上 下
11 / 83
3.乗りかかった船?

乗りかかった船?②

しおりを挟む
 病院の中に入ると白衣の男性が車椅子を準備してくれていた。理知的な雰囲気を身にまとった男性は医師の身分証を首から下げている。

「なんだ鷹條たかじょう、車椅子を用意したのに」
 亜由美を横抱きしている彼に遠慮なくそんなことを言う。知り合いとはこの白衣の男性のことなのだろう。

「いいから早く診てやってくれ。泣いてたんだ。それにひどく痛がっているし」

(いえ……泣いていたのはケガではなくて、今日の畳み掛けるような不幸についてです……)

「はいはい」
 白衣の男性は苦笑して、処置室と書かれたドアを指差した。

 そこで亜由美は初めて自分を助けてくれた彼の名が鷹條というのだと知った。鷹條は亜由美を処置室のベッドの上にそっと降ろす。

 その後、看護師がやって来て保険証はあるかとか、診察券はないとかそんなやり取りをした。その間に白衣の男性と鷹條は言葉を交わしている。

「忙しいか? 急だったのにありがとうな」
「いや。今は落ち着いているからいいよ。で、なにがあったって?」

 その質問にも鷹條はてきぱきと答えていた。
 港南病院は夜間救急もやっている大きな病院のようで、遅い時間にも関わらず待合には数人の人が待っている様子だ。

「すみません。お忙しいのに」
 亜由美がそう言うと、白衣の男性が苦笑する。

「なに言っているの? 君はケガしているんだよ? 遠慮はしない。大体の状況は聞いた。転倒したんだね。痛みは足だけ? 結構手をついた時に手を骨折してしまうようなケースもあるんだ」

 白衣の男性は亜由美に向き直った。
 そう言われて改めて亜由美は手も見てみたり手首を動かしてみたりした。きちんと動くし痛みはない。大丈夫そうだ。

「大丈夫みたいです」
「そう。それは良かった。では本格的に診察する前にカルテを作ってもらおうね。僕は医師の香坂こうさかっていいます。鷹條とは友人なんだ」

 香坂は自己紹介してくれたけれど、鷹條とも今日初めましてだとは少し言いづらくて、亜由美は頭を丁寧に下げるに留めておいた。

「よろしくお願いいたします」
「はい」

 いかにも医師らしい理知的な雰囲気の持ち主である香坂は、亜由美が安心するような温かい笑顔を向けてくれて、部屋を出ていった。
 亜由美と鷹條はそこに残される。

「鷹條さん……」
「ん?」

 朝は名前を教えてくれなかった。むしろ名前を聞いたらイヤな顔をしていたくらいだったのだ。
 けれど名前を呼ばれて鷹篠は反射的に返事をしてしまったようだ。

「今日は色々とありがとうございます」
 亜由美は深々と頭を下げた。

「いや……」
「私、杉原亜由美すぎはらあゆみといいます」
鷹條たかじょうです。朝は失礼しました。特にお礼などは良かったのであんな態度を取ってしまって」

 亜由美につられたのか、鷹條も深々と頭を下げる。
「いいえ。そうですよね。知らない人に名前なんて教えたくないと思います。色々とすみませんでした」
 ぺこりと亜由美は頭をまた下げる。

 お互いに頭をぺこぺこと下げ合うような形になってしまって、一瞬目が合って二人で苦笑してしまった。

 亜由美は口を開く。
「あの……私大丈夫です」
「大丈夫?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした

日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。 若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。 40歳までには結婚したい! 婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。 今更あいつに口説かれても……

そういう目で見ています

如月 そら
恋愛
プロ派遣社員の月蔵詩乃。 今の派遣先である会社社長は 詩乃の『ツボ』なのです。 つい、目がいってしまう。 なぜって……❤️ (11/1にお話を追記しました💖)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

処理中です...