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18.両親へのご挨拶
両親へのご挨拶④
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家かと思ったら官舎だったらしい。
鷹條が説明していると、ちょうどパトロールにでも出ていたのか、パトカーが一台駐車場に戻ってくる。
「お疲れ様です!」
こちらに向かって大きな声で挨拶するのに、鷹條は軽く手を振った。
「お疲れ様です」
鷹條はまた亜由美に向かって話しかける。
「署長となると緊急時に対応しなくてはいけなくて、こうして警察署と署長官舎が敷地で繋がっているケースもあるんだ。表は普通なんだけどね?」
「驚いたわ……」
「そうだよな。警察署から見ても分からないようになっているし、表から見ても分からないのに、中では繋がっているんだ。面白いだろう?」
鷹條の言う通り、表からは全く分からなかった。
「祖父も退職直前は小さな所轄署の署長をしていて、そこの官舎も似たような造りだったな。敷地の隣が警察署でパトカーが出入りするんだ。子供にはたまらない遊び場だったよ。制服警察官は皆親切で、よく面倒を見てもらったし」
子供の頃の鷹條少年が目をキラキラさせながらパトカーに釘付けになっていたり、それを可愛がる制服警察官という光景も亜由美は想像するとなんだか微笑ましい気持ちになる。
「全ての警察署がこの造りになってるわけじゃない。都心は土地の関係もあるから官舎を少し離れたマンションで借り上げているケースもある。それでも徒歩圏内ではあるけど」
言われてみれば、緊急時に対応しなければいけない立場で、電車が停まっているから行けませんというのは言い訳にはならないのだなと分かる。
「こうやって、街を守ってくれてるのね……」
「まあ、そうだな」
確かに子供心にもそんな祖父や父親を間近で見ていて、尊敬の対象となり憧れるのも亜由美には理解できた。
「だから、警察官だったの?」
「まあ……そうだな」
鷹條は少し眩しそうな顔で警察署を見ていた。
「今の父のような立場だと夜昼構わずに警電が鳴る。都度対応しなければならないから、ほぼ休みはあってないようなものだ。旅行なんかももちろん行けない」
「警電?」
「警察電話。警察の業務専用通信回線の電話だよ。警察内部では警電って言って、会社でいう内線電話みたいな感じだな。署から連絡があることもあるし所轄管内からも管区からも連絡がある。父は寝る時も警電は枕元に置いてるよ」
鷹條の説明だとその警電というのは官舎に回線として敷いてあることになる。
鷹條の父はいつ鳴るか分からないその回線にいつでも対応できるようにしているということなのだろう。
「すごいのね……」
亜由美は知らなかった。そんな風にして自分達が守られていたなんて、聞かなかったらきっと知らないままだっただろう。
けれどきっと鷹條は子供の頃からそういう環境だったのだ。
「本来の実家は実家で別にあるんだ。正直……どちらに亜由美を連れて行くか迷ったけれど、一度こういうところも見ておいてほしくて。それに父が署長という立場じゃないとこんな警察官の裏なんて入り込めないからな?」
「貴重な経験だわ」
「父もあと三年で定年で、定年前の最後の奉公だと言ってる。だからその間にいい警官を育てたいそうだよ」
鷹條は普段は仕事については必要なこと以外ほとんど話さない。
こうやってたくさん話してくれるのが、信頼されているようで亜由美は嬉しかった。
「いい警官?」
「例えば、今日官舎に来ていたのは本当にまだ寮にいるような歴の浅い巡査なんだ。本来なら署長となんて直接話す機会はないよ。それでも触れ合う機会を作る。父は自分の経験を話したり、彼らの上司にも牽制になる」
「牽制……」
「男ばかりの世界だからな。どうしても他の業界より力関係が出やすい」
「あ、パワハラ的な?」
「そうだ。別に部下達は直接は父には何も言わないよ? それでもいつでも言えるっていう環境だけでも牽制になる。無茶をしないんだ」
鷹條が説明していると、ちょうどパトロールにでも出ていたのか、パトカーが一台駐車場に戻ってくる。
「お疲れ様です!」
こちらに向かって大きな声で挨拶するのに、鷹條は軽く手を振った。
「お疲れ様です」
鷹條はまた亜由美に向かって話しかける。
「署長となると緊急時に対応しなくてはいけなくて、こうして警察署と署長官舎が敷地で繋がっているケースもあるんだ。表は普通なんだけどね?」
「驚いたわ……」
「そうだよな。警察署から見ても分からないようになっているし、表から見ても分からないのに、中では繋がっているんだ。面白いだろう?」
鷹條の言う通り、表からは全く分からなかった。
「祖父も退職直前は小さな所轄署の署長をしていて、そこの官舎も似たような造りだったな。敷地の隣が警察署でパトカーが出入りするんだ。子供にはたまらない遊び場だったよ。制服警察官は皆親切で、よく面倒を見てもらったし」
子供の頃の鷹條少年が目をキラキラさせながらパトカーに釘付けになっていたり、それを可愛がる制服警察官という光景も亜由美は想像するとなんだか微笑ましい気持ちになる。
「全ての警察署がこの造りになってるわけじゃない。都心は土地の関係もあるから官舎を少し離れたマンションで借り上げているケースもある。それでも徒歩圏内ではあるけど」
言われてみれば、緊急時に対応しなければいけない立場で、電車が停まっているから行けませんというのは言い訳にはならないのだなと分かる。
「こうやって、街を守ってくれてるのね……」
「まあ、そうだな」
確かに子供心にもそんな祖父や父親を間近で見ていて、尊敬の対象となり憧れるのも亜由美には理解できた。
「だから、警察官だったの?」
「まあ……そうだな」
鷹條は少し眩しそうな顔で警察署を見ていた。
「今の父のような立場だと夜昼構わずに警電が鳴る。都度対応しなければならないから、ほぼ休みはあってないようなものだ。旅行なんかももちろん行けない」
「警電?」
「警察電話。警察の業務専用通信回線の電話だよ。警察内部では警電って言って、会社でいう内線電話みたいな感じだな。署から連絡があることもあるし所轄管内からも管区からも連絡がある。父は寝る時も警電は枕元に置いてるよ」
鷹條の説明だとその警電というのは官舎に回線として敷いてあることになる。
鷹條の父はいつ鳴るか分からないその回線にいつでも対応できるようにしているということなのだろう。
「すごいのね……」
亜由美は知らなかった。そんな風にして自分達が守られていたなんて、聞かなかったらきっと知らないままだっただろう。
けれどきっと鷹條は子供の頃からそういう環境だったのだ。
「本来の実家は実家で別にあるんだ。正直……どちらに亜由美を連れて行くか迷ったけれど、一度こういうところも見ておいてほしくて。それに父が署長という立場じゃないとこんな警察官の裏なんて入り込めないからな?」
「貴重な経験だわ」
「父もあと三年で定年で、定年前の最後の奉公だと言ってる。だからその間にいい警官を育てたいそうだよ」
鷹條は普段は仕事については必要なこと以外ほとんど話さない。
こうやってたくさん話してくれるのが、信頼されているようで亜由美は嬉しかった。
「いい警官?」
「例えば、今日官舎に来ていたのは本当にまだ寮にいるような歴の浅い巡査なんだ。本来なら署長となんて直接話す機会はないよ。それでも触れ合う機会を作る。父は自分の経験を話したり、彼らの上司にも牽制になる」
「牽制……」
「男ばかりの世界だからな。どうしても他の業界より力関係が出やすい」
「あ、パワハラ的な?」
「そうだ。別に部下達は直接は父には何も言わないよ? それでもいつでも言えるっていう環境だけでも牽制になる。無茶をしないんだ」
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