76 / 97
17.育成教育
育成教育②
しおりを挟む
甘くて優しいキスは愛おしい気持ちがとても伝わる気がした。
腕の中にもたれかかってくるその重みが嬉しい。
少しずつ、紬希の息が乱れていくのも。
「紬希も心を乱されたかもしれないけれど、僕だって乱されている。空港で僕の腕は拒否したのに、花小路くんには平気だし、今日も知らない間に人見知りの紬希が門脇と仲良くなっているし」
「乱れるんですか?」
「むちゃくちゃ乱れるよ。ただ、それを理性で抑えることに慣れているだけだ」
紬希がひょい、と顔を覗くと少しだけ拗ねたような貴堂の顔があって、見たことのないその表情につい、紬希は貴堂の顔に手で触れてしまった。
「貴堂さんが心乱れるなんて、信じられないわ」
「僕だってとても心が乱れるよ。好きな人には」
貴堂が笑って指の背で紬希の頬をそっと撫でる。
「あの……とっても不謹慎なことを言ってもいいですか?」
紬希の不謹慎。
それは是非聞きたい貴堂だ。
「なにかな?」
「いけないって思うのに、少しだけ嬉しいんです」
「正直に打ち明けよう。僕もなんだ。紬希が僕のことで心を乱してくれているのが、少しだけ嬉しかった」
貴堂には全部分かってしまう。
そして、最近は紬希も貴堂のことを分かることがある。
こんな顔で貴堂が近づく時は、キスをする時なのだ。
紬希はそっと目を閉じる。
柔らかく唇に触れる温かさに紬希はそれだけでとても嬉しくなってしまって、身体の力が抜けそうだった。
しっかり抱きしめられている力強い腕も、広い胸も包み込まれる温かさもとてもとても好きだ。
唇と唇が触れることはとても気持ちいい。緩く吸われるのも求められているようでいい。
ただ、口の中を舐められるのはまだ、慣れないのだけれど。
急に身体を固くしてしまう紬希に、貴堂は苦笑した。
「このキスはまだ慣れない?」
やっぱり慣れないとダメでしょうか……。
──考えていることが手に取るようにわかるな。
とても無垢な瞳でダメ?と聞きたそうな表情は可愛いけれど、理性には自信がある貴堂だけれど、貴堂はいたって健康な成人男子なのである。
これは一つずつ教えていかなければいけないな。
貴堂は機長としても非常に優秀な人材だ。
機長というのは機に責任を持って操縦するだけではない。一緒に乗務する副操縦士を育てることも業務のひとつなのだ。
部下の育成に関する教育も当然受けている。
その育成過程は4つあると言われていた。導入、提示、適用、確認、だ。
『導入』では心の準備をさせるものだと言われている。
いきなり本題に入って教育を行うと、本人は心の準備やなぜ教えられるのかなど、分からないまま始めることになる。
それは今後のためにも良くない。
今行っていることの重要性や意義、メリットなどを話し合い、本人が覚えたい、習いたい意欲を起こさせることから始めるものだ。
それは操縦でも同じである。まずはひと通りやってみせて、手順、勘やコツを理解させる。
次に『提示』だ。ここでは説明してやって見せる。
勘やコツを強く印象づけて、理解や納得するまで何度も繰り返すのだ。
そして『適用』である。
やらせながら習得させ、実際に身についたか確かめていく。
実体験としてやらせることは、業務を覚える上で非常に有効な方法で本人の自信にもなると言われている。
ここでは本人が習得していればできてしまうし、習得が未熟であればできないということが可視化される段階だ。
腕の中にもたれかかってくるその重みが嬉しい。
少しずつ、紬希の息が乱れていくのも。
「紬希も心を乱されたかもしれないけれど、僕だって乱されている。空港で僕の腕は拒否したのに、花小路くんには平気だし、今日も知らない間に人見知りの紬希が門脇と仲良くなっているし」
「乱れるんですか?」
「むちゃくちゃ乱れるよ。ただ、それを理性で抑えることに慣れているだけだ」
紬希がひょい、と顔を覗くと少しだけ拗ねたような貴堂の顔があって、見たことのないその表情につい、紬希は貴堂の顔に手で触れてしまった。
「貴堂さんが心乱れるなんて、信じられないわ」
「僕だってとても心が乱れるよ。好きな人には」
貴堂が笑って指の背で紬希の頬をそっと撫でる。
「あの……とっても不謹慎なことを言ってもいいですか?」
紬希の不謹慎。
それは是非聞きたい貴堂だ。
「なにかな?」
「いけないって思うのに、少しだけ嬉しいんです」
「正直に打ち明けよう。僕もなんだ。紬希が僕のことで心を乱してくれているのが、少しだけ嬉しかった」
貴堂には全部分かってしまう。
そして、最近は紬希も貴堂のことを分かることがある。
こんな顔で貴堂が近づく時は、キスをする時なのだ。
紬希はそっと目を閉じる。
柔らかく唇に触れる温かさに紬希はそれだけでとても嬉しくなってしまって、身体の力が抜けそうだった。
しっかり抱きしめられている力強い腕も、広い胸も包み込まれる温かさもとてもとても好きだ。
唇と唇が触れることはとても気持ちいい。緩く吸われるのも求められているようでいい。
ただ、口の中を舐められるのはまだ、慣れないのだけれど。
急に身体を固くしてしまう紬希に、貴堂は苦笑した。
「このキスはまだ慣れない?」
やっぱり慣れないとダメでしょうか……。
──考えていることが手に取るようにわかるな。
とても無垢な瞳でダメ?と聞きたそうな表情は可愛いけれど、理性には自信がある貴堂だけれど、貴堂はいたって健康な成人男子なのである。
これは一つずつ教えていかなければいけないな。
貴堂は機長としても非常に優秀な人材だ。
機長というのは機に責任を持って操縦するだけではない。一緒に乗務する副操縦士を育てることも業務のひとつなのだ。
部下の育成に関する教育も当然受けている。
その育成過程は4つあると言われていた。導入、提示、適用、確認、だ。
『導入』では心の準備をさせるものだと言われている。
いきなり本題に入って教育を行うと、本人は心の準備やなぜ教えられるのかなど、分からないまま始めることになる。
それは今後のためにも良くない。
今行っていることの重要性や意義、メリットなどを話し合い、本人が覚えたい、習いたい意欲を起こさせることから始めるものだ。
それは操縦でも同じである。まずはひと通りやってみせて、手順、勘やコツを理解させる。
次に『提示』だ。ここでは説明してやって見せる。
勘やコツを強く印象づけて、理解や納得するまで何度も繰り返すのだ。
そして『適用』である。
やらせながら習得させ、実際に身についたか確かめていく。
実体験としてやらせることは、業務を覚える上で非常に有効な方法で本人の自信にもなると言われている。
ここでは本人が習得していればできてしまうし、習得が未熟であればできないということが可視化される段階だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
447
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる