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【番外編:雅人くんには分からない】
④
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──そんなはずはない。……と思うのだが。
「あれ? ないか?」
「うん。少なくとも俺は聞いたことない」
谷川は雅人に向かってにこにこしている。
「仕事に真面目すぎたのと。ほら、雅人は自分に好意を持つ女性を置物のごとくスルーしていくだろう。そういうとこだぞ」
「もしかして、俺のプライベートってちょっと壊滅的……とか?」
「うん。そう思う」
歯に衣着せない友人の正直な意見に雅人は目の前がたそがれそうだった。
「まぁ、今までは仕事も本当に忙しかっただろうし、夢中だったのも知っているよ。でも、俺は雅人にはもう少し違うことにも目を向けてほしい。その方がきっと幸せになれるからさ」
谷川との付き合いが長いのもこういうところだろうと雅人は思う。
会社はまだ新しいこともあり、若い社員も多く、海外の外資系企業で仕事をしていた雅人の話を聞きたがる。また、ノウハウや勉強をすることに前向きな社員が多いのも谷川の人徳によるものだろう。
そんな会社で遅くまで残って若い社員へのレクチャーを終えて、マンションに帰ってきた雅人はテーブルの上を見て口元を微笑ませた。
綺麗に掃除された部屋の中のお気に入りのダイニングテーブルの上には、料理が綺麗に盛られた皿が置いてあり、カードが添えられている。
カードにはメニューが記載されているはずだ。
先日、顧客が開発したマッチングアプリを使ってみて、家事代行サービスを頼んでいるのだ。
家事代行サービスはロンドンにいた頃も頼んでいた。
雅人は自宅にいる時間は極端に少ないが、無駄な時間も過ごしたくない。すると家事は代行した方がいいと分かった。できなくはないが、その方が手っ取り早い。
ロンドンで雅人が住んでいたのは、スタジオルームだ。
日本ではあまり聞かないが、スタジオルームというのはいわゆる日本でいうところのワンルームを指す。ワンルームと言っても日本のワンルームとは全く違う。
部屋の中にキングサイズのベッドを置いて、ダイニングセット、ソファセットを置いてもまだ余裕があり、キチネットというミニキッチンがついている。ミニキッチンが日本の通常のキッチンくらいの感じだ。
最初はワンベッドルームの部屋を探していたが、スタジオルームで十分だった。それよりも会社に徒歩圏内で行ける立地の方を優先した。安くはなかったが、価値はあった。
『──時間は買える。得意なものは得意な人に』
雅人の信条でもあった。
その日、たまたま早く帰ったのはクライアントからのリスケジュールがあったからだ。会社に戻っても遅くなりそうだったし、今日はもう帰るかとマンションのドアを開けたら玄関に靴があった。
つま先が玄関の入り口の方を向いているのを確認し、きちんとした人が来てくれているらしいと安心する。
その時、雅人の耳に軽い鼻歌が聞こえてきた。
どうやら、キッチンの方角のようだ。
ひょいっと除くと、小柄な女性が鼻歌を歌いながら料理をしていた。全く雅人に気づかないなんてことがあるだろうかと思うと、その耳にイヤホンが刺さっている。
「あれ? ないか?」
「うん。少なくとも俺は聞いたことない」
谷川は雅人に向かってにこにこしている。
「仕事に真面目すぎたのと。ほら、雅人は自分に好意を持つ女性を置物のごとくスルーしていくだろう。そういうとこだぞ」
「もしかして、俺のプライベートってちょっと壊滅的……とか?」
「うん。そう思う」
歯に衣着せない友人の正直な意見に雅人は目の前がたそがれそうだった。
「まぁ、今までは仕事も本当に忙しかっただろうし、夢中だったのも知っているよ。でも、俺は雅人にはもう少し違うことにも目を向けてほしい。その方がきっと幸せになれるからさ」
谷川との付き合いが長いのもこういうところだろうと雅人は思う。
会社はまだ新しいこともあり、若い社員も多く、海外の外資系企業で仕事をしていた雅人の話を聞きたがる。また、ノウハウや勉強をすることに前向きな社員が多いのも谷川の人徳によるものだろう。
そんな会社で遅くまで残って若い社員へのレクチャーを終えて、マンションに帰ってきた雅人はテーブルの上を見て口元を微笑ませた。
綺麗に掃除された部屋の中のお気に入りのダイニングテーブルの上には、料理が綺麗に盛られた皿が置いてあり、カードが添えられている。
カードにはメニューが記載されているはずだ。
先日、顧客が開発したマッチングアプリを使ってみて、家事代行サービスを頼んでいるのだ。
家事代行サービスはロンドンにいた頃も頼んでいた。
雅人は自宅にいる時間は極端に少ないが、無駄な時間も過ごしたくない。すると家事は代行した方がいいと分かった。できなくはないが、その方が手っ取り早い。
ロンドンで雅人が住んでいたのは、スタジオルームだ。
日本ではあまり聞かないが、スタジオルームというのはいわゆる日本でいうところのワンルームを指す。ワンルームと言っても日本のワンルームとは全く違う。
部屋の中にキングサイズのベッドを置いて、ダイニングセット、ソファセットを置いてもまだ余裕があり、キチネットというミニキッチンがついている。ミニキッチンが日本の通常のキッチンくらいの感じだ。
最初はワンベッドルームの部屋を探していたが、スタジオルームで十分だった。それよりも会社に徒歩圏内で行ける立地の方を優先した。安くはなかったが、価値はあった。
『──時間は買える。得意なものは得意な人に』
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その日、たまたま早く帰ったのはクライアントからのリスケジュールがあったからだ。会社に戻っても遅くなりそうだったし、今日はもう帰るかとマンションのドアを開けたら玄関に靴があった。
つま先が玄関の入り口の方を向いているのを確認し、きちんとした人が来てくれているらしいと安心する。
その時、雅人の耳に軽い鼻歌が聞こえてきた。
どうやら、キッチンの方角のようだ。
ひょいっと除くと、小柄な女性が鼻歌を歌いながら料理をしていた。全く雅人に気づかないなんてことがあるだろうかと思うと、その耳にイヤホンが刺さっている。
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