遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら

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7.寄っていきませんか?

寄っていきませんか?②

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 迷子なんてなるわけないのに!
 その優しさや自然な雰囲気が亜由美にはとても嬉しい。
 差し出された手のひらにひょいっと自分の手を載せた。

「ならないよ」
 思い切って敬語はやめてそう言ったら、鷹條が嬉しそうに薄く笑って、亜由美が載せた手を指を絡めてきゅっと繋がれる。

 小さな仕草や鷹條の行動の一つ一つが亜由美の胸をときめかせた。
「いや、油断できない。迷子にならないまでも、さらわれても困る」

「それもないから!」
「亜由美は分からない」
 迷子はともかく、さらわれるなんてあり得ない。即座に反論した亜由美に鷹條は笑っている。

 けれど亜由美をエスカレーターへ先に乗せてくれた鷹條を一段上から見た時、耳が赤くなっているのが見えた。
 それを見た亜由美は何も言えなくなってしまった。

 急に繋いでいる手を温かく感じる。
 とても幸せだった。

 建物の中に入り、二人で館内の案内を見てどこに行こうかと相談する。
「水族館……プラネタリウム、映画館まであるんですよねー」

「プラネタリウムと映画館は時間が決まってるんじゃないのか?」
「そうか、上映時間がありますね。映画、観たいものあります?」

「今はないなぁ。亜由美は?」
「私も特に。プラネタリウム?」
「亜由美が行きたいのなら」
 あまり興味がなかっただろうか?

 そんな風に思った亜由美の頭を鷹條は、ぽんぽん撫でた。
「興味がないとかじゃないからな。知らないんだよ。行ったことなくて」

「あ……。ここは普通のプラネタリウムじゃなくて少しストーリー性のあるものを上映してるみたいで」
「へぇ……ホームページ見てみるか」

 近くのベンチに亜由美の手を引いて一緒に座り、ポケットからスマートフォンを取り出した鷹條はプラネタリウムのホームページをチェックしていた。

 目を伏せて画面を確認している鷹條を隣で亜由美は見ていた。
 伏せた目元のまつ毛がぱさぱさ揺れている。
 見とれてしまいそうだ。

(本当に綺麗な人なのよね……)
「亜由美、これ面白そうだ」

 急に顔を上げるから驚いてしまったが、鷹條は亜由美に面白そうだという画面を見せてくれる。肩を寄せて画面を覗き込んだ。

西表島いりおもてじまで撮影した満天の星々や、天の川・ケンタウルス座などをご紹介……」

 画面に書いてある文章を亜由美は読み上げる。
「なかなか遠出はできないからな。それに行く機会はあまりないだろう? 西表島?」

 少し遅めの時間なら二人用シートが予約できそうだな、と鷹條は楽しそうだ。
「これ、予約していいか?」

 首を傾げて亜由美にも聞いてくれる。
 亜由美はきゅっとその腕に抱きついた。
「うん」

 鷹條と一緒にいると二人でいることに、とても幸せを感じることができる。
 ふっ……と鷹條が笑った気配がして、顔を上げたらその端正な顔で甘く微笑んでいたのだ。

 その後は商業施設の中を見て回ったり、亜由美が限定のお菓子を購入するのに付き合ってもらったりした。

 予約したプラネタリウムまで時間があったので、散々商業施設内を歩き回ったこともあり、カフェに入ることにする。

「結構歩いたな。大丈夫か?」
「私は平気」
 そう言った亜由美を鷹條はまたじっと見る。

 鷹條は柔らかく微笑んだ。いつもは表情を顔に出さないことの方が多い鷹條なのに、今日はいつもと全然違って、どきどきさせられてしまうのだ。

「大丈夫そうだな」
「え?」
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