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15.ストーカーの正体

ストーカーの正体④

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 ──落ち着いて対応すること。相手の要望をできるだけ引き出すこと。
 それがその時言われたことだ。

「あいつ。あのすかしたやつ」
 亜由美を睨むように彼はじっと見てくる。亜由美はカバンの中に手を入れた。
 それを鋭く見咎められる。

「おい、あいつと連絡取ろうとしてんのか? そんなの許さないぞ」
「けど、きっと心配すると思うの」

「亜由美……少し話したいだけなんだ。携帯を渡せ。そいつに邪魔されたくない」

 彼は亜由美に向かって手を伸ばした。
 本当はとても怖い。一生懸命気持ちを落ち着けて亜由美は彼に穏やかに声をかけた。

「連絡しないわよ?」
「GPSとかあるからな」
(逆らっちゃいけない。刺激してもいけない)

『いいか? 要望を受け入れてくれる人間は大事に思うものなんだ。引き出せればこちらのものだ。その分時間を稼げる。落ち着いて。大丈夫。亜由美ならできるから』

 自宅のソファで隣に座って身の護り方を教えてくれていた鷹條の言葉をしっかりと思い出す。

「分かった。じゃあ、話しましょう。カフェとかにする?」
「いや。そこの公園のがいい。その前に携帯を渡せ」
「うん。渡すね」

 亜由美はカバンからスマートフォンを出し、そっと彼に手渡した。その時カバンの中に入っていたキーホルダーのボタンを彼には分からないように押す。

 亜由美のスマートフォンを手にした彼が電源を落としているのが見えた。

 彼がひどく神経質になっているのをピリピリとした雰囲気から感じる。

 マンションの近くにある公園に二人で向かうことになった。

 彼は落ち着きがなくイライラしているようだった。ベンチを指さされて通りに背を向けたベンチに二人並んで腰かける。

「仕事は忙しい?」
 なんでもないように亜由美は声をかける。

「仕事ね」
 ふん、と彼は鼻で笑った。

「してると言えばしているし、してないと言えばしてない」
「え?」
 クビになったということだろうか?

「コンサルとか? すぐ騙されんだよな女って。まあ俺ならすぐできるけど。見た目そうっぽくしてたらいくらでも寄ってくるし。金も出すしな。詐欺ってなんだよ。出資だろ? なあ?」

 言っていることが支離滅裂なのも怖い。
 騙される? 詐欺? どういうことなのだろう。

「なにかあったの?」
 言っていることが分からなくて亜由美は彼にそう声をかけた。

「亜由美と別れたあと付き合った女に事業が上手くいってないから金を貸してくれって言ったんだよ。そいつ金持ってたからさ。この前それを返せって言うわけ。返せるわけないじゃん。使ってんのにさ」

「そうだったの……」
「訴えるとか、被害届? とか出すって言うんだぜ。おかしいだろあいつ」

 事業をしてもいないのに、事業をしているからお金を貸せと言って、さらにそれを返さないとなれば間違いなく詐欺なのだと思うのだが、その言葉は今の彼には通じないような気がした。

「亜由美ならさぁ、分かってくれるって思ったのに、あの男誰? 俺、亜由美って見た目は派手だけど、おとなしくて可愛いなって思ってて。変な男がつけまわしてるなら護ってやんなきゃって思ってたんだよ」
 その結果があの写真で、手紙なのだろうか。

 言葉が通じない怖さとあの一方的な写真や手紙の怖さは共通しているように亜由美は感じた。

 さっきカバンの中で押したボタンは非常通報装置だ。鷹條のスマートフォンと連動していて、非常時には即座に連絡が行くようになっていた。万が一のためにと渡されていたものだった。

 会社を出るとき、それから自宅についたら連絡をすることになっていた。それが途絶えて、亜由美のスマートフォンは電源が落とされている。加えて押された非常通報装置。

 鷹條は適切に対応してくれるはずだ。
 ──落ち着いて到着を待つこと。

 今の亜由美にできるのはその鷹條の言葉を信じて待つだけだ。



 
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