遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら

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6.好きな子は大事にする

好きな子は大事にする①

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「あいつ、いつもあんなにしつこいのか?」
 運ばれてきたコーヒーをお礼を言って受け取って、鷹條は亜由美に尋ねる。

「今日はすごくヘンでした。とっても強引だったわ」
「君のことが好きなんだろう」
「意地悪ばっかりします。それにちゃんとしてくれないし」

 好きなんだと言われても全くピンとこない。仮に一条にそんな気持ちがあるのだとしたら、亜由美にとっては気分が悪いだけだ。

「好きな子に意地悪する男は多いぞ」
 亜由美はじっと鷹條を見た。
 鷹條は狼狽えたように目を伏せる。

「鷹條さんも意地悪するんですか?」
「しない。俺は……好きな子は大事にしたいからな」
 目を伏せていても鷹條はそんな風にキッパリと言う。

 亜由美はその鷹條の好きな子がとても羨ましくなってしまった。亜由美は鷹條のその優しさを知っている。

 困っている人を見かけたら放っておけない人だ。
 通りすがりの亜由美にすら優しいのに、恋人にはどれほどその優しさを向けて大事にするんだろう。

「いいな。羨ましいです」
 鷹條に大事にされるのはとても幸せなことだろうと思うと、つい口からぽろっと羨ましいなんて言葉がこぼれてしまった。

(やだ……浅ましく聞こえなかったかな)

 顔を上げていることができなくて、目を伏せた亜由美はカップのふちについていたリップを指先でそっと拭き取る。

 その指先を鷹條にそっと取られた。
「大事にしていいか?」

 そう言われて真剣な顔で覗き込まれて、一瞬亜由美は何を言われているのか分からなかった。

「え?」
「言っただろう? 好きな子は大事にしたいんだ」

 好きな……子……?
「鷹條さん、好きな子って私なんですか?」

 鷹條がぐっと言葉を詰まらせる。指先まで握って、こんなに真剣な顔で言葉を詰まらせる鷹條なんて、初めて見た。
 だって、動揺しない人だとばかり思っていたから。

「何度も言わせないでくれ。本当にそういうタイプじゃないんだ俺は」
 少しだけ顔が赤いような気もする。

 緩く髪をかき上げて、それでも亜由美の手は離さず、真っすぐ亜由美に告げた。

「そうだよ。君は目を離せない。すぐに俺の目の前でトラブルを起こすし、なのにいつもキリリとして見えて。内心は不安だったり泣きそうだったりするくせにそれを他人には見せない」

 鷹條は照れたような表情なのに、真剣な気持ちが伝わってくる。そのせいか亜由美の鼓動が大きくなって、顔が熱くなってきた。

 亜由美の外見だけではなくて、鷹條はその内面まで見てくれていたことがとても嬉しい。

 こんな風に言ってくれるのは鷹條だけだ。とても嬉しい。

 亜由美だって素敵な人だと思っていたし、手の届かない人だと思っていた。
 まさか鷹條が告白してくれるなんて予想もしていなくて、その真っすぐな気持ちには応えたい。

「私も好きって思ってました。だって、そんな風に言ってくれるのは鷹條さんだけだし、いつも助けてくれて、スーパーマンみたいな人です」

「参ったな……」
 鷹條が髪をかき上げる。

 そして軽く息を吐くと、亜由美に向き直った。
「俺は仕事の時間も不規則だし、メールとかすぐ返せないことも多い。つまんなくて無愛想なんだが、こんな俺でも付き合ってくれるか?」

「すごく嬉しい。こちらこそ……よろしくお願いします」
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