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1巻

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   プロローグ


 駅前の「タワー」と呼ばれるビルの中に「榊原さかきばらトラスト」の本社がある。もともと地元の不動産を多数保有している企業で、近隣にその名を知らぬものはない。
 一階にある受付には常時二名の女性が座っていて、社外からのお客様の対応などの業務を行っていた。
 顔で選んでるのか? と思うような美人が対応してくれる、と大変に評判がよかった。

佐伯さえきさん、相変わらず綺麗ですね」
いちじょう様、そんなことないですよ?」
「ああ、名前覚えてくださっているんだ! 嬉しいです」

 受付ではそんなやりとりが聞こえてくる。
 一人の女性が来客者の男性に対応していた。
 週一のエステはマスト、美容院にはこまめにカットに行き、ヘッドスパとトリートメントは欠かさない。
 毎日のルーティンである寝る前の軽いストレッチ、それからホームエステも忘れないことで、その美しさを維持しているのだ。
 さらに手入れの行き届いたさらりとした髪が、小首をかしげるとサラッと肩から流れるのを十分に意識し、穂乃香ほのかは一条に笑顔を向けた。


 佐伯穂乃香は榊原トラストグループ本社の受付嬢だ。
 さらりとした髪と、キメの細かい白い肌。
 身長は一六〇センチに微妙に満たないくらい。
 けれど、小顔で黒目がちの大きな瞳の持ち主だ。
 少しだけ下がり気味の目尻が、顔立ちに愛嬌をプラスしている。
 小さめだけれどすうっと通った鼻筋に、きゅっとした小さな唇。
 絶世の美人というよりも、人に好かれる可愛い顔立ちなのだ。


 タワーと呼ばれている駅前のセキュリティの厳しいこの大きなビルは他県でも有名だ。榊原トラストはこのビルのみならず、いくつもの高層オフィスビルの他、高級高層マンションの運営もしている。
 もちろん、不動産だけではなく、それに派生するコンシェルジュ業務や、土地開発やモールの企画など、多角経営をしている会社なのだ。
 そんな大きな企業の受付である、ということは穂乃香のプライドでもあった。


 ……のだが……


「異動、ですか?」

 上司との面談で、穂乃香は突然そう命じられたのである。
 まさに寝耳に水。
 しかし、人事とはそういうものだ。

「そうです。佐伯さんは今の部署で三年目ですし、そろそろ別のキャリアを積んだほうがいいと思います。次は営業部ですね。営業課のアシスタントです」

 (えぇぇぇーー⁉)


 穂乃香はあまりのショックで、その後の上司の話す内容など頭に入ってこない。

(うちの営業部って、営業部って、CEO直属とも言われていて、無茶苦茶ハードな部署だって聞いてるんですけどーー‼)



   第一章 異動先はドS上司のアシスタント


 榊原トラスト本社の最上階にある、夜景が見えるフレンチが食べられる店では、穂乃香が同期の篠原梨花しのはらりかと「女子会フレンチコース・二時間半飲み放題付き」を堪能していた。

「異動なんてショックすぎるー」

 穂乃香は、その綺麗な顔を両手で押さえて嘆く。

「けどうちの営業部ってみんなエリートばっかりだし、うらやましいけどなあ」
「だって……」

 穂乃香にしてみれば、エリートより自分のプライドの問題なのだ。

「はー……受付好きだったのになあ……」
「まあ、穂乃香はそれに命かけてたもんねぇ」

 穂乃香はそれには微笑みで返事した。
 それには理由があったから。
 それは、穂乃香が小学校の卒業のお祝いで、タワーで食事をした時のことだ。父との待ち合わせでロビーで待っていた穂乃香は、受付の女性が来る人来る人に笑顔で対応しているのを見た。
 濃紺にオフホワイトのラインの入った制服もとても可愛くて、笑顔も素敵で、お客様もついつられて笑顔になってしまうくらいで、穂乃香もぼうっとそれに見とれていた。
 その受付の女性は、そんな穂乃香に気づくとにこっと笑顔を向け、おいでおいで、と手招きしたのだ。
 そして『内緒ね』とそれはそれは素敵な笑顔とウインクを添えて、イチゴのキャンディをくれたのである。
 その時のその女性は、今まで穂乃香が見たことがないくらいに綺麗で、しかも近づいたらすごくいい匂いがした。
 その瞬間から、穂乃香の憧れの職業は受付嬢になったのだ。
 綺麗でありながら、きりりと仕事をしている様子。どんな人も笑顔にしてしまうような魔法を使える人のように感じた。
 実際にその職についてみると、もちろん苦労もあるけれど、穂乃香には合っていたし、憧れの職業でもあり、やりがいもあったのだ。
 それなのに……。人生なかなかうまくいかないものだ。

「そんなに可愛いのに、あなたは誰ともお付き合いしないのよね」

 穂乃香をじっと見つめていた梨花は、ワインを傾けて、穂乃香にため息をついてみせる。

「んー、いい人はいなくもなかったけど……」

 可愛らしくて人当たり良く穏やかな穂乃香は、合コンのお誘いも引きも切らないのだ。
 穂乃香としては付き合いのつもりで何度か参加したことはあるが、「お仕事は?」と尋ねられ「榊原トラストで受付をしています」と言うと「受付嬢なんだ! すごい!」と目の色を変えられてしまって、穂乃香自身のことを見てくれているとは思えなかった。
 だから、大学を卒業してからは男性とのお付き合いはしていない。
 仕事に夢中だったから、ということもある。

「で、営業部で何するの?」
「えっと、アシスタントとか言っていたかな」

 そういえばショックで詳しい話を聞いていなかったが、優秀な営業の専属アシスタントだとか聞いたような気がする。

「なんか誰かの専属アシスタント、とか言っていたような……」
「それってカッコイイじゃない!」
「でも、受付のがいい……」

 くすんと鼻をすする。

「だーかーらー! もう、決まったことでしょ? それより、そのアシスタント? って秘書みたいなものじゃないの? それもいいと思うけど」

 秘書……だとしたら、確かにかっこいいかもしれない。

「それに専属でアシスタントをつけられるって営業部でも相当優秀なんじゃないの? その人相当なエリートなんだと思うよ? うまくいっちゃいなよー!」
「えー? それはないから!」


   ◇◇◇


 穂乃香と梨花がワイングラス片手に盛り上がっていた頃、榊原トラスト本社の営業部ではナンバーワンセールスの呼び声も高い桐生聡志きりゅうさとしがパソコンに向かっていた。

「桐生課長、今日もまだやっていくのか?」

 年齢的には課長と呼ばれるほどの年次ではない桐生ではあるが、榊原トラストの営業部を引っ張っている主力の一人である。年次とは関係なくその実力を周りに認められている人物だ。

「やっていくよ」
「アシスタントがいないと大変だな」
「まあ、来る予定にはなっているから」

 同僚に苦笑を返した桐生だ。
 高身長、有名私立大卒。高収入であることも間違いない。若いながらも榊原トラストにその人ありと言われている。
 しかも、整っている顔立ちを、営業だからと磨きをかけることも怠らない。
 そんな桐生を『意識高い系?』とからかう同僚もいるが、そんな奴らに成績は負けたことはないのだ。
 二ヶ月前に二年専属でついてくれていたアシスタントが結婚退職した。
 同じ部署の同僚と社内恋愛だったらしいが、桐生はあまりの忙しさに二人が付き合っていることすら知らなかった。突然の結婚退職は非常にショックだった。
 次に来たアシスタントは派遣で三ヶ月契約だったのに、一ヶ月で来なくなってしまった。
 かなり仕事をぶん投げた自覚はある。
 しかし、プロの派遣だと聞いていたのだ。意思疎通がうまくいっていないかもしれないと桐生自身も感じていたけれど。

『聞いてません。私の業務じゃありません。こんなに忙しいなんて聞いていませんでした』

 相当に腹を立てて、派遣元に愚痴って派遣終了になったらしい。
 頼む。それは自分に言ってほしかった。


(明日は午前と午後でアポが入っていたか?)

 午前の資料はできている。中身についても確認した。しかし、プレゼンするのに足したい条項があるのを思い出す。
 午後は先方への確認が必要な案件があった。それについては会社のしかるべき部署がメールで回答してくれている。
 新規の案件の資料の作成、部下からの相談。関わっているプロジェクト、それもフォローやメンテナンスしてやらなくてはいけない。
 どう考えても時間が足りない。

(あー、通達確認しておけって言われていたな)

 気づいたら今日も時計の針は零時に到達しそうだ。
 そんな中、明日からまたアシスタントがつくと知って、桐生は安心した。

(この雑務からやっと解放される!)

 前任には辞められ、前々任は結婚退職。
 もちろん手は欲しい!
 けれどアシスタントというものが、若干トラウマとなりつつある桐生なのだ。
 次はどんな人物なんだろうと気にはなっていたけれど、とにかくは目の前の仕事である。
 頭から雑念を追い出し、桐生はものすごいスピードで資料の作成を進めていくのだった。


 その翌日のことだ。

「桐生課長! マジですか? マジですか?」
「あ?」
「今度来るアシスタントって、受付の佐伯さんじゃないですか⁉」

 同じデスク島の後輩である時任ときとうのテンションが朝から異常に高い。
 佐伯、という名を聞いて、今日から配属になるアシスタントがそんなような名前だったような気もすると、やっと思いつく桐生だ。

「そうか。確かそんな名前だったな……」

 おぼろげな記憶を頼りにうなずく。
 すると、周りがいっきにざわめいた。

「羨ましすぎなんですけど!」
(こいつら、何を朝からそんなにはしゃいでいるんだ?)

 普段はこんなふうに桐生の周りになど集まってこないくせして、今日からアシスタントが配属になるからと桐生のデスクの周りでにぎやかにしているのだ。

「もー、俺、彼女の大ファンなんです」
「朝とか、ふわっとした笑顔で『おはようございます』とか言われるとラッキーって思うよなあ」
「何をそんなにはしゃいでいるんだ?」
「受付の佐伯さんですよ!?」

 桐生にしてみれば、ああ受付? そういえば人がいたな、という感覚だったのだ。
 皆がはしゃぎ回る意味が分からない。

「桐生課長だって、朝ご挨拶されますよね?」
「よく覚えていない。まあ、おはようと言われれば返すとは思うが、そもそも接点もないしな」

 桐生がそう言うと、時任にぬるい表情を浮かべられた。
 なんだかムカつく。

「まあ……だから桐生課長なんですよね、うん」

 なんだ、それは。

「佐伯さんと桐生課長の組み合わせってとんでもない迫力になりそうです!」
「美男美女だよなあ」

 一方でデスク周りはまだ盛り上がっている。

「桐生課長、彼女いないんですよね?」
「興味ない」

 一体何の心配をされているのだろうか。

「じゃあ、絶対に佐伯さんに手出さないでくださいね!」
「まあ、桐生課長なら心配ないかー!」

 あははーと笑っている同僚たちにかける言葉はない。
 事実すぎるからだ。
 桐生のスラリと高い身長は、一センチ位のサバを読んで公称は一八〇センチだ。均整の取れた体格は、それなりに節制しているおかげでもあった。
 整っている顔と言われることが多い涼し気な目元と、通った鼻筋は両親からの贈り物だと思っている。
 営業だって、綺麗な見た目は仕事に有利だと、桐生は自分の容姿については割り切った考え方をしていた。
 少し薄めの唇は、笑みを浮かべれば誰もが魅了されるけれど、仕事中はきりりと引き締められていることが多い。
 仕事中の厳しい顔は涼しげできりりとしていて、けれど笑顔になれば、とてつもなく素敵! と、そのギャップも密かな人気なのだ。しかし、その口から吐き出される毒と言えば、半端ない。
 基本的に自分は仕事が好きでできるせいか、桐生は他の人ができないことには少しにぶいところがあった。
 それに加えて、歯に衣着せぬ性格だ。

『ありえない』
『こんなんじゃ一緒に仕事はできない』
『これができない意味が分からない』

 悪意はない。
 しかし、正直これでエース級の営業でなかったら、結構際どいところだ。
 桐生自身が人よりも仕事をしていて、そう言われても仕方ないと周りを納得させるだけのものがあるから、ギリギリ許されている行動なのだ。

『ま、桐生課長はキツいからねー』
『顔はよくて、性格も面倒見も悪くないけど、口は悪い。桐生課長は観賞用』

 それが、桐生聡志の周りからの評価だった。


 その時、部長に連れられて、緊張した様子の女性が部内に入ってきた。
 一斉に課内がざわつく。
 それも分かる気がした。
 その女性はつややかな髪に、長くてたくさんのまつに縁取られた大きなくりんとした瞳、柔らかげな印象の目元と手入れの行き届いた肌をしていた。
 緊張しているのか、その白い肌は蒼白いくらいに見える。
 きゃしゃではあるけれど、ジャケット姿を見る限りではスタイルは悪くなさそうだ。
 見た目が悪くなければ、お使いにも使える。
 それが、桐生の佐伯穂乃香に対する第一印象だった。


 部長が声を張り上げた。

「今日から桐生課長の専属アシスタントをしてもらう佐伯さんだ。佐伯さん、一言いい?」

 部長まで、優しく彼女の顔をのぞき込む。

(『いい?』なんて、俺には聞いたことないくせに!)
「はい」

 さらりとした声だった。
 背中をまっすぐにした立ち方が綺麗なのは、さすが受付経験者だと桐生は思う。

「今日からお世話になります、佐伯穂乃香です。ずっと受付だったので、社内のことは慣れないことが多いです。ご迷惑をおかけすることもあるかと思います。今後勉強していきますので、助けていただけると嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 その後のお辞儀も、それは見事なものだった。
 これならば客先に連れていっても問題はないと桐生は判断した。

「桐生課長……いいなー……」

 後輩たちの心底羨ましそうな声がする。
 悔しかったら専属アシスタントがつくくらいの業績を上げろ、ということだ。
 桐生が榊原トラストを気に入っているのは、こういうところだ。
 しっかりと実力主義。
 業績を上げているものはきっちり優遇してもらえる。
 単に役職で上がっているだけの課長には、アシスタントなどつかない。
 そういうことなのだ。
 それも桐生が業績を上げ始めた頃に、課内のアシスタントだけでは自分の業務には追いつけないという話を周囲にしたところ、それがCEOの耳に入ったらしく、試しにとつけてもらったのだ。
 以降、桐生は業績を下げたことはない。
 桐生が社外で数字を作る分、社内の他の作業や業務を任せられるような人物が必要なのだ。


 彼女は桐生の席に来ると、綺麗に頭を下げた。

「よろしくお願いいたします」

 綺麗な仕草や感じが良いのは助かる。

「桐生です。よろしく。やってほしいのは、俺が普段できないような社内業務の管理や資料の準備、場合によっては取引先フォロー等だから」

 彼女は一瞬おびえたような表情を見せた。

「……はい」

 同じデスク島の時任が椅子から立って、彼女に笑顔を見せる。

「同じチームの時任です! 分からないことがあれば何でも聞いてくださいね!」

 時任はとても感じが良くワンコ系と言われている。
 確かに『桐生課長! 桐生課長!』となつく様子は子犬のようだ。

(こいつ、そう言えば、さっきは佐伯さんに『おはようございます』とか言われるとラッキーとか言っていたな……)

 同じチームでもあるし、仲良くやってほしいとは思うが。

「ありがとうございます」

 確かに彼女が時任に向けた、ふわりとした笑顔は悪くはない。


   ◇◇◇


 穂乃香が榊原トラストに入社して最初に入った部署は、総務部の顧客管理業務課だった。そこが受付の部署になる。
 顧客管理業務課には男性社員もいるけれど、受付業務は女性だけなのだ。
 初めての異動で、穂乃香はとても緊張していた。
 しかも初めての内務担当。営業部が華やかであることは知っていたけれど。

(だ……男性ばっかりだわ)

 営業部の八割は男性である。こんなに男性ばかりの部署はもちろん初めてだ。

(黒い!)

 みんなが着ているのはダークカラーのスーツなのである。

(圧迫感がある!)

 男性が多い部署では穂乃香は埋もれてしまい、圧迫感を感じても不思議はなかった。
 そんな穂乃香を、部長は一人の男性の席に案内してくれた。
 部長がにこにこと案内してくれるから、彼も席を立った。
 身長が高い。一八〇センチくらいありそうだ。すらりとしていて、きらきらとまぶしいくらいに端正な顔立ち。

(すっごい! カッコいい!)

 ぴしりと決まったスーツは、綺麗に身体にフィットしているところを見ると、おそらくオーダーメイドだろう。ちらりと時計を確認したその時計は、スイス製の一流モデル。
 切れ長の涼しげな目元が印象的で、鼻筋もまっすぐ通っていて、それに明らかに仕事できます! 的なオーラをまとっていて、どこから見ても魅力的な人だったのだ。

(この人の専属アシスタント……)

 ちょっと憂鬱だった気持ちも晴れたような気がした。

「よろしくお願いいたします」

 社内でも指折りの営業マンというのは華やかさもオーラも違うものなのねと感心しつつ、この人のために精一杯頑張ろうと決心し、誠心誠意気持ちを込めて穂乃香は挨拶した……つもりである。
 返ってきたのは、

「桐生です。よろしく。やってほしいのは、俺が普段できないような社内業務の管理や資料の準備、場合によっては取引先フォロー等だから」

 そっけない自己紹介と冷ややかな目線と無表情だった。

(──っ……怖い、怖いよー!)
「はい……」

 穂乃香はそう返事をするのでいっぱいいっぱいだった。
 受付にいた時は、社員にも笑顔しか向けられたことのない穂乃香である。
 無表情にこれをお願いするから、なんて言われたことはほぼないのだ。


 穂乃香のために桐生の隣の席が用意されていた。専用のパソコンや文具もある。
 早速穂乃香はパソコンを立ち上げる。するとそれを見計らったかのように、桐生に話しかけられた。

「スケジューラー、分かる?」
「あ、はいっ」

 各部署のアポイントはスケジューラーで確認していたので、もちろんそれは使える。

「いろんなところから俺のスケジュールの照会が入るけど、基本的には勝手に入れないでほしい。不在の時はメモしておいて。あとで確定してから入力をお願いするから」
「はい」

 そしてこの資料を準備して、と言われたが、穂乃香にはどうやって準備したらいいのか分からなかった。

「佐伯さん、こっちに資料室があるからご案内します」

 戸惑う穂乃香を見て、先ほど紹介された同じチームの時任が助け舟を出してくれる。資料室まで案内してくれたのだ。
 桐生はその間も社内、社外含め、電話応対で忙しそうである。
 桐生の様子を気にしながらも、穂乃香は席を立って時任と資料室に向かうことにした。


「桐生課長は忙しそうでしょう?」

 時任が苦笑しながら穂乃香に話しかける。

「はい」

 過去の資料はここにあるから、と穂乃香は時任にファイルを渡された。


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