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13.正常性バイアス
正常性バイアス③
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そこまで聞くとさすがに亜由美は背中がぞくぞくしてくる。
知らない間に自分をずっと監視されていたと聞けば気分の良いものではない。
亜由美が思っていたよりも事態は悪い可能性もあったのだ。
鷹條はそれを知っていたから即座に動いた。もしかして気づかないままだったら、もっと怖いことになっていた可能性もあるのだ。
「杉原さんのことは鷹條さんの上司からも報告を受けている」
亜由美は鷹條が何件か電話をかけていたことに思い至る。
あれは上司にも報告していたということなのだろう。
「正常性バイアスという言葉を聞いたことはあるかな?」
突然、広見にそう尋ねられた。
『正常性バイアス』知らない言葉だ。
「すみません。存じません」
亜由美は首を横に振る。広見は軽く微笑んで口を開いた。
「知らなくてもいいんだ。多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとする働きのことなんだ。自分の心を守るためのものだから、悪いことじゃない」
説明されれば分かる。
ポストに見知らぬ封筒が入っていても、単なるイタズラなんだと思い込もうとすることがその正常性バイアスで、亜由美はそれにかかっていた。
「私もそれ……でしたね」
「杉原さんだけではない。誰にでもあることなんだよ」
そう言って広見は微笑んだ。
「例えば火災報知器が鳴ったとする。単なる訓練だろうとかイタズラじゃないかと思ってしまうと逃げ遅れることにもなりかねない。それが正常性バイアス」
言われてみれば、それが危ないことなのだと分かる。
「心を守るために大切だけれど、本当に危険はないのか、冷静になって周りの状況を確認して判断することが大事なんだ」
亜由美は広見を真っすぐに見た。
「私はどうしたらいいですか?」
そう言った亜由美の手を、鷹條が机の下でそっと手を握ってくれる。
それだけでも亜由美は心強かった。広見は亜由美の様子を見て口を開く。
「まずは周りと情報共有をすることを考えてほしい。その一つが被害届だ。被害届というのは捜査機関に対して犯罪の被害を受けたと申告する手続きになる。直ちに捜査が始まるわけではないことも留意しておいてほしい」
すぐに捜査が始まるわけじゃないと聞いて亜由美は安心した。
例え自分が被害者であってもなんだか捜査に巻き込まれるなんて怖いような気もするからだ。
「ちょっと混同されやすいんだが、被害届があくまでも犯罪の被害を受けたと申告する手続きなのに対して、刑事告訴は犯人を処罰してほしいと求める手続きになって、速やかな捜査や検察への送付も義務付けられている」
そこで広見は言葉を止めた。
「ただ……デメリットとしては被害届であったとしても、捜査が開始されたら協力しなくてはいけない」
分かりやすく説明してくれる広見に亜由美は頷く。
「参考人として取調べを受けたり、実況見分……まあ現場検証ともいうが、これへの立ち会いを求められたりする。もしそういったことになったら最大限配慮はする」
鷹條も隣で頷いてくれていた。広見があらかじめデメリットも説明してくれていることで、亜由美としては心の準備もできる。
この人なら信頼できると思えてきていた。
「まあ、杉原さんの場合は鷹條さんがついているから、不安なことがあったら相談するといい。ここまで聞いて被害届はどうするか聞いてもいいかな?」
「出します」
「ありがとう。これであなたが護りやすくなる」
亜由美は首を傾げた。
──護りやすくなる?
知らない間に自分をずっと監視されていたと聞けば気分の良いものではない。
亜由美が思っていたよりも事態は悪い可能性もあったのだ。
鷹條はそれを知っていたから即座に動いた。もしかして気づかないままだったら、もっと怖いことになっていた可能性もあるのだ。
「杉原さんのことは鷹條さんの上司からも報告を受けている」
亜由美は鷹條が何件か電話をかけていたことに思い至る。
あれは上司にも報告していたということなのだろう。
「正常性バイアスという言葉を聞いたことはあるかな?」
突然、広見にそう尋ねられた。
『正常性バイアス』知らない言葉だ。
「すみません。存じません」
亜由美は首を横に振る。広見は軽く微笑んで口を開いた。
「知らなくてもいいんだ。多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとする働きのことなんだ。自分の心を守るためのものだから、悪いことじゃない」
説明されれば分かる。
ポストに見知らぬ封筒が入っていても、単なるイタズラなんだと思い込もうとすることがその正常性バイアスで、亜由美はそれにかかっていた。
「私もそれ……でしたね」
「杉原さんだけではない。誰にでもあることなんだよ」
そう言って広見は微笑んだ。
「例えば火災報知器が鳴ったとする。単なる訓練だろうとかイタズラじゃないかと思ってしまうと逃げ遅れることにもなりかねない。それが正常性バイアス」
言われてみれば、それが危ないことなのだと分かる。
「心を守るために大切だけれど、本当に危険はないのか、冷静になって周りの状況を確認して判断することが大事なんだ」
亜由美は広見を真っすぐに見た。
「私はどうしたらいいですか?」
そう言った亜由美の手を、鷹條が机の下でそっと手を握ってくれる。
それだけでも亜由美は心強かった。広見は亜由美の様子を見て口を開く。
「まずは周りと情報共有をすることを考えてほしい。その一つが被害届だ。被害届というのは捜査機関に対して犯罪の被害を受けたと申告する手続きになる。直ちに捜査が始まるわけではないことも留意しておいてほしい」
すぐに捜査が始まるわけじゃないと聞いて亜由美は安心した。
例え自分が被害者であってもなんだか捜査に巻き込まれるなんて怖いような気もするからだ。
「ちょっと混同されやすいんだが、被害届があくまでも犯罪の被害を受けたと申告する手続きなのに対して、刑事告訴は犯人を処罰してほしいと求める手続きになって、速やかな捜査や検察への送付も義務付けられている」
そこで広見は言葉を止めた。
「ただ……デメリットとしては被害届であったとしても、捜査が開始されたら協力しなくてはいけない」
分かりやすく説明してくれる広見に亜由美は頷く。
「参考人として取調べを受けたり、実況見分……まあ現場検証ともいうが、これへの立ち会いを求められたりする。もしそういったことになったら最大限配慮はする」
鷹條も隣で頷いてくれていた。広見があらかじめデメリットも説明してくれていることで、亜由美としては心の準備もできる。
この人なら信頼できると思えてきていた。
「まあ、杉原さんの場合は鷹條さんがついているから、不安なことがあったら相談するといい。ここまで聞いて被害届はどうするか聞いてもいいかな?」
「出します」
「ありがとう。これであなたが護りやすくなる」
亜由美は首を傾げた。
──護りやすくなる?
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