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15.プレゼントの意味
プレゼントの意味②
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「はい、また後で」
「園村さん、30分後に社長室にお茶をもってきてもらっていいかな」
槙野に言われて、浅緋はかしこまりました、と返事をした。
役員たちが出ていったあと、みんな一斉にため息をつくのが分かる。神経を使ったのはもちろんだが、片倉を初めて見た人たちも多かったのだ。
池田がとことこっと浅緋の方にやってくる。小さな声で浅緋に聞いた。
「ねえ? あの人が片倉さんよね。浅緋ちゃんの婚約者なんだよね」
「はい」
にこりと浅緋は笑う。
「素敵な人だし、浅緋ちゃんにすごくお似合いだし、やっぱり浅緋ちゃんのこと大好きだね、あれは!」
うん!と池田は頷く。
「ほんとですか⁉︎」
浅緋のあまりの反応のよさに、池田は目を見開いて驚いてしまったけれど、にこりと浅緋に向かって笑った。
「うん。途中までは仕事の話をしていたみたいだったけど、もう途中からは浅緋ちゃんのことしか見ていなかったよ」
浅緋は仕事に夢中になっていたから分からなかったのだ。
「そんな風に言っていただけると嬉しいものなんですね」
はにかむように笑う浅緋はとても可愛らしい。
池田はきゅっと浅緋の手を握った。
「愛されてるよ、浅緋ちゃん」
そうやって池田に太鼓判を押されて、浅緋はとても幸せな気持ちになったのだった。
「華さん、ありがとう。私、勇気を出したの」
「うんうん」
もしかしたらこの2人ならばいつかは幸せになったかも知れないが、もしも自分のアドバイスがその一助になれたのならよかった、と池田は思ったのである。
浅緋は背中を押してくれた池田に認められたような気がして、ふんわりした幸せな気持ちで、社長室にコーヒーを持って行った。
槙野にはお茶を……と言われたけれど、槙野も、片倉もコーヒーが好きだからだ。
「失礼します」
と中に入ると、片倉が社長席に座っている。
「あら? 槙野さんはいらっしゃらないんですか?」
「すぐ、戻ってくると思うけど」
皮張りの椅子にゆったりともたれて座る片倉は、そこに座っていても違和感がない。
もともとは父のいた場所だったけれど、そこに片倉が座ることに浅緋は抵抗ないことを実感した。
「今日はこの会社のメンバーと食事に行かなくてはいけない……」
「遅くなりますね」
少しだけ拗ねたような表情の片倉がなんだか可愛らしく見えた。
本当は帰りたいのだけど、とでも言いたげだ。
「でも、浅緋がいる会社だし、園村さんにもお願いされているから、無下にはしない」
「よろしくお願いします」
そう言って、浅緋は頭を下げた。
自分が継げればよかったのだろうけれど……。
片倉はデスクに両腕を組んで置く。
そうして、急に黙って考え込むような表情を見せる浅緋を見た。
「浅緋、何を考えているの?」
「あ、いえ……、私が継げればよかったんでしょうけれど……」
「浅緋が継いでいたら、今僕はここにはいない。浅緋が継げなくてよかった」
「私、怒っていいのか、喜んでいいのか……」
そんな浅緋の言葉に片倉はくすりと笑う。
椅子から立ち上がった片倉は、今度は浅緋の前に立つ。
今の今まで2人の間にはデスクがあったのに、急に距離が近くなって、浅緋は顔が赤くなってしまった。
「園村さん、30分後に社長室にお茶をもってきてもらっていいかな」
槙野に言われて、浅緋はかしこまりました、と返事をした。
役員たちが出ていったあと、みんな一斉にため息をつくのが分かる。神経を使ったのはもちろんだが、片倉を初めて見た人たちも多かったのだ。
池田がとことこっと浅緋の方にやってくる。小さな声で浅緋に聞いた。
「ねえ? あの人が片倉さんよね。浅緋ちゃんの婚約者なんだよね」
「はい」
にこりと浅緋は笑う。
「素敵な人だし、浅緋ちゃんにすごくお似合いだし、やっぱり浅緋ちゃんのこと大好きだね、あれは!」
うん!と池田は頷く。
「ほんとですか⁉︎」
浅緋のあまりの反応のよさに、池田は目を見開いて驚いてしまったけれど、にこりと浅緋に向かって笑った。
「うん。途中までは仕事の話をしていたみたいだったけど、もう途中からは浅緋ちゃんのことしか見ていなかったよ」
浅緋は仕事に夢中になっていたから分からなかったのだ。
「そんな風に言っていただけると嬉しいものなんですね」
はにかむように笑う浅緋はとても可愛らしい。
池田はきゅっと浅緋の手を握った。
「愛されてるよ、浅緋ちゃん」
そうやって池田に太鼓判を押されて、浅緋はとても幸せな気持ちになったのだった。
「華さん、ありがとう。私、勇気を出したの」
「うんうん」
もしかしたらこの2人ならばいつかは幸せになったかも知れないが、もしも自分のアドバイスがその一助になれたのならよかった、と池田は思ったのである。
浅緋は背中を押してくれた池田に認められたような気がして、ふんわりした幸せな気持ちで、社長室にコーヒーを持って行った。
槙野にはお茶を……と言われたけれど、槙野も、片倉もコーヒーが好きだからだ。
「失礼します」
と中に入ると、片倉が社長席に座っている。
「あら? 槙野さんはいらっしゃらないんですか?」
「すぐ、戻ってくると思うけど」
皮張りの椅子にゆったりともたれて座る片倉は、そこに座っていても違和感がない。
もともとは父のいた場所だったけれど、そこに片倉が座ることに浅緋は抵抗ないことを実感した。
「今日はこの会社のメンバーと食事に行かなくてはいけない……」
「遅くなりますね」
少しだけ拗ねたような表情の片倉がなんだか可愛らしく見えた。
本当は帰りたいのだけど、とでも言いたげだ。
「でも、浅緋がいる会社だし、園村さんにもお願いされているから、無下にはしない」
「よろしくお願いします」
そう言って、浅緋は頭を下げた。
自分が継げればよかったのだろうけれど……。
片倉はデスクに両腕を組んで置く。
そうして、急に黙って考え込むような表情を見せる浅緋を見た。
「浅緋、何を考えているの?」
「あ、いえ……、私が継げればよかったんでしょうけれど……」
「浅緋が継いでいたら、今僕はここにはいない。浅緋が継げなくてよかった」
「私、怒っていいのか、喜んでいいのか……」
そんな浅緋の言葉に片倉はくすりと笑う。
椅子から立ち上がった片倉は、今度は浅緋の前に立つ。
今の今まで2人の間にはデスクがあったのに、急に距離が近くなって、浅緋は顔が赤くなってしまった。
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