64 / 97
14.ゴーアラウンド
ゴーアラウンド④
しおりを挟む
けれど、あんなに話せるようになっていたのに、いざ電話しようと思うとどうやって切り出せばいいのか分からない。
紬希は作業場のあの貴堂と一緒にお茶をしたミーティングスペースで、携帯をつついた。
そうして、いつもは貴堂が連絡をくれていたのだと思い立つ。
そうやって、紬希との絆を繋いでくれていた。
なにを話せばいいのか分からないと思っているうちに時間は経ってしまう。
そして、いつも連絡をくれていた貴堂からも連絡は来ない。
もしかしたら、仕事が忙しいのかもしれない。
けれど、貴堂がなにかしてくれなければ、自分ではなにもできないというのは、違うのではないだろうか。
いつものように紬希は自分の心に聞いてみる。
私は何がしたいの?
──声が聞きたい。
『紬希に会いたい』
と言ってくれる貴堂のあの声がとても好きなのだ。低くて、優しくて少し甘くて。
真面目な顔で交際の説明をしてくれた。
太陽みたいな笑顔。
あははっと笑う顔も、声も開けっ広げでとても好きだ。
『上手くなくても。それもきちんと汲み取ってくれる人だよ。紬希が選んで心を開いた人は信頼できる人だ』
雪真はそう言っていた。
(私が選んで、心を開いた人……)
そんな風に考えた事はなかったけれど、確かにその通りなのだ。紬希が選んだ人は信頼できる人だと言った。
決心して、紬希はテーブルに置いてあった携帯を手に取る。
思い切って貴堂の電話番号を選択し、発信ボタンを押した。
けれどもその電話は即座に留守番電話に切り替わってしまったのだ。
搭乗しているときは携帯の電源は切っていると聞いている。
──きっと、飛行機に乗っているのね。
そうは思ったけれど、なおさらに貴堂がいつもくれているものがどれだけ貴重なものだったのか、分かった。
一緒にいられる時間は少なくてもその中で貴堂はできる限りのことをしてくれていた。
──私はどうなの?
いつだって、過去だって、紬希は紬希に出来る最上のことをしていた。
結果的に悲しいこともあったけれど、それは自分が悪いのではない。そういうこともあるのだ。
それが、急にストンと胸に落ちてきた。
出来るベストを尽くしても、どうしようもないことは起きる。
けれど、いつも紬希には助けてくれる人がいたのだ。その人たちはなんと言ってくれていた?
紬希は悪くない、といつも言ってくれていた。
なのに、頑なに自分が悪いのかもしれない、と思い込んでいたのは……。
──私だわ。
それを溶かして前向きにさせてくれたのは貴堂だ。
頑なだった紬希に何度も何度も『君はすごい』『尊敬している』『誇らしい』と伝え続けてくれた。
紬希ですら、素敵なのだと明らかに分かる人に、何度も伝え続けられたのだ。
その敬意も愛情も、信頼も覚悟も、全部全部紬希には伝わっていた。
気付いたら紬希の頬をたくさんの涙が流れていた。
──貴堂さんはずっと、ずっと伝え続けてくれていたのに……っ。
信頼するだけの勇気を持てなかったのは紬希の方なのだ。
(私は信じます。私を信じてくれる貴堂さんを信じる)
その時だ。携帯に着信があった。
──え?雪ちゃん?
「はい」
『紬希、すぐに空港に来れるか?』
珍しく切羽詰まった声だ。
紬希は胸騒ぎがした。
紬希は作業場のあの貴堂と一緒にお茶をしたミーティングスペースで、携帯をつついた。
そうして、いつもは貴堂が連絡をくれていたのだと思い立つ。
そうやって、紬希との絆を繋いでくれていた。
なにを話せばいいのか分からないと思っているうちに時間は経ってしまう。
そして、いつも連絡をくれていた貴堂からも連絡は来ない。
もしかしたら、仕事が忙しいのかもしれない。
けれど、貴堂がなにかしてくれなければ、自分ではなにもできないというのは、違うのではないだろうか。
いつものように紬希は自分の心に聞いてみる。
私は何がしたいの?
──声が聞きたい。
『紬希に会いたい』
と言ってくれる貴堂のあの声がとても好きなのだ。低くて、優しくて少し甘くて。
真面目な顔で交際の説明をしてくれた。
太陽みたいな笑顔。
あははっと笑う顔も、声も開けっ広げでとても好きだ。
『上手くなくても。それもきちんと汲み取ってくれる人だよ。紬希が選んで心を開いた人は信頼できる人だ』
雪真はそう言っていた。
(私が選んで、心を開いた人……)
そんな風に考えた事はなかったけれど、確かにその通りなのだ。紬希が選んだ人は信頼できる人だと言った。
決心して、紬希はテーブルに置いてあった携帯を手に取る。
思い切って貴堂の電話番号を選択し、発信ボタンを押した。
けれどもその電話は即座に留守番電話に切り替わってしまったのだ。
搭乗しているときは携帯の電源は切っていると聞いている。
──きっと、飛行機に乗っているのね。
そうは思ったけれど、なおさらに貴堂がいつもくれているものがどれだけ貴重なものだったのか、分かった。
一緒にいられる時間は少なくてもその中で貴堂はできる限りのことをしてくれていた。
──私はどうなの?
いつだって、過去だって、紬希は紬希に出来る最上のことをしていた。
結果的に悲しいこともあったけれど、それは自分が悪いのではない。そういうこともあるのだ。
それが、急にストンと胸に落ちてきた。
出来るベストを尽くしても、どうしようもないことは起きる。
けれど、いつも紬希には助けてくれる人がいたのだ。その人たちはなんと言ってくれていた?
紬希は悪くない、といつも言ってくれていた。
なのに、頑なに自分が悪いのかもしれない、と思い込んでいたのは……。
──私だわ。
それを溶かして前向きにさせてくれたのは貴堂だ。
頑なだった紬希に何度も何度も『君はすごい』『尊敬している』『誇らしい』と伝え続けてくれた。
紬希ですら、素敵なのだと明らかに分かる人に、何度も伝え続けられたのだ。
その敬意も愛情も、信頼も覚悟も、全部全部紬希には伝わっていた。
気付いたら紬希の頬をたくさんの涙が流れていた。
──貴堂さんはずっと、ずっと伝え続けてくれていたのに……っ。
信頼するだけの勇気を持てなかったのは紬希の方なのだ。
(私は信じます。私を信じてくれる貴堂さんを信じる)
その時だ。携帯に着信があった。
──え?雪ちゃん?
「はい」
『紬希、すぐに空港に来れるか?』
珍しく切羽詰まった声だ。
紬希は胸騒ぎがした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
447
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる