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3.乗りかかった船?
乗りかかった船?④
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亜由美の涙を見て、香坂は呆れたような視線を鷹條に飛ばす。
鷹條ももちろん泣かせるつもりはなかったはずなのでとても焦っていた。
「え? ちょっ……そんなつもりは……。ごめん。何か俺が失礼なことを言ったんだよな」
鷹條のせいでないのは明らかなので、亜由美は慌てて否定する。
「いいえ。ちょっと、今日は色々あったので。鷹條さんのご親切にとても感謝しています。本当にありがとうございます」
「いや……」
「鷹條、ちゃんと責任持って最後まで送れよ?」
にやにやと笑いながらそう言う香坂に鷹條は苦い表情を返していた。
「うるさいな。分かってる」
その言葉通り、鷹條は診察が終わるまで一緒に付き添ってくれた。
香坂に画像なども確認してもらったが、やはり骨や靭帯などに異常はなく、強い捻挫だったことが分かり、不幸中の幸いだったと亜由美も安心した。
「数日は腫れるかもしれない。無理はしないように」
そう言って、香坂は亜由美の足元を見る。
「痛みがなくなるまではヒールもダメだよ? 可愛いけど」
「はい。あの、ありがとうございました」
「痛み止めと貼り薬をもらって帰ってね。お大事に」
ひらひらと手を振る香坂に亜由美は頭を下げて診察室を出る。
「杉原さん、タクシーを呼んでおいたから」
鷹條の気づかいには亜由美は驚いてしまう。
「本当にありがとうございます」
タクシーが来るまで、病院の外のベンチに二人で並んで座って待っていた。
「お時間たくさん使わせてしまってごめんなさい。今朝も、今もありがとうございました」
やっと落ち着いてお礼を言えるのが嬉しい。
「そんなのはいいよ。少しでも役に立てたのならいい」
「そんな! 少しでも、なんて……!」
誰もが知らぬフリで通り過ぎる中、鷹條だけが足を止めてくれたのだ。
それだけでも救われた気持ちになった。
「私はとても嬉しかったです。誰も助けてはくれなかったから。会社でもそうなんです。私は大丈夫、と思われてしまうから」
「しっかりして見えるからな」
ふっと鷹條の雰囲気が柔らかくなって、彼が微笑んでいるのだと分かる。
しっかりして見えるって、まるでそうじゃないみたいじゃない!? いや、そういうところしか見られてないんだけども。
「あの! 普段はもうちょっとしっかりしているんです。そうだわ。今朝のことも今日のこともぜひお礼をさせてください」
別に慌てることはないのだけれど、なんだか変な印象のまま鷹條に誤解されたくないと思ってしまった亜由美なのだ。
「いや、本当に気にしなくていいよ」
「そういうわけにはいきません!」
いつも顔の表情に動きがない鷹條がふわりと表情を緩めた。
その解けたような顔は元々が端正で整った顔立ちのせいか、亜由美をどきりとさせる。
ふふ……っという笑い声も。
「やはりしっかりしているよ」
「あ……」
解けた表情はそのまま苦笑へと変わった。そして亜由美には柔らかい笑顔を向ける。
「本当にいいんだ」
「でも、気が済まないです……」
「立場的に、と言ったら納得してくれる?」
「立場?」
「公僕なんだ」
鷹條ももちろん泣かせるつもりはなかったはずなのでとても焦っていた。
「え? ちょっ……そんなつもりは……。ごめん。何か俺が失礼なことを言ったんだよな」
鷹條のせいでないのは明らかなので、亜由美は慌てて否定する。
「いいえ。ちょっと、今日は色々あったので。鷹條さんのご親切にとても感謝しています。本当にありがとうございます」
「いや……」
「鷹條、ちゃんと責任持って最後まで送れよ?」
にやにやと笑いながらそう言う香坂に鷹條は苦い表情を返していた。
「うるさいな。分かってる」
その言葉通り、鷹條は診察が終わるまで一緒に付き添ってくれた。
香坂に画像なども確認してもらったが、やはり骨や靭帯などに異常はなく、強い捻挫だったことが分かり、不幸中の幸いだったと亜由美も安心した。
「数日は腫れるかもしれない。無理はしないように」
そう言って、香坂は亜由美の足元を見る。
「痛みがなくなるまではヒールもダメだよ? 可愛いけど」
「はい。あの、ありがとうございました」
「痛み止めと貼り薬をもらって帰ってね。お大事に」
ひらひらと手を振る香坂に亜由美は頭を下げて診察室を出る。
「杉原さん、タクシーを呼んでおいたから」
鷹條の気づかいには亜由美は驚いてしまう。
「本当にありがとうございます」
タクシーが来るまで、病院の外のベンチに二人で並んで座って待っていた。
「お時間たくさん使わせてしまってごめんなさい。今朝も、今もありがとうございました」
やっと落ち着いてお礼を言えるのが嬉しい。
「そんなのはいいよ。少しでも役に立てたのならいい」
「そんな! 少しでも、なんて……!」
誰もが知らぬフリで通り過ぎる中、鷹條だけが足を止めてくれたのだ。
それだけでも救われた気持ちになった。
「私はとても嬉しかったです。誰も助けてはくれなかったから。会社でもそうなんです。私は大丈夫、と思われてしまうから」
「しっかりして見えるからな」
ふっと鷹條の雰囲気が柔らかくなって、彼が微笑んでいるのだと分かる。
しっかりして見えるって、まるでそうじゃないみたいじゃない!? いや、そういうところしか見られてないんだけども。
「あの! 普段はもうちょっとしっかりしているんです。そうだわ。今朝のことも今日のこともぜひお礼をさせてください」
別に慌てることはないのだけれど、なんだか変な印象のまま鷹條に誤解されたくないと思ってしまった亜由美なのだ。
「いや、本当に気にしなくていいよ」
「そういうわけにはいきません!」
いつも顔の表情に動きがない鷹條がふわりと表情を緩めた。
その解けたような顔は元々が端正で整った顔立ちのせいか、亜由美をどきりとさせる。
ふふ……っという笑い声も。
「やはりしっかりしているよ」
「あ……」
解けた表情はそのまま苦笑へと変わった。そして亜由美には柔らかい笑顔を向ける。
「本当にいいんだ」
「でも、気が済まないです……」
「立場的に、と言ったら納得してくれる?」
「立場?」
「公僕なんだ」
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