑えるようにして、お店のご主人にお猪口をもらいに行く。

受け取ったら、もう仕方ない。
蓮根の席の机の角を挟んだ隣に座った。

「緊張していますね?」
笑いを含んだ声だった。
「はい。コールセンターって、お客様と直接お会いすることはないですから、ちょっと……。粗相があったらすみません」

「どうして謝るんです?」
いやなんとなく……。
蓮根の美貌にはどうしたって緊張するし、やけに熱心に見られているから上手く話せる自信はないし、やはり自分は裏方なのだと思う……からなのだが。

「裏方なのにこんなご挨拶。あ、その後いかがですか?」
「大丈夫です。車は修理に時間はかかるみたいですけど。その間もあなたのおかげで、快適にすごせそうですし」

蓮根は顔もいいけど、声がいい。少しかすれ気味の低くて甘い声はどうしたって腰に来る。
(声って、こんなに破壊力あるんだ)
意識していなくても、ぎゅっと胸がしめつけられそうだ。

「よかったです」
かろうじて、結衣は言葉を発した。
「事故をしたのは初めてだったので、いろいろ無茶も言ってしまった。先程、北条さんにも呆れられました。今後はそういうことはしません」

「いえ。私も勉強になりましたし、いろんな方に今回は助けていただいて」
「助けて?」
何か引っかかったのか、蓮根はそう繰り返して首を傾げる。

「はい。車を探してくれたのは、代理店さんなんです」
「そうなんだ。さっき、北条さんも助けてもらっていたと言っていたけど」
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