12 / 66
3.乗りかかった船?
乗りかかった船?③
しおりを挟む
「これ以上ご迷惑をお掛けするわけにはいかないです」
朝も特にお礼などは良かったと言っていたのだ。
本当は名前も知られたくなかったのだろう。
なのに、こんなことになってしまって鷹條は亜由美に名前を知られることになってしまった。
もしかしたら、いや、もしかしなくても迷惑をかけているかもしれない。
これ以上迷惑を掛ける前に帰ってもらおう。
そう亜由美は思っていたのだ。
「分かった。じゃあご家族に連絡する」
「あ……」
両親は海外住まいだ。
亜由美は一人っ子で両親が海外住まいの今は、実家のマンションで一人暮らししている。
こういう時に来てくれるような家族はいない。
「家族は、いなくて……」
「一人暮らしか」
「はい」
鷹條は何かを察したように亜由美からそっと目線を外した。
(ん? ちょっと待って。家族は日本にはいないけど、なにか誤解されてない?)
「そうか……。では、なおさら一人にはできないな」
誤解を解こうと思った瞬間、一人にできないと言われて亜由美は戸惑いの方が先に立ってしまって、どういうことなのか鷹條に尋ねようとした。
「亜由美ちゃん、入るよ?」
その時、先ほどカルテを作ってくるからと一旦出ていった香坂が処置室の中に入ってきてしまったのだ。
突然名前で呼ばれて、亜由美は戸惑ってしまった。目の前の鷹篠はむっとして明らかに機嫌が悪くなり、香坂に言い返している。
「お前なぁ、名前呼びはないだろう?」
「え? だって、鷹篠の知り合いなんでしょ? 亜由美ちゃんだよね」
「そうでも、許可も得ずに名前なんかで呼ぶな」
香坂の目がネコのように細くなって口角がきゅっと上がっている。
笑っているようにも見えるが、なんだか含みがありそうだ。
「はいはい。では杉原さん、診察しようね。少し足を触るけどいい?」
「はい」
しゃがんだ香坂は亜由美の足に触れる。
「痛っ……」
先ほどと同じ方向に捻られると強く痛みが出るようだった。
「んー、確かに靭帯は大丈夫そう。多分骨まではいってないと思うけれど、念の為にレントゲンは撮っておこうか。鷹條、レントゲン室まで頼む」
「分かった。じゃあ、行くか」
そう答えた鷹條は 診察台から車椅子への移動もふわりと亜由美を抱き上げる。
「あのっ……」
「杉原さんはとても礼儀正しい。朝の俺の失礼を詫びる意味だと思って。それに、こんな時くらいは甘えたら?」
その一言にぎゅっと亜由美は心を鷲掴みにされたような気持ちになった。
今朝、最初に見た時、鷹條はものすごく硬い表情だった。今は大分和らいでいる。きっとこの顔が近くにいる人に見せる顔なのだ。
それでもきっと迷惑を掛けていると思うと、亜由美は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
怖いおじさんを追っ払ってくれて、溝からヒールを抜いてくれて、病院まで連れてきてくれた。
もう、それだけで充分に鷹條の優しさは伝わる。
なのに彼は亜由美に向かって、甘えたら? と言ってくれたのだ。
年齢よりしっかりして見えることもあり、その雰囲気で周りには頼られたり、困っていても大丈夫だと思われることの方が多い亜由美である。
『甘えたら?』
そんなことを言われたことはここ最近なかった。
なんだかその一言はひどく心に響いたのだ。
「っ……」
意図せずぽろぽろっと涙がこぼれてしまった。
「あ……あれ? なんだろ、すみません」
「鷹條、何泣かせてる?」
朝も特にお礼などは良かったと言っていたのだ。
本当は名前も知られたくなかったのだろう。
なのに、こんなことになってしまって鷹條は亜由美に名前を知られることになってしまった。
もしかしたら、いや、もしかしなくても迷惑をかけているかもしれない。
これ以上迷惑を掛ける前に帰ってもらおう。
そう亜由美は思っていたのだ。
「分かった。じゃあご家族に連絡する」
「あ……」
両親は海外住まいだ。
亜由美は一人っ子で両親が海外住まいの今は、実家のマンションで一人暮らししている。
こういう時に来てくれるような家族はいない。
「家族は、いなくて……」
「一人暮らしか」
「はい」
鷹條は何かを察したように亜由美からそっと目線を外した。
(ん? ちょっと待って。家族は日本にはいないけど、なにか誤解されてない?)
「そうか……。では、なおさら一人にはできないな」
誤解を解こうと思った瞬間、一人にできないと言われて亜由美は戸惑いの方が先に立ってしまって、どういうことなのか鷹條に尋ねようとした。
「亜由美ちゃん、入るよ?」
その時、先ほどカルテを作ってくるからと一旦出ていった香坂が処置室の中に入ってきてしまったのだ。
突然名前で呼ばれて、亜由美は戸惑ってしまった。目の前の鷹篠はむっとして明らかに機嫌が悪くなり、香坂に言い返している。
「お前なぁ、名前呼びはないだろう?」
「え? だって、鷹篠の知り合いなんでしょ? 亜由美ちゃんだよね」
「そうでも、許可も得ずに名前なんかで呼ぶな」
香坂の目がネコのように細くなって口角がきゅっと上がっている。
笑っているようにも見えるが、なんだか含みがありそうだ。
「はいはい。では杉原さん、診察しようね。少し足を触るけどいい?」
「はい」
しゃがんだ香坂は亜由美の足に触れる。
「痛っ……」
先ほどと同じ方向に捻られると強く痛みが出るようだった。
「んー、確かに靭帯は大丈夫そう。多分骨まではいってないと思うけれど、念の為にレントゲンは撮っておこうか。鷹條、レントゲン室まで頼む」
「分かった。じゃあ、行くか」
そう答えた鷹條は 診察台から車椅子への移動もふわりと亜由美を抱き上げる。
「あのっ……」
「杉原さんはとても礼儀正しい。朝の俺の失礼を詫びる意味だと思って。それに、こんな時くらいは甘えたら?」
その一言にぎゅっと亜由美は心を鷲掴みにされたような気持ちになった。
今朝、最初に見た時、鷹條はものすごく硬い表情だった。今は大分和らいでいる。きっとこの顔が近くにいる人に見せる顔なのだ。
それでもきっと迷惑を掛けていると思うと、亜由美は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
怖いおじさんを追っ払ってくれて、溝からヒールを抜いてくれて、病院まで連れてきてくれた。
もう、それだけで充分に鷹條の優しさは伝わる。
なのに彼は亜由美に向かって、甘えたら? と言ってくれたのだ。
年齢よりしっかりして見えることもあり、その雰囲気で周りには頼られたり、困っていても大丈夫だと思われることの方が多い亜由美である。
『甘えたら?』
そんなことを言われたことはここ最近なかった。
なんだかその一言はひどく心に響いたのだ。
「っ……」
意図せずぽろぽろっと涙がこぼれてしまった。
「あ……あれ? なんだろ、すみません」
「鷹條、何泣かせてる?」
応援ありがとうございます!
79
お気に入りに追加
115
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる