遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら

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10.恋愛っていいものですね

恋愛っていいものですね②

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「どうした?」
「ドキドキしてた……」
「俺もだよ」

 鷹條の側に立っていた亜由美は首の後ろを軽く引き寄せられて、顔を上げる。
 そっと重なった唇はたった今水を飲んだせいなのか、少しひんやりとしていた。

(どうしよう。大好き)
 少しだけ背伸びした亜由美がぎゅっと鷹條に抱きつく。

「甘える亜由美って可愛いな」
 唇から頬、耳元へと移る唇は色香をふんだんに含んだ声で亜由美に囁く。

「ベッドに、行こうか?」
 亜由美はこくこくっと頷くだけで精一杯だ。
 かかる吐息も、その声にもくらくらとしてしまって、力が抜けてしまいそうだった。

 ふっ……と甘く笑った鷹條が亜由美を抱き上げて寝室へと運んでくれるのも最近はいつものことになってしまっていた。

 軽いベッドの軋みと、体温が離れてしまう感覚で亜由美は目を覚ました。

「ん……帰る?」
「うん。起こして悪いな。そのまま寝ていていい。カギはポストに入れておく」
「……うん」

『所在の明確化のルール』があるから、基本的に鷹條は外泊をしない。

 じゃあ、いちばん最初に亜由美のところに泊まった時は?と単純に疑問に思って聞いてみたことがある。

 鷹條は口元を抑えてふっと顔を横に向けて、とても小さい声で「いや……許可は取ってた……」と言ったのだ。

 その耳が赤くて、亜由美も言葉を返せなくなってしまった。
 あわよくば、の下心。好きな人のものならばなぜか嬉しいものらしい。正直に亜由美に打ち明ける鷹條が好きだなぁと微笑ましく嬉しくなったものだった。

 鷹條の時間はとても貴重だ。
 その貴重な時間を亜由美と一緒にいることに使ってくれていることが本当に嬉しい。
 大事にされていることを亜由美も実感していたのだった。


 今日は楽しみにしている恋愛コミックスの新刊の発売日だ。

 朝から亜由美は本屋さんに寄って帰ると決めていた。電子でも読めるけれど、しっかり浸って読める紙本もどうしても好きで、大好きな作家さんのものだけ買うと決めている。

 なかなか時計の進まない中、定時に終わるとダッシュで電車に乗り最寄り駅近くの大型書店に足を向けた。

「杉原さん! お待ちしてましたよー!」
 店員は亜由美とも仲良しで同じようなジャンルが好きらしく話も合うし、時にオススメを教えてもらったりもする。

 亜由美は笑顔を向けた。
「楽しみにしてたの」
「お取り置きしてありますよ。もー、今回もきゅんきゅんです」

「ね……ネタバレ禁止!」
 慌てて亜由美が言うと、店員にくすくす笑われてしまう。
「了解です! 楽しんでください」

 今回は特典が付いていたからと特典のカードを同封してもらって丁寧に包装された本を受け取る。亜由美はお礼を言って足取り軽やかに自宅に帰った。

 大事な本はリビングのテーブルにそっとおいて、着替えて作り置きの料理を温める。

 テレビをつけニュースを確認しつつ、食事を済ませる。今日はゆっくりと本の世界に浸りたいので、片付けをしたらすぐにお風呂に入った。

 髪を乾かしながら、メールアプリを確認する。特に新しいメッセージは入っていないようだ。

 鷹條は今、警護の関係で遠方の県に出張中でメールアプリでの連絡もなかなか既読にならなかったり、亜由美が気づかない間に返信があったりする。

 それでも自宅に帰ると連絡するようにはしていた。いろんなトラブルがあって鷹條との交際に発展した経緯もあって、とても心配されてしまうのだ。
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