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7.寄っていきませんか?
寄っていきませんか?③
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「君はすぐに自分の気持ちをこらえて我慢してしまうから。だから、あの同僚の奴も亜由美に執着したんだろう」
今日会ってから、鷹條に何度もじっと見られていることは感じていた。
それは鷹條の観察力で亜由美のことを注意深く見ていてくれたということだったらしい。
確かにその通りだ。
今まで自覚したことはなかったけど、この前課長にも言われて、改めて自分の性格を振り返ってみたのだ。
つい相手の都合を最優先に考えてしまう亜由美は、自分の気持ちを理解してもらえないことも多い。
自己主張できればいいのだろうが、キツい人だと思われるのが嫌なので主張はしないようにしていた。
そんなことまではさすがに知らないはずだが、鷹條には読まれてしまっている。
頬が赤くなってしまったことを亜由美は自覚した。
「ん? どうした?」
(観察力がありすぎる彼氏ってどうなの?)
「千智さん、ありがとう……」
鷹條は本当に言った通り好きな人を本当に大事にするのだと分かって、自分が大事にされていることも分かったから。
「どういたしまして」
思わずといった雰囲気で、鷹條が指で撫でた頬がいつまでも熱を持っているように感じた。
ふと、鷹條が表情を引き締めて亜由美のことを見る。
「さっき、遠出はできないって言ったの覚えてるか?」
飲み物に口をつけながら、亜由美はこくりと頷いた。
それほどに深い意味のある言葉だとは思わなかった。単に遠いから行きづらいだけのことだろうと思っていたから。
「遠方に外出する場合は申請がいる」
亜由美は言われている意味がよく分からなくて、きょとんとしてしまった。
「申請……?」
「泊まりがけの旅行などに行く場合は、届出が必要なんだ」
それは所属部への届出が必要なんだとやっと亜由美は理解する。
「届出……」
そう口にした亜由美に鷹條はうなずいた。
「日時、宿泊先、移動手段なんかはあらかじめ届出する必要がある。まあ、却下されることはないから旅行も行けなくはない」
そんなことは全く想像もつかなかったし、知らなかった。
そんなことまで管理されるとは思ってもみなかったのだ。
「プライベートでも……なの?」
つい、そんな言葉が口からこぼれてしまった。
「まぁ、それが普通の反応だよなぁ」
鷹條が苦笑するのに、亜由美は慌てて言った。困らせたかったわけではないのだ。
「違うの! 私、よく分かっていなくて。教えてくれる?」
ふっと鷹條が亜由美に笑みを向けた。
「俺、亜由美のそういうところが好きだな。素直に教えてくれる? って俺に直接聞いてくれるのは本当にありがたい。誤解させずに説明できる」
褒められて、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
「あの……いろいろ知らなくて……」
「当然。いつでも聞いてくれ」
亜由美も隠し事をせず、疑問にも面倒くさがらずに答えてくれる鷹條を好ましく思う。
「仕事柄、急に呼び出されることもあるんだ。俺の部署は基本的に対象者の予定がはっきりしているから、よほど急なことはないが、それでも全くないとは言い切れない」
対象者とは鷹條が警護している人たちのことだろう。
「急に予定が入れば、こちらも動かなくてはいけないし、場合によっては他の班の応援に急遽呼ばれることもある。替わりの人材も少ないんだ」
鷹條はきちんと落ち着いた声で論理的に説明をしてくれていて、話していることもよく分かる。
こくこくと亜由美は頷いた。確かに人材が足りないからとバイトや派遣を入れることができない職務であることは間違いないのだ。
今日会ってから、鷹條に何度もじっと見られていることは感じていた。
それは鷹條の観察力で亜由美のことを注意深く見ていてくれたということだったらしい。
確かにその通りだ。
今まで自覚したことはなかったけど、この前課長にも言われて、改めて自分の性格を振り返ってみたのだ。
つい相手の都合を最優先に考えてしまう亜由美は、自分の気持ちを理解してもらえないことも多い。
自己主張できればいいのだろうが、キツい人だと思われるのが嫌なので主張はしないようにしていた。
そんなことまではさすがに知らないはずだが、鷹條には読まれてしまっている。
頬が赤くなってしまったことを亜由美は自覚した。
「ん? どうした?」
(観察力がありすぎる彼氏ってどうなの?)
「千智さん、ありがとう……」
鷹條は本当に言った通り好きな人を本当に大事にするのだと分かって、自分が大事にされていることも分かったから。
「どういたしまして」
思わずといった雰囲気で、鷹條が指で撫でた頬がいつまでも熱を持っているように感じた。
ふと、鷹條が表情を引き締めて亜由美のことを見る。
「さっき、遠出はできないって言ったの覚えてるか?」
飲み物に口をつけながら、亜由美はこくりと頷いた。
それほどに深い意味のある言葉だとは思わなかった。単に遠いから行きづらいだけのことだろうと思っていたから。
「遠方に外出する場合は申請がいる」
亜由美は言われている意味がよく分からなくて、きょとんとしてしまった。
「申請……?」
「泊まりがけの旅行などに行く場合は、届出が必要なんだ」
それは所属部への届出が必要なんだとやっと亜由美は理解する。
「届出……」
そう口にした亜由美に鷹條はうなずいた。
「日時、宿泊先、移動手段なんかはあらかじめ届出する必要がある。まあ、却下されることはないから旅行も行けなくはない」
そんなことは全く想像もつかなかったし、知らなかった。
そんなことまで管理されるとは思ってもみなかったのだ。
「プライベートでも……なの?」
つい、そんな言葉が口からこぼれてしまった。
「まぁ、それが普通の反応だよなぁ」
鷹條が苦笑するのに、亜由美は慌てて言った。困らせたかったわけではないのだ。
「違うの! 私、よく分かっていなくて。教えてくれる?」
ふっと鷹條が亜由美に笑みを向けた。
「俺、亜由美のそういうところが好きだな。素直に教えてくれる? って俺に直接聞いてくれるのは本当にありがたい。誤解させずに説明できる」
褒められて、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
「あの……いろいろ知らなくて……」
「当然。いつでも聞いてくれ」
亜由美も隠し事をせず、疑問にも面倒くさがらずに答えてくれる鷹條を好ましく思う。
「仕事柄、急に呼び出されることもあるんだ。俺の部署は基本的に対象者の予定がはっきりしているから、よほど急なことはないが、それでも全くないとは言い切れない」
対象者とは鷹條が警護している人たちのことだろう。
「急に予定が入れば、こちらも動かなくてはいけないし、場合によっては他の班の応援に急遽呼ばれることもある。替わりの人材も少ないんだ」
鷹條はきちんと落ち着いた声で論理的に説明をしてくれていて、話していることもよく分かる。
こくこくと亜由美は頷いた。確かに人材が足りないからとバイトや派遣を入れることができない職務であることは間違いないのだ。
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