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16.甘えていい?

甘えていい?②

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 そんなやり取りのあと、鷹條は亜由美に向き直った。
「頑張ったな」

 ずっと我慢していた。
 頑張ったなという鷹條の声を聞いて亜由美は泣きそうになり目元がきゅうっと熱くなる。

 亜由美の目から涙が零れそうになっているのに気づいて鷹條が亜由美を強く抱き締める。
「本当に、偉かった」

 亜由美は安心感から今度こそ涙を止めることができなかった。ぽろぽろと両目から涙があふれだす。
 そして自分を抱き締めてくれている鷹條の身体にしがみつくように抱きついた。

「……っ! こわ、怖かった!」
「うん。そうだな」

「でも、信じてたっ! 言われた通りにしたの……っ。ちゃんと落ち着いて話したの。それから要求を……」

「うん。無事でよかった。本当に」
 優しい声でそう言って鷹條は亜由美を抱きしめ返す。

「だって、きっと千智さんが来てくれるって……」
「そうだ。来ただろう?」
「千智さん、大好きっ」
「俺もだよ」

 近くに警察官がいたのにも関わらず、鷹條は亜由美を抱きしめて安心させてくれた。

 抱き合う恋人たちに気をつかって制服の警察官はそっと目線を外す。軽く挨拶をしてその場を離れるのを鷹條は目線で確認していた。
 今は怖がっている恋人が最優先だ。

「また調書も取らないといけないけれど、それは後日でも構わない。今日は家に帰ろうな」
 こくこくっと亜由美は頷く。


 自宅に戻っていつもの空間に触れると、改めて今日起こったことの恐怖がよみがえってくる。場合によってはこの日常に戻れなかったかもしれなかったのだ。

 小刻みに震えて血色を失くす亜由美の肩を鷹條がそっと抱く。

「食事はできそうか?」
 亜由美は首を横に振った。

「ん。じゃあ、風呂に入って、とりあえず身体を温めよう。何か食べられそうならスープくらいは用意するけど」
「千智さん……」
「ん?」

 亜由美が名前を呼ぶと、鷹條が優しく顔を覗き込む。側にいるからと確認させるかのようだった。

「甘えてもいい?」
「恋人だから当然だよ。亜由美が甘えてくれたら俺は嬉しい」
 鷹條は亜由美をぎゅっとハグしてその温かさを伝えてくれる。

「風呂、一緒に入ろうか?」
 耳元で囁く鷹條にこくっと亜由美は頷いた。

 もう亜由美のマンションの仕様を理解している鷹條がお風呂をいれてくれて、二人は一緒に湯船に浸かった。

 きちんと入浴剤まで入っている。亜由美の好きなローズの香りだ。
 湯船の中で亜由美は後ろから抱きしめてくれている鷹條にもたれかかっていた。

「なんか……甘えっぱなしみたい」
「それでいいんだ。だいたい亜由美は今までだって一人で頑張りすぎなんだから、俺に甘えるくらいでちょうどいい」

「そうかな?」
「そうだ。本当に亜由美がいろいろ頑張ってくれたからあいつを逮捕できた。感謝するのはこっちだよ。怖い思いをさせてごめん」

「……っ! そんなの、千智さんがいてくれたから」
「あいつは今頃いろんな罪状を並べられて、絞られているんじゃないかなあ」
 鷹條の言葉に亜由美は首を傾げる。

「あいつ、俺の正体を知らずに俺も脅しただろう?」
「写真のこと?」

「そう。よりにもよって俺をストーカーした、と。その時点で俺は被害者になって、警察官が被害者ということになったわけだな。だからあいつは治安維持に歯向かったとして組織対応されてた」

 道理でいろいろ対応が早かったはずだと亜由美も納得だ。

「それで調べたら他にも余罪があった」
「あ! 詐欺?」
「よく知ってるな。まさか、被害にはあっていないだろうな?」

 亜由美は首を横に振る。
「ううん。ただ、一緒にいた時に変なことを言っていたから。事業をやるといってお金を借りて返さなかったとか言ってたわ」
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