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20.スライディング土下座
スライディング土下座④
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忙しい中でも鷹條は二人の結婚式の準備には協力的だったし、式を楽しみにしてくれていると感じる。
ドレスの下見に行く日、約束通り母が一緒に来てくれたけれど、鷹條も非番だからとついてきてくれた。
ドレスの下見だけのはずなのに、結婚式場の衣装室は大きな窓から光の入る大きな部屋だった。壁沿いのラックにはたくさんのドレスがかかっている。
大きな窓を衣装室に備えているのは、陽の光の元でドレスを披露することが多いのでイメージの違和感をなくすためと説明を受ける。
「衣装自体は普段は光の当たらない場所に保管されていますし、こちらも実はカーテンを閉めたら遮光性は高いんですよ」
そのため、全てのドレスがこのラックにあるわけではなく希望があれば倉庫からまた持ってきてくれるらしい。
細かな気遣いが素晴らしいと亜由美は感じた。
「例えば、結婚式の時は白のウエディングドレスをお召しになられて、披露宴ではお色直しとしてカラードレスをお召しになるという方もいらっしゃいますね」
「お色直し……」
正直に言えば亜由美はドレスのお色直しは考えていなかった。結婚式と披露宴をするのは本当に単に結婚したことをお披露目できればそれでいいと思っていたからだ。
「新郎様も結婚式はタキシード、披露宴は制服で……という形もございます」
ここの結婚式場は鷹條の先輩も何組か結婚式を挙げていて、慣れているせいかそんな提案もしてくれる。
鷹條は即答していた。
「え? 俺はいいかな」
亜由美は鷹條のタキシード、絶対に似合うと思うのだが鷹條自身が乗り気ではないのでは仕方ない。それに亜由美自身もお色直しは考えていなかった。
「いらっしゃった方に結婚のご報告ができて、おもてなしできればそれでいいかなって思っているんですけど」
それは亜由美の意思でもあって、鷹條とも共通している気持ちだった。
プランナーはにっこり笑って頭を下げる。
「そうでしたね。お二人とも本当に美男美女でいらっしゃるから、つい熱くなってしまいました。申し訳ございません」
そこへ軽いため息をつきながら母が同意する。
「分かるわぁ。本当に鷹條さんもイケメンさんだし、亜由美ちゃんも可愛いから。私の本音を言えばもう何着でもドレスを着てほしいところなんだけれど、その気持ちは抑えるわ」
「もう、お母さん。それは親バカだからね!」
「そうでもないと思うが……亜由美が可愛いのは間違いない」
母の言葉に鷹條がぼそっとつぶやく。 亜由美はそれにはハッキリと言っておいた。
「千智さんまで! 言っておくけど私がお色直ししたら千智さんもするのよ」
「それは大丈夫」
微笑ましいカップルと親子のやり取りをプランナーもにこにこしながら見ていた。
亜由美がカーテンを引かれた試着室から出てくるとその場から一斉にため息が漏れた。
母が涙を堪えている様子さえ見える。
「杉原様とても素敵です」
「お母さん、泣くのはまだ早いから……」
「でも、亜由美ちゃんがおっきくなって……」
ハンカチを目元に軽くあてる母の肩を亜由美はそっと撫でる。
「涙は本番まで取っておいて。ね?」
「うん。亜由美……すごく綺麗だ」
ワンショルダーでショルダー部分をリボンで装飾され、百合のようなデザインのマーメイドドレスはスレンダーなスタイルの亜由美にとても似合っていた。
「亜由美、他にも着てみたら?」
「あ……うん」
実は、Aラインのドレスが気になっていた。けど、イメージ的に何となくこちらかなと思ってマーメイドドレスを手に取ったのだ。
もちろん素敵だし、似合っていないとも思わないけれど。
鷹條にはきっと亜由美のその気持ちも見抜かれている。
「他に気になってるの、あるだろ?」
こくっと亜由美は頷いた。
本当に心からこの人が大好きだ。
ドレスの下見に行く日、約束通り母が一緒に来てくれたけれど、鷹條も非番だからとついてきてくれた。
ドレスの下見だけのはずなのに、結婚式場の衣装室は大きな窓から光の入る大きな部屋だった。壁沿いのラックにはたくさんのドレスがかかっている。
大きな窓を衣装室に備えているのは、陽の光の元でドレスを披露することが多いのでイメージの違和感をなくすためと説明を受ける。
「衣装自体は普段は光の当たらない場所に保管されていますし、こちらも実はカーテンを閉めたら遮光性は高いんですよ」
そのため、全てのドレスがこのラックにあるわけではなく希望があれば倉庫からまた持ってきてくれるらしい。
細かな気遣いが素晴らしいと亜由美は感じた。
「例えば、結婚式の時は白のウエディングドレスをお召しになられて、披露宴ではお色直しとしてカラードレスをお召しになるという方もいらっしゃいますね」
「お色直し……」
正直に言えば亜由美はドレスのお色直しは考えていなかった。結婚式と披露宴をするのは本当に単に結婚したことをお披露目できればそれでいいと思っていたからだ。
「新郎様も結婚式はタキシード、披露宴は制服で……という形もございます」
ここの結婚式場は鷹條の先輩も何組か結婚式を挙げていて、慣れているせいかそんな提案もしてくれる。
鷹條は即答していた。
「え? 俺はいいかな」
亜由美は鷹條のタキシード、絶対に似合うと思うのだが鷹條自身が乗り気ではないのでは仕方ない。それに亜由美自身もお色直しは考えていなかった。
「いらっしゃった方に結婚のご報告ができて、おもてなしできればそれでいいかなって思っているんですけど」
それは亜由美の意思でもあって、鷹條とも共通している気持ちだった。
プランナーはにっこり笑って頭を下げる。
「そうでしたね。お二人とも本当に美男美女でいらっしゃるから、つい熱くなってしまいました。申し訳ございません」
そこへ軽いため息をつきながら母が同意する。
「分かるわぁ。本当に鷹條さんもイケメンさんだし、亜由美ちゃんも可愛いから。私の本音を言えばもう何着でもドレスを着てほしいところなんだけれど、その気持ちは抑えるわ」
「もう、お母さん。それは親バカだからね!」
「そうでもないと思うが……亜由美が可愛いのは間違いない」
母の言葉に鷹條がぼそっとつぶやく。 亜由美はそれにはハッキリと言っておいた。
「千智さんまで! 言っておくけど私がお色直ししたら千智さんもするのよ」
「それは大丈夫」
微笑ましいカップルと親子のやり取りをプランナーもにこにこしながら見ていた。
亜由美がカーテンを引かれた試着室から出てくるとその場から一斉にため息が漏れた。
母が涙を堪えている様子さえ見える。
「杉原様とても素敵です」
「お母さん、泣くのはまだ早いから……」
「でも、亜由美ちゃんがおっきくなって……」
ハンカチを目元に軽くあてる母の肩を亜由美はそっと撫でる。
「涙は本番まで取っておいて。ね?」
「うん。亜由美……すごく綺麗だ」
ワンショルダーでショルダー部分をリボンで装飾され、百合のようなデザインのマーメイドドレスはスレンダーなスタイルの亜由美にとても似合っていた。
「亜由美、他にも着てみたら?」
「あ……うん」
実は、Aラインのドレスが気になっていた。けど、イメージ的に何となくこちらかなと思ってマーメイドドレスを手に取ったのだ。
もちろん素敵だし、似合っていないとも思わないけれど。
鷹條にはきっと亜由美のその気持ちも見抜かれている。
「他に気になってるの、あるだろ?」
こくっと亜由美は頷いた。
本当に心からこの人が大好きだ。
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