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18.桜華会
桜華会①
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『桜華会をやることにしました』
そう浅緋から聞いて、その招待客リストを見た片倉は目を疑った。
「え……、この方々がいらっしゃるの? 浅緋」
安定の膝の上である。
そこで浅緋から渡されたリストを片倉は確認していた。
「はい。昔からの父の友人の方々なので。それによくよく去年の資料を確認したら、今年が桜華会の30周年だったんですよねえ」
「そんなに続いているんですね」
「私が生まれる前から、と聞いています」
「……であれば、こういうこともありうるのか……」
そのリストに掲載されていた人達はいわゆる経済界の重鎮、と呼ばれる人ばかりなのだ。
大企業の重役、会長、オーナー、いずれも名前を聞けば、ああ、と分かるような企業の先達ばかりなのである。
「お母様とは今回で最後にしましょう、と話しています。以前、慎也さんが言ってくださったみたいに今回は偲ぶ気持ちで、と考えています」
「そうか……。もったいないような気もするが」
「いいんです。それでも今回来たいと言ってくださった方々は、本当に父が懇意にしていた人たちで、私のこともまるで娘みたいに可愛がってくださった方達なんです。だから、きっと理解してくださると思うんです」
「ちょっと待って、この方達、浅緋のことを娘みたいに思っている?」
「はい!」
浅緋はこの価値に気づいているんだろうか、と片倉は思う。
──きっと気づいてはいない。
いいのだ。それが園村の意向なのだろうから。
「浅緋? そうしたら、これは僕らの結婚のお披露目みたいなものだよねえ」
「え……? そ、そんな風には考えていませんでしたけれど。確かにそうですね……」
頬を染めてしまう浅緋を間近で見られるこのポジションはやはり、とてもいい。
桜華会について片倉は今まで、浅緋のサポートをすることは考えていたけれど、他人事のように考えていた。
園村の家のことなのだし、距離を置いた方がいいのだろうかと考えていたのだ。
それがお披露目会に……ともなれば俄然やる気になってしまったのである。
「浅緋、和装ですよね?」
「どうしようかしら……」
「着物にしませんか? 僕が浅緋の和装を見たいし、振袖も今後着にくくなってしまうでしょう?」
そう言って意味ありげに片倉は浅緋の方を見る。
未婚の時期だけのそれは、自分と結婚したらもう着られないよね?の意図で。
「確かに。それはそうですね」
自然にそんな回答をする浅緋に片倉が胸を撃ち抜かれているのは、多分理解されていない。
「着物は僕に用意させてくださいね」
「え? でもたった1回のためだけに?」
「お披露目も兼ねているのに、当然だよね。明日は着物を見に行こう。あ、ちょっと待って、外商に連絡しておく」
明らかな時間外だと思うのだが、片倉はさっさと電話してしまった。
「明日持ってくるって言うんだけど、デパートまで行くといったよ。予定は大丈夫?」
「ええ」
明日は休日で特に予定はなかった。
「本当は織りも染めも意匠もフルオーダーで用意したかったけれど仕方ない。結婚式のときはフルオーダーで用意しようね」
幾らかかるか、想像するだけでも恐ろしいけれど、浅緋の婚約者はそれが出来てしまう人なのだ。
けれど、片倉は機嫌良さげにわくわくしているし、浅緋も着物自体は嫌いではない。
「はい」
にっこり笑って浅緋はそう返事をしたのだった。
桜華会当日は驚くぐらいの快晴だった。
雲一つない澄み切った青空に園村家の庭の緑の芝が映えている。
桜華会用の緋毛氈の赤がそのコントラストに華を添えていた。
それを見ながら、ふと子供の頃のことを思い出す。
「浅緋、これはお前の色だよ」
父は緋毛氈に座って、横に座った浅緋の頭を撫でながらそう言った。
「私の色?」
「茜で染めた緋色、浅緋(あさあけ)と書いて浅緋、と言うんだ。お雛様にも敷いてあるだろう?」
そう浅緋から聞いて、その招待客リストを見た片倉は目を疑った。
「え……、この方々がいらっしゃるの? 浅緋」
安定の膝の上である。
そこで浅緋から渡されたリストを片倉は確認していた。
「はい。昔からの父の友人の方々なので。それによくよく去年の資料を確認したら、今年が桜華会の30周年だったんですよねえ」
「そんなに続いているんですね」
「私が生まれる前から、と聞いています」
「……であれば、こういうこともありうるのか……」
そのリストに掲載されていた人達はいわゆる経済界の重鎮、と呼ばれる人ばかりなのだ。
大企業の重役、会長、オーナー、いずれも名前を聞けば、ああ、と分かるような企業の先達ばかりなのである。
「お母様とは今回で最後にしましょう、と話しています。以前、慎也さんが言ってくださったみたいに今回は偲ぶ気持ちで、と考えています」
「そうか……。もったいないような気もするが」
「いいんです。それでも今回来たいと言ってくださった方々は、本当に父が懇意にしていた人たちで、私のこともまるで娘みたいに可愛がってくださった方達なんです。だから、きっと理解してくださると思うんです」
「ちょっと待って、この方達、浅緋のことを娘みたいに思っている?」
「はい!」
浅緋はこの価値に気づいているんだろうか、と片倉は思う。
──きっと気づいてはいない。
いいのだ。それが園村の意向なのだろうから。
「浅緋? そうしたら、これは僕らの結婚のお披露目みたいなものだよねえ」
「え……? そ、そんな風には考えていませんでしたけれど。確かにそうですね……」
頬を染めてしまう浅緋を間近で見られるこのポジションはやはり、とてもいい。
桜華会について片倉は今まで、浅緋のサポートをすることは考えていたけれど、他人事のように考えていた。
園村の家のことなのだし、距離を置いた方がいいのだろうかと考えていたのだ。
それがお披露目会に……ともなれば俄然やる気になってしまったのである。
「浅緋、和装ですよね?」
「どうしようかしら……」
「着物にしませんか? 僕が浅緋の和装を見たいし、振袖も今後着にくくなってしまうでしょう?」
そう言って意味ありげに片倉は浅緋の方を見る。
未婚の時期だけのそれは、自分と結婚したらもう着られないよね?の意図で。
「確かに。それはそうですね」
自然にそんな回答をする浅緋に片倉が胸を撃ち抜かれているのは、多分理解されていない。
「着物は僕に用意させてくださいね」
「え? でもたった1回のためだけに?」
「お披露目も兼ねているのに、当然だよね。明日は着物を見に行こう。あ、ちょっと待って、外商に連絡しておく」
明らかな時間外だと思うのだが、片倉はさっさと電話してしまった。
「明日持ってくるって言うんだけど、デパートまで行くといったよ。予定は大丈夫?」
「ええ」
明日は休日で特に予定はなかった。
「本当は織りも染めも意匠もフルオーダーで用意したかったけれど仕方ない。結婚式のときはフルオーダーで用意しようね」
幾らかかるか、想像するだけでも恐ろしいけれど、浅緋の婚約者はそれが出来てしまう人なのだ。
けれど、片倉は機嫌良さげにわくわくしているし、浅緋も着物自体は嫌いではない。
「はい」
にっこり笑って浅緋はそう返事をしたのだった。
桜華会当日は驚くぐらいの快晴だった。
雲一つない澄み切った青空に園村家の庭の緑の芝が映えている。
桜華会用の緋毛氈の赤がそのコントラストに華を添えていた。
それを見ながら、ふと子供の頃のことを思い出す。
「浅緋、これはお前の色だよ」
父は緋毛氈に座って、横に座った浅緋の頭を撫でながらそう言った。
「私の色?」
「茜で染めた緋色、浅緋(あさあけ)と書いて浅緋、と言うんだ。お雛様にも敷いてあるだろう?」
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