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16.甘えていい?
甘えていい?④
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「千智さんは悪くないよ?」
「そうじゃなくて、俺は本当なら亜由美に欠片も怖い思いをしてほしくない」
その愛情はとても嬉しいけれど、今、亜由美は鷹條に伝えたいことがあった。
「あのね、千智さん、万が一のことを考えて私にすごくたくさんのことを教えておいてくれてたでしょう? 私、怖かったけど、ずっと教えてもらったことを思い出してたの」
そうなのだ。
恐怖で震えていた時も、鷹條を信じるだけで自分を保つことができた。
「ずっと千智さんの愛情をちゃんと感じてて、だから頑張れたのよ。千智さんはちゃんとずうっと護ってくれてたよ?」
付きっきりで側にいることだけが護ることじゃない。身の守り方を徹底的にレクチャーしてくれていたのだって護ってくれることになる。
それを亜由美は実感していたのだ。
鷹條が腕の中の亜由美を見る。亜由美も真っすぐ見返した。いつもキリリとしていて、頼りがいのある鷹條だ。
それなのに今は泣き出しそうな、感情を説明できなさそうな、そんな表情をしていた。
いつも感情をあらわにしない鷹條のこんな表情に亜由美は胸をつかまれる。
大事にされている。
この人を大事にしたいと強く思った。
鷹條が口を開く。
「言葉にできないよ。大好きとか愛おしいとか、大事にしたいとか、それだけじゃなくて……亜由美、愛してる。ずっと君と一緒にいたい」
「え……」
それは……もはやプロポーズなのでは? と亜由美は一瞬考えながら、いやでもまさか……と否定しようとした時だ。
はーっというため息が聞こえて、顔を赤くした鷹條が亜由美の両頬に両手で触れる。
「真剣だからな。本当はこんなタイミングで言うものじゃないかもしれないし、正式なのは後日ちゃんとする。亜由美、俺と結婚してくれる?」
負けず劣らず真っ赤になった自覚は亜由美にもあった。
それから目元が熱くなって、目の前にいるはずの鷹條がじわりと滲む。
「ごめん、いや本当最悪だよな。このタイミングはないって自分でも……」
「する」
「え?」
「します。私も千智さんをすごく大事にしたいって思ったの。ずっと一緒にいたいです」
鷹條はタイミングが……と気にしていたが、それは今だったのだ。想いが重なったその時こそがタイミングなのだと亜由美は感じる。それで言えば今以上の機会などなかった。
「それでもリベンジの機会を俺にくれる? やっぱりプロポーズはいい思い出になるものにしたい」
「これも思い出だよ?」
「そうじゃなくて、二人の良い思い出にしよう」
それが鷹條の優しさなのだと亜由美は胸が熱くなった。きっとこんな大変なことがあった時じゃなくて、亜由美のために鷹條は良い思い出で過去を塗り替えようとしてくれている。
それが痛いほどに分かって、強くて優しい鷹條が本当に好きだとまた目元が熱くなる。
亜由美が泣いているのに、ちょっとだけ困った顔をした鷹條は自分のバスローブの袖で、亜由美の目元を軽く押さえる。
涙を拭くものを探してくれていたらしい。
思いついたのがバスローブの袖というのも鷹條らしかった。
「初めて会った時も痛いって泣いてたな」
そういえばそうだった。
亜由美も思い出してまた赤くなる。あれからいろいろあった。
あの時からずうっと鷹條は優しくて、亜由美を包み込んでくれていた。今こうして亜由美を腕の中に抱きしめて、結婚してくれる? と囁いてくれるのが嬉しくて仕方ない。
この人とならずっと一緒にいたいと強く願う相手だ。
「悲しくて泣いてるんじゃないと信じるぞ」
「はい。信じていいです」
誓いのような鷹條からのキスは唇が触れるだけの甘いもので、亜由美は少しだけ自分の涙の味がしたような気がした。
──この日をきっと忘れない。
「そうじゃなくて、俺は本当なら亜由美に欠片も怖い思いをしてほしくない」
その愛情はとても嬉しいけれど、今、亜由美は鷹條に伝えたいことがあった。
「あのね、千智さん、万が一のことを考えて私にすごくたくさんのことを教えておいてくれてたでしょう? 私、怖かったけど、ずっと教えてもらったことを思い出してたの」
そうなのだ。
恐怖で震えていた時も、鷹條を信じるだけで自分を保つことができた。
「ずっと千智さんの愛情をちゃんと感じてて、だから頑張れたのよ。千智さんはちゃんとずうっと護ってくれてたよ?」
付きっきりで側にいることだけが護ることじゃない。身の守り方を徹底的にレクチャーしてくれていたのだって護ってくれることになる。
それを亜由美は実感していたのだ。
鷹條が腕の中の亜由美を見る。亜由美も真っすぐ見返した。いつもキリリとしていて、頼りがいのある鷹條だ。
それなのに今は泣き出しそうな、感情を説明できなさそうな、そんな表情をしていた。
いつも感情をあらわにしない鷹條のこんな表情に亜由美は胸をつかまれる。
大事にされている。
この人を大事にしたいと強く思った。
鷹條が口を開く。
「言葉にできないよ。大好きとか愛おしいとか、大事にしたいとか、それだけじゃなくて……亜由美、愛してる。ずっと君と一緒にいたい」
「え……」
それは……もはやプロポーズなのでは? と亜由美は一瞬考えながら、いやでもまさか……と否定しようとした時だ。
はーっというため息が聞こえて、顔を赤くした鷹條が亜由美の両頬に両手で触れる。
「真剣だからな。本当はこんなタイミングで言うものじゃないかもしれないし、正式なのは後日ちゃんとする。亜由美、俺と結婚してくれる?」
負けず劣らず真っ赤になった自覚は亜由美にもあった。
それから目元が熱くなって、目の前にいるはずの鷹條がじわりと滲む。
「ごめん、いや本当最悪だよな。このタイミングはないって自分でも……」
「する」
「え?」
「します。私も千智さんをすごく大事にしたいって思ったの。ずっと一緒にいたいです」
鷹條はタイミングが……と気にしていたが、それは今だったのだ。想いが重なったその時こそがタイミングなのだと亜由美は感じる。それで言えば今以上の機会などなかった。
「それでもリベンジの機会を俺にくれる? やっぱりプロポーズはいい思い出になるものにしたい」
「これも思い出だよ?」
「そうじゃなくて、二人の良い思い出にしよう」
それが鷹條の優しさなのだと亜由美は胸が熱くなった。きっとこんな大変なことがあった時じゃなくて、亜由美のために鷹條は良い思い出で過去を塗り替えようとしてくれている。
それが痛いほどに分かって、強くて優しい鷹條が本当に好きだとまた目元が熱くなる。
亜由美が泣いているのに、ちょっとだけ困った顔をした鷹條は自分のバスローブの袖で、亜由美の目元を軽く押さえる。
涙を拭くものを探してくれていたらしい。
思いついたのがバスローブの袖というのも鷹條らしかった。
「初めて会った時も痛いって泣いてたな」
そういえばそうだった。
亜由美も思い出してまた赤くなる。あれからいろいろあった。
あの時からずうっと鷹條は優しくて、亜由美を包み込んでくれていた。今こうして亜由美を腕の中に抱きしめて、結婚してくれる? と囁いてくれるのが嬉しくて仕方ない。
この人とならずっと一緒にいたいと強く願う相手だ。
「悲しくて泣いてるんじゃないと信じるぞ」
「はい。信じていいです」
誓いのような鷹條からのキスは唇が触れるだけの甘いもので、亜由美は少しだけ自分の涙の味がしたような気がした。
──この日をきっと忘れない。
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