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5.今度こそ運命の出逢い
今度こそ運命の出逢い③
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「そうしてたら、お前って結構美人じゃん? 安心しろよ。そんな風に気ぃ引かなくたって付き合ってやるからさ」
この男は一体何を言っているのだろうか?
どうしていつも亜由美の言葉を分かってくれないんだろう?
(私、ちゃんと日本語を話しているわよね?)
「あの、本当に止めて下さい」
「駅前のタワーでフレンチを奢ってやる。いいからついてこい」
そう言うと一条は亜由美の手を掴む。
一条に強引にそんな風に言われたら、ふらふらとついて行く女子は多いのだろう。
けれど、亜由美は到底そんな気持ちになれない。
なぜ分かってくれないのだろうか。
「いいから来いよ」
手を掴まれて怖くて、亜由美は全身の毛がそそけ立つ。
「やだっ!」
「何してるんだ!」
その声は聞き覚えのあるものだった。
そして、亜由美を取り返してくれた力強い腕。その腕の主を亜由美は知っている。
腕の中で顔を上げると精悍な顔が獰猛さを含んで一条をにらんでいた。
──また、助けてくれた。
「鷹條さん」
「全く、君は何でそう俺の前でトラブルを起こす?」
「そ、そういう訳では……」
むしろ、なぜこんなところに鷹條がいるのか知りたい。
「お前、なんなんだ? 杉原と俺は知り合いなんだ。関係ないだろう?」
一条は鷹條の正体を知らないから、そう返す。その一条に向かって鷹條は亜由美を腕に抱いたまま、きっぱりと伝えた。
「知り合いでも暴行は成立するぞ」
「暴行?」
急にそんな言葉が出てきて、一条は眉を顰める。
「襟元を掴んだだけでも暴行罪は成立する。俺も証言する」
(──どうしよう?)
とんでもない状況なのに、すごくすごく嬉しい。
もう、会えないと思っていた。雲の上の人なんだと。
なのに、こんな風に偶然に出会ってしまったばかりか、鷹條がまた亜由美を護ってくれている。
「僕も証言しますよ?」
そう横から言ったのは、鷹條よりも背の高い、身体つきのがっしりとした男性だった。
その男性はにこりと笑い、懐から身分証を出す。いわゆる警察手帳だ。
「こういう者なんですけどね? これを提示するってことは必要があると判断した時です」
亜由美も初めて見た。一条は警察手帳を目にして完全に怯んでいる。
がっしりとした男性はにこにこしながら、言葉を続けた。
「職務の執行の際は提示することになっています。つまりあなたを今、現行犯で逮捕しましょうかってことです」
「そんなことしてもいいと思ってるのか?」
「いいんですよ。彼女は嫌がっていて抵抗していましたし、手を掴むのも暴行罪です。あなたはよく分かっていないようですけれど、ここで現行犯逮捕されれば、留置場に収容されて事件と身柄を検察庁に送致されます」
亜由美を抱いて離さない鷹條と、その身体のがっしりした男性に挟まれて、一条は完全に怯んでいた。
「当然、収容中は出社なんてできませんからね。勾留が決まれば、十日以上収監されます。規律正しい生活ができますよ」
表情はにこやかだが、話の内容はとても怖い。
「そ……そんなつもりは……」
急に真っ青になって、一条は足早に去っていった。
その間も鷹條は亜由美を腕に抱いたままだ。
「逃げ足の早い男ですね」
一条を見送って、男性は鷹條と亜由美に向かって苦笑して見せた。
「久木係長、ありがとうございます」
「いいえ。もともと鷹條くんは表情に乏しいタイプですけど、そんな君が怖い形相をして早足で歩いていくから何事かと思いましたよ」
そう言って久木と呼ばれた男性は鷹條の腕の中にいる亜由美をじっと見ている。
この男は一体何を言っているのだろうか?
どうしていつも亜由美の言葉を分かってくれないんだろう?
(私、ちゃんと日本語を話しているわよね?)
「あの、本当に止めて下さい」
「駅前のタワーでフレンチを奢ってやる。いいからついてこい」
そう言うと一条は亜由美の手を掴む。
一条に強引にそんな風に言われたら、ふらふらとついて行く女子は多いのだろう。
けれど、亜由美は到底そんな気持ちになれない。
なぜ分かってくれないのだろうか。
「いいから来いよ」
手を掴まれて怖くて、亜由美は全身の毛がそそけ立つ。
「やだっ!」
「何してるんだ!」
その声は聞き覚えのあるものだった。
そして、亜由美を取り返してくれた力強い腕。その腕の主を亜由美は知っている。
腕の中で顔を上げると精悍な顔が獰猛さを含んで一条をにらんでいた。
──また、助けてくれた。
「鷹條さん」
「全く、君は何でそう俺の前でトラブルを起こす?」
「そ、そういう訳では……」
むしろ、なぜこんなところに鷹條がいるのか知りたい。
「お前、なんなんだ? 杉原と俺は知り合いなんだ。関係ないだろう?」
一条は鷹條の正体を知らないから、そう返す。その一条に向かって鷹條は亜由美を腕に抱いたまま、きっぱりと伝えた。
「知り合いでも暴行は成立するぞ」
「暴行?」
急にそんな言葉が出てきて、一条は眉を顰める。
「襟元を掴んだだけでも暴行罪は成立する。俺も証言する」
(──どうしよう?)
とんでもない状況なのに、すごくすごく嬉しい。
もう、会えないと思っていた。雲の上の人なんだと。
なのに、こんな風に偶然に出会ってしまったばかりか、鷹條がまた亜由美を護ってくれている。
「僕も証言しますよ?」
そう横から言ったのは、鷹條よりも背の高い、身体つきのがっしりとした男性だった。
その男性はにこりと笑い、懐から身分証を出す。いわゆる警察手帳だ。
「こういう者なんですけどね? これを提示するってことは必要があると判断した時です」
亜由美も初めて見た。一条は警察手帳を目にして完全に怯んでいる。
がっしりとした男性はにこにこしながら、言葉を続けた。
「職務の執行の際は提示することになっています。つまりあなたを今、現行犯で逮捕しましょうかってことです」
「そんなことしてもいいと思ってるのか?」
「いいんですよ。彼女は嫌がっていて抵抗していましたし、手を掴むのも暴行罪です。あなたはよく分かっていないようですけれど、ここで現行犯逮捕されれば、留置場に収容されて事件と身柄を検察庁に送致されます」
亜由美を抱いて離さない鷹條と、その身体のがっしりした男性に挟まれて、一条は完全に怯んでいた。
「当然、収容中は出社なんてできませんからね。勾留が決まれば、十日以上収監されます。規律正しい生活ができますよ」
表情はにこやかだが、話の内容はとても怖い。
「そ……そんなつもりは……」
急に真っ青になって、一条は足早に去っていった。
その間も鷹條は亜由美を腕に抱いたままだ。
「逃げ足の早い男ですね」
一条を見送って、男性は鷹條と亜由美に向かって苦笑して見せた。
「久木係長、ありがとうございます」
「いいえ。もともと鷹條くんは表情に乏しいタイプですけど、そんな君が怖い形相をして早足で歩いていくから何事かと思いましたよ」
そう言って久木と呼ばれた男性は鷹條の腕の中にいる亜由美をじっと見ている。
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