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3.乗りかかった船?
乗りかかった船?②
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病院の中に入ると白衣の男性が車椅子を準備してくれていた。理知的な雰囲気を身にまとった男性は医師の身分証を首から下げている。
「なんだ鷹條、車椅子を用意したのに」
亜由美を横抱きしている彼に遠慮なくそんなことを言う。知り合いとはこの白衣の男性のことなのだろう。
「いいから早く診てやってくれ。泣いてたんだ。それにひどく痛がっているし」
(いえ……泣いていたのはケガではなくて、今日の畳み掛けるような不幸についてです……)
「はいはい」
白衣の男性は苦笑して、処置室と書かれたドアを指差した。
そこで亜由美は初めて自分を助けてくれた彼の名が鷹條というのだと知った。鷹條は亜由美を処置室のベッドの上にそっと降ろす。
その後、看護師がやって来て保険証はあるかとか、診察券はないとかそんなやり取りをした。その間に白衣の男性と鷹條は言葉を交わしている。
「忙しいか? 急だったのにありがとうな」
「いや。今は落ち着いているからいいよ。で、なにがあったって?」
その質問にも鷹條はてきぱきと答えていた。
港南病院は夜間救急もやっている大きな病院のようで、遅い時間にも関わらず待合には数人の人が待っている様子だ。
「すみません。お忙しいのに」
亜由美がそう言うと、白衣の男性が苦笑する。
「なに言っているの? 君はケガしているんだよ? 遠慮はしない。大体の状況は聞いた。転倒したんだね。痛みは足だけ? 結構手をついた時に手を骨折してしまうようなケースもあるんだ」
白衣の男性は亜由美に向き直った。
そう言われて改めて亜由美は手も見てみたり手首を動かしてみたりした。きちんと動くし痛みはない。大丈夫そうだ。
「大丈夫みたいです」
「そう。それは良かった。では本格的に診察する前にカルテを作ってもらおうね。僕は医師の香坂っていいます。鷹條とは友人なんだ」
香坂は自己紹介してくれたけれど、鷹條とも今日初めましてだとは少し言いづらくて、亜由美は頭を丁寧に下げるに留めておいた。
「よろしくお願いいたします」
「はい」
いかにも医師らしい理知的な雰囲気の持ち主である香坂は、亜由美が安心するような温かい笑顔を向けてくれて、部屋を出ていった。
亜由美と鷹條はそこに残される。
「鷹條さん……」
「ん?」
朝は名前を教えてくれなかった。むしろ名前を聞いたらイヤな顔をしていたくらいだったのだ。
けれど名前を呼ばれて鷹篠は反射的に返事をしてしまったようだ。
「今日は色々とありがとうございます」
亜由美は深々と頭を下げた。
「いや……」
「私、杉原亜由美といいます」
「鷹條です。朝は失礼しました。特にお礼などは良かったのであんな態度を取ってしまって」
亜由美につられたのか、鷹條も深々と頭を下げる。
「いいえ。そうですよね。知らない人に名前なんて教えたくないと思います。色々とすみませんでした」
ぺこりと亜由美は頭をまた下げる。
お互いに頭をぺこぺこと下げ合うような形になってしまって、一瞬目が合って二人で苦笑してしまった。
亜由美は口を開く。
「あの……私大丈夫です」
「大丈夫?」
「なんだ鷹條、車椅子を用意したのに」
亜由美を横抱きしている彼に遠慮なくそんなことを言う。知り合いとはこの白衣の男性のことなのだろう。
「いいから早く診てやってくれ。泣いてたんだ。それにひどく痛がっているし」
(いえ……泣いていたのはケガではなくて、今日の畳み掛けるような不幸についてです……)
「はいはい」
白衣の男性は苦笑して、処置室と書かれたドアを指差した。
そこで亜由美は初めて自分を助けてくれた彼の名が鷹條というのだと知った。鷹條は亜由美を処置室のベッドの上にそっと降ろす。
その後、看護師がやって来て保険証はあるかとか、診察券はないとかそんなやり取りをした。その間に白衣の男性と鷹條は言葉を交わしている。
「忙しいか? 急だったのにありがとうな」
「いや。今は落ち着いているからいいよ。で、なにがあったって?」
その質問にも鷹條はてきぱきと答えていた。
港南病院は夜間救急もやっている大きな病院のようで、遅い時間にも関わらず待合には数人の人が待っている様子だ。
「すみません。お忙しいのに」
亜由美がそう言うと、白衣の男性が苦笑する。
「なに言っているの? 君はケガしているんだよ? 遠慮はしない。大体の状況は聞いた。転倒したんだね。痛みは足だけ? 結構手をついた時に手を骨折してしまうようなケースもあるんだ」
白衣の男性は亜由美に向き直った。
そう言われて改めて亜由美は手も見てみたり手首を動かしてみたりした。きちんと動くし痛みはない。大丈夫そうだ。
「大丈夫みたいです」
「そう。それは良かった。では本格的に診察する前にカルテを作ってもらおうね。僕は医師の香坂っていいます。鷹條とは友人なんだ」
香坂は自己紹介してくれたけれど、鷹條とも今日初めましてだとは少し言いづらくて、亜由美は頭を丁寧に下げるに留めておいた。
「よろしくお願いいたします」
「はい」
いかにも医師らしい理知的な雰囲気の持ち主である香坂は、亜由美が安心するような温かい笑顔を向けてくれて、部屋を出ていった。
亜由美と鷹條はそこに残される。
「鷹條さん……」
「ん?」
朝は名前を教えてくれなかった。むしろ名前を聞いたらイヤな顔をしていたくらいだったのだ。
けれど名前を呼ばれて鷹篠は反射的に返事をしてしまったようだ。
「今日は色々とありがとうございます」
亜由美は深々と頭を下げた。
「いや……」
「私、杉原亜由美といいます」
「鷹條です。朝は失礼しました。特にお礼などは良かったのであんな態度を取ってしまって」
亜由美につられたのか、鷹條も深々と頭を下げる。
「いいえ。そうですよね。知らない人に名前なんて教えたくないと思います。色々とすみませんでした」
ぺこりと亜由美は頭をまた下げる。
お互いに頭をぺこぺこと下げ合うような形になってしまって、一瞬目が合って二人で苦笑してしまった。
亜由美は口を開く。
「あの……私大丈夫です」
「大丈夫?」
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