8 / 60
2.男運悪すぎ問題
男運悪すぎ問題③
しおりを挟む
しょぼんとしてる上に、飲み物を買いに行ってきますと席を外した亜由美が手ぶらで帰ってきたのだ。
『ダメなんでしょうか?』と奥村を見る亜由美の目元はアイシャドウが綺麗に施されていて、自前の長いまつげがぱしぱししている。
今すぐにでも化粧品ブランドのモデルにもしたいくらいの綺麗な瞳だ。
つややかできめ細かく綺麗な肌としっかり手入れされたロングヘア。顔立ちも大人っぽく経理部では亜由美に憧れている男女も多い。
本人だけがなんのコンプレックスなのか、自分は可愛くないと思っているようなのだ。
その真面目なところも含めて周りはみんな評価しているというのに。
「なにか、あったの?」
「リフレッシュルームで……うるさい奴って言われていました。十年目くらいの貫禄があるって」
「もしかして、一条?」
奥村の質問にこくりと亜由美は頷く。
「年より上に見られることは慣れているからいいんです。ただ、可愛くないから因縁つけられちゃうんですかね? もっと融通利かせれば、ひどく言われなくて済むんでしょうか?」
朝からのこともあって亜由美はひどく落ち込んでいた。
奥村は亜由美に向かって微笑みかける。
しかし心の中は荒れに荒れていたのだ。
──私の! 可愛い後輩を! 自分のことを棚にあげて、よくも、よくもいじめてくれたわね!
「一条の言うことなんて、気にしなくていいからね。大体、受領書が嫌ならシステム申請すればいいのよ。それを面倒くさがるあいつが悪い。しかもうちの部署は一条狙いの女子が彼を甘やかすから余計良くない。杉原さんは大丈夫。正しいのよ」
亜由美の頭を撫でながら、一条のやつ、絶対いつかシメてやる。
そう言葉には出さずに心の中で呟いた奥村なのだった。
そうして、引き出しの中から取り出したとっておきのチョコレートを亜由美の手に載せる。
「経理部では融通効かないくらいじゃないと困るわ。杉原さんはうちの大事な課員なの。みんなそれを分かっているから大丈夫」
「ありがとうございます」
綺麗な包装紙に包まれたチョコレートは間違いなく亜由美の心を癒してくれた。
──ふぅ……。
帰りの電車の中で窓の外を見ながら亜由美はため息をついた。
今日は朝から最悪だった。
朝は遅刻しそうになっただけだったのに、変な男性に捕まって遅刻になってしまうし、出社したら自分の悪口まで耳にしてしまった。へこむ。
しかも締め日だった今日に限って、日中に処理した内容に変更があったせいで大幅に残業になってしまった。
夕食代わりに会社が入っているビルの中にあるコンビニでおにぎりを買って食べたけれど、食べたかどうかも分からないくらい、満足感はなかった。
──甘いもの、食べたい。
あまりにも色んなことがありすぎて、なにやらぐったりしていたのだ。
こんな日は甘いものに限る。
駅前で一番近いコンビニに入ると、亜由美は真っ先にデザートの棚に向かった。そうして衝撃的なものを目にする。
それはすっからかんのデザートの棚だ。
もうすでに泣きたくなってきた。
しょんぼりとしながら何も買わずに亜由美は店を出る。
とぼとぼと歩いて少し経った時だ、ガツっという感覚が足を襲って、靴が脱げる。
靴が脱げたのはヒールが道路の溝にはまったからだった。
しかも、どんな風にはまったのか、しっかりヒール部分が溝に埋まって片方裸足の亜由美が一生懸命引っ張っても出てこないのだ。
──もう、やだ……。
ここ数年の不幸が一気に襲ってきたようで、本当に涙で前が見えなくなりそうだった。
「大丈夫ですか?」
靴を引っ張っていた亜由美の視界に入ったのは見覚えのある革靴である。
亜由美は顔を上げた。
『ダメなんでしょうか?』と奥村を見る亜由美の目元はアイシャドウが綺麗に施されていて、自前の長いまつげがぱしぱししている。
今すぐにでも化粧品ブランドのモデルにもしたいくらいの綺麗な瞳だ。
つややかできめ細かく綺麗な肌としっかり手入れされたロングヘア。顔立ちも大人っぽく経理部では亜由美に憧れている男女も多い。
本人だけがなんのコンプレックスなのか、自分は可愛くないと思っているようなのだ。
その真面目なところも含めて周りはみんな評価しているというのに。
「なにか、あったの?」
「リフレッシュルームで……うるさい奴って言われていました。十年目くらいの貫禄があるって」
「もしかして、一条?」
奥村の質問にこくりと亜由美は頷く。
「年より上に見られることは慣れているからいいんです。ただ、可愛くないから因縁つけられちゃうんですかね? もっと融通利かせれば、ひどく言われなくて済むんでしょうか?」
朝からのこともあって亜由美はひどく落ち込んでいた。
奥村は亜由美に向かって微笑みかける。
しかし心の中は荒れに荒れていたのだ。
──私の! 可愛い後輩を! 自分のことを棚にあげて、よくも、よくもいじめてくれたわね!
「一条の言うことなんて、気にしなくていいからね。大体、受領書が嫌ならシステム申請すればいいのよ。それを面倒くさがるあいつが悪い。しかもうちの部署は一条狙いの女子が彼を甘やかすから余計良くない。杉原さんは大丈夫。正しいのよ」
亜由美の頭を撫でながら、一条のやつ、絶対いつかシメてやる。
そう言葉には出さずに心の中で呟いた奥村なのだった。
そうして、引き出しの中から取り出したとっておきのチョコレートを亜由美の手に載せる。
「経理部では融通効かないくらいじゃないと困るわ。杉原さんはうちの大事な課員なの。みんなそれを分かっているから大丈夫」
「ありがとうございます」
綺麗な包装紙に包まれたチョコレートは間違いなく亜由美の心を癒してくれた。
──ふぅ……。
帰りの電車の中で窓の外を見ながら亜由美はため息をついた。
今日は朝から最悪だった。
朝は遅刻しそうになっただけだったのに、変な男性に捕まって遅刻になってしまうし、出社したら自分の悪口まで耳にしてしまった。へこむ。
しかも締め日だった今日に限って、日中に処理した内容に変更があったせいで大幅に残業になってしまった。
夕食代わりに会社が入っているビルの中にあるコンビニでおにぎりを買って食べたけれど、食べたかどうかも分からないくらい、満足感はなかった。
──甘いもの、食べたい。
あまりにも色んなことがありすぎて、なにやらぐったりしていたのだ。
こんな日は甘いものに限る。
駅前で一番近いコンビニに入ると、亜由美は真っ先にデザートの棚に向かった。そうして衝撃的なものを目にする。
それはすっからかんのデザートの棚だ。
もうすでに泣きたくなってきた。
しょんぼりとしながら何も買わずに亜由美は店を出る。
とぼとぼと歩いて少し経った時だ、ガツっという感覚が足を襲って、靴が脱げる。
靴が脱げたのはヒールが道路の溝にはまったからだった。
しかも、どんな風にはまったのか、しっかりヒール部分が溝に埋まって片方裸足の亜由美が一生懸命引っ張っても出てこないのだ。
──もう、やだ……。
ここ数年の不幸が一気に襲ってきたようで、本当に涙で前が見えなくなりそうだった。
「大丈夫ですか?」
靴を引っ張っていた亜由美の視界に入ったのは見覚えのある革靴である。
亜由美は顔を上げた。
応援ありがとうございます!
57
お気に入りに追加
111
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる