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7.寄っていきませんか?
寄っていきませんか?④
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確保されている人材の中で何とかするしかない状況というのが、本当に大変なことなのは亜由美にも理解できる。
「所在の明確化、というんだがこの仕事での鉄則で組織上のルールなんだ。勤務形態も独特だし、俺の身の周りにもこの独特なところに彼女がついてこられなくて別れたという例は結構ある」
聞けば確かに独特だった。確実に九時から十七時で終わる会社とは訳が違う。
警察業務に時間外はないのだから。
その中で所在が分からないことが問題になることも分かった。
だからといってそれが鷹條との交際を止める原因になりうるかというと、そうは思わなかった。
亜由美にも隠すことは何もない。
「じゃあ、旅行に行くときは早めに計画しましょうね」
「ギリギリでダメになったり、出先で帰らなくてはいけないような事態になっても……まあ怒るなとは言わないけど、分かってくれたら嬉しい」
亜由美は少し考える。
「怒らないと思う」
答えは一つだけだった。
いつも表情を変えない鷹條が少しだけ眉を寄せるので、くすくすと亜由美は笑ってしまった。
「だって、誰にもできないお仕事をしているんだもの。千智さん、お仕事をすごく大事にしているでしょ?」
「あ……ああ」
「それがよく分かるし、私も助けてもらったのだし、応援します」
鷹條の表情がほころんだ。亜由美にしか分からないくらいの微妙な表情の変化だ。
思わずといった感じで、テーブルの上に置いていた手を鷹條がそっと握って自分の口元に持って行って軽く口づける。
むしろ急にされてしまったその仕草の方に、亜由美は胸がどきどきしてしまった。
「本当は今すぐ抱きしめてキスしたい」
「だ……ダメです」
周りにはたくさんの人がいるし、顔立ちの整った鷹條のことだ。今の手へのキスだけでも目立ってしまった気がする。
「だな。その代わりだよ」
周りの人々はお似合いの美男美女がイチャイチャしていて、彼氏の方がいかにも彼女を溺愛している風なので微笑ましくチラ見していただけだ。
「時間だな。行くか?」
鷹條が買い物をした手提げを自然に手にして、逆の手を亜由美に差し出す。
この人を大事にしたい。
そう思い、亜由美は鷹條に笑顔を向けた。
「はい」
それから予約したプラネタリウムを二人で観た。鷹條が予約してくれたシートは、寝転がって観ることができるものだ。二人で横に並んでころんと寝転がる。
観ている最中も鷹條は亜由美と手を繋いでくれていた。
肩を寄せ合って、隣同士で横になるシートは吸い込まれそうな天の川をまるで二人きりでたゆたっているような気持ちにさせられた。
そのあまりの綺麗さに感動した時に、鷹條がその手をきゅっと強く握ってくれる。
その時、周りには聞こえないような極々小さな声で鷹條が亜由美の耳元に囁いた。
「いつか、一緒に旅行に行きたいな。こんな綺麗な空とか、亜由美と見たい」
それは亜由美もそう思ったので、こくこくっとうなずく。
亜由美はこの人と一緒に観ることができて、とても嬉しくて幸せだと思った。
繋いでくれた手にそっと寄り添う。
鷹條が笑った気配を感じて、亜由美の胸は甘い満足感で満たされた。
帰り道、鷹條は亜由美をマンションまで送ってくれた。
「寄って……行きませんか?」
以前は断られてしまったけれど、もう一度勇気を出して亜由美はそう言ってみる。
「いいのか?」
あの時とは違う。
二人の関係も、鷹條の回答も。
こくっと亜由美は頷く。
「分かった」
鷹條の真剣な顔に亜由美の鼓動が大きくなる。
──この人なら大丈夫。
それはきっとお互い口にしなくても分かっていた。
「所在の明確化、というんだがこの仕事での鉄則で組織上のルールなんだ。勤務形態も独特だし、俺の身の周りにもこの独特なところに彼女がついてこられなくて別れたという例は結構ある」
聞けば確かに独特だった。確実に九時から十七時で終わる会社とは訳が違う。
警察業務に時間外はないのだから。
その中で所在が分からないことが問題になることも分かった。
だからといってそれが鷹條との交際を止める原因になりうるかというと、そうは思わなかった。
亜由美にも隠すことは何もない。
「じゃあ、旅行に行くときは早めに計画しましょうね」
「ギリギリでダメになったり、出先で帰らなくてはいけないような事態になっても……まあ怒るなとは言わないけど、分かってくれたら嬉しい」
亜由美は少し考える。
「怒らないと思う」
答えは一つだけだった。
いつも表情を変えない鷹條が少しだけ眉を寄せるので、くすくすと亜由美は笑ってしまった。
「だって、誰にもできないお仕事をしているんだもの。千智さん、お仕事をすごく大事にしているでしょ?」
「あ……ああ」
「それがよく分かるし、私も助けてもらったのだし、応援します」
鷹條の表情がほころんだ。亜由美にしか分からないくらいの微妙な表情の変化だ。
思わずといった感じで、テーブルの上に置いていた手を鷹條がそっと握って自分の口元に持って行って軽く口づける。
むしろ急にされてしまったその仕草の方に、亜由美は胸がどきどきしてしまった。
「本当は今すぐ抱きしめてキスしたい」
「だ……ダメです」
周りにはたくさんの人がいるし、顔立ちの整った鷹條のことだ。今の手へのキスだけでも目立ってしまった気がする。
「だな。その代わりだよ」
周りの人々はお似合いの美男美女がイチャイチャしていて、彼氏の方がいかにも彼女を溺愛している風なので微笑ましくチラ見していただけだ。
「時間だな。行くか?」
鷹條が買い物をした手提げを自然に手にして、逆の手を亜由美に差し出す。
この人を大事にしたい。
そう思い、亜由美は鷹條に笑顔を向けた。
「はい」
それから予約したプラネタリウムを二人で観た。鷹條が予約してくれたシートは、寝転がって観ることができるものだ。二人で横に並んでころんと寝転がる。
観ている最中も鷹條は亜由美と手を繋いでくれていた。
肩を寄せ合って、隣同士で横になるシートは吸い込まれそうな天の川をまるで二人きりでたゆたっているような気持ちにさせられた。
そのあまりの綺麗さに感動した時に、鷹條がその手をきゅっと強く握ってくれる。
その時、周りには聞こえないような極々小さな声で鷹條が亜由美の耳元に囁いた。
「いつか、一緒に旅行に行きたいな。こんな綺麗な空とか、亜由美と見たい」
それは亜由美もそう思ったので、こくこくっとうなずく。
亜由美はこの人と一緒に観ることができて、とても嬉しくて幸せだと思った。
繋いでくれた手にそっと寄り添う。
鷹條が笑った気配を感じて、亜由美の胸は甘い満足感で満たされた。
帰り道、鷹條は亜由美をマンションまで送ってくれた。
「寄って……行きませんか?」
以前は断られてしまったけれど、もう一度勇気を出して亜由美はそう言ってみる。
「いいのか?」
あの時とは違う。
二人の関係も、鷹條の回答も。
こくっと亜由美は頷く。
「分かった」
鷹條の真剣な顔に亜由美の鼓動が大きくなる。
──この人なら大丈夫。
それはきっとお互い口にしなくても分かっていた。
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