61 / 87
14.時期と判断
時期と判断②
しおりを挟む
「ゆるふわが片倉を嫌うことなんてないと思うがな……」
「ん?」
「別に時期を外したってわけじゃないだろ。まだ、ゆるふわの心の準備が出来るまでお前が待ってるってことだろ。あいつはそういうの、慣れてなさそうだしそれでいいんじゃないのか?」
片倉の先々まで考えることは良い事だと思うが、逆に考え過ぎてしまうこともある。槙野は直感的に判断する事が多いのだ。
そんな槙野の判断を、片倉も当てにしていることは確かなのである。
「そうだな。今まで僕はこういうことで失敗がないから、お前に聞くのが間違いないんじゃないかと思ったんだが、お前に話してやはり正解だな」
「まるで俺が失敗だらけのような言い草だな」
「そんな風には……」
そこで笑顔で言葉をとめる片倉だ。
「そこで言葉を止めるな! 感じ悪いぞ!」
はあ……とため息をついた槙野はいつにない片倉の様子に、親友の相談に乗ってやることにした。
「聞くけどな、ゆるふわはお前が触れるのもダメなのか?」
槙野に聞かれて片倉は少し考える。
確かに、赤くなってしまったりはするけれど、本気で嫌がられたことはない。
「それは、ないな」
これから、夫婦になるのなら、膝の上に乗せるのは当然だといったら、こくん、と頷いて素直に乗っていたし。
近くで見る浅緋の可愛らしさはまた格別だった。
「じゃあ、あとは時期次第だろ。前に会社の奴と食事に行っていたときは、触れられるのもダメって感じだったぞ」
「触れられるのも?」
「指輪みせてくださいー、とかって覗き込まれただけで、身体ごと避けていたからな」
──そいつ、どこか飛ばすか……。
「言っておくが、そいつ自身は優秀な営業社員なんだからな、どこか飛ばそうとかするなよ」
槙野は片倉の考えを先読みしてそんな警告をする。
片倉は首を傾げた。
「ダメなのか?」
「ダメに決まっているだろうが!!」
すかさず槙野は突っ込みを入れた。
真っ直ぐな目をするな!
どうして? とかいう表情をするな!
浅緋を溺愛しすぎて、こいつ厄介過ぎる!!
しかもこんなに溺愛している相手と寝室が一緒なのに何もないだと?
どんな心頭を滅却しているんだ、こいつ!?
そんな槙野に決裁を迫られ、微妙な目で見られながら書類を渡した片倉は、帰り支度を始める。
そうして、帰り道の車の中だ。
──あんな目で見なくてもいいだろうに。
槙野のことである。
見た事のない生き物を見るような目で見られた。
小声で「よく我慢できるな……」と言ったのも聞こえていた。
もちろん浅緋とのことは焦ってはいないけれども、意識をしてほしい気持ちはある。
片倉自身正直に言えば、可能ならば今すぐでも抱きたい。
あの白い肌に指を滑らせて、触れて味わって、甘い声を聞きたいと思う。
焦ってはいない。大事にしたい。今すぐ抱きたい。
相反するすべての気持ちが正直なところだ。
そして嫌じゃない。怖い、けれど大事に思ってる、という浅緋の気持ちも理解している。
もう、2人の間に障壁はないと思っていたが、お互いが大事な気持ちが障壁になるなんて、片倉は思っていなかった。
片倉は綺麗なラインの口元に指をあてて考える。
園村の浅緋に対する言葉が蘇ってきたから。
『積極的ではないけれども、落ち着いて物事をしっかり見ることのできる子だと思う。思慮深い子なんだ』
その思慮深さで自分の気持ちを理解してほしいと思った片倉は、タブレット端末の操作を始めた。
「到着しました」
渡辺の声に片倉は自分が集中していたことを知った。
「ありがとう」
お礼を言って車を降りた片倉は、マンションのエントランスに向かう。
今日も0時を過ぎての帰宅で、浅緋はすでに休んでいる。
「ん?」
「別に時期を外したってわけじゃないだろ。まだ、ゆるふわの心の準備が出来るまでお前が待ってるってことだろ。あいつはそういうの、慣れてなさそうだしそれでいいんじゃないのか?」
片倉の先々まで考えることは良い事だと思うが、逆に考え過ぎてしまうこともある。槙野は直感的に判断する事が多いのだ。
そんな槙野の判断を、片倉も当てにしていることは確かなのである。
「そうだな。今まで僕はこういうことで失敗がないから、お前に聞くのが間違いないんじゃないかと思ったんだが、お前に話してやはり正解だな」
「まるで俺が失敗だらけのような言い草だな」
「そんな風には……」
そこで笑顔で言葉をとめる片倉だ。
「そこで言葉を止めるな! 感じ悪いぞ!」
はあ……とため息をついた槙野はいつにない片倉の様子に、親友の相談に乗ってやることにした。
「聞くけどな、ゆるふわはお前が触れるのもダメなのか?」
槙野に聞かれて片倉は少し考える。
確かに、赤くなってしまったりはするけれど、本気で嫌がられたことはない。
「それは、ないな」
これから、夫婦になるのなら、膝の上に乗せるのは当然だといったら、こくん、と頷いて素直に乗っていたし。
近くで見る浅緋の可愛らしさはまた格別だった。
「じゃあ、あとは時期次第だろ。前に会社の奴と食事に行っていたときは、触れられるのもダメって感じだったぞ」
「触れられるのも?」
「指輪みせてくださいー、とかって覗き込まれただけで、身体ごと避けていたからな」
──そいつ、どこか飛ばすか……。
「言っておくが、そいつ自身は優秀な営業社員なんだからな、どこか飛ばそうとかするなよ」
槙野は片倉の考えを先読みしてそんな警告をする。
片倉は首を傾げた。
「ダメなのか?」
「ダメに決まっているだろうが!!」
すかさず槙野は突っ込みを入れた。
真っ直ぐな目をするな!
どうして? とかいう表情をするな!
浅緋を溺愛しすぎて、こいつ厄介過ぎる!!
しかもこんなに溺愛している相手と寝室が一緒なのに何もないだと?
どんな心頭を滅却しているんだ、こいつ!?
そんな槙野に決裁を迫られ、微妙な目で見られながら書類を渡した片倉は、帰り支度を始める。
そうして、帰り道の車の中だ。
──あんな目で見なくてもいいだろうに。
槙野のことである。
見た事のない生き物を見るような目で見られた。
小声で「よく我慢できるな……」と言ったのも聞こえていた。
もちろん浅緋とのことは焦ってはいないけれども、意識をしてほしい気持ちはある。
片倉自身正直に言えば、可能ならば今すぐでも抱きたい。
あの白い肌に指を滑らせて、触れて味わって、甘い声を聞きたいと思う。
焦ってはいない。大事にしたい。今すぐ抱きたい。
相反するすべての気持ちが正直なところだ。
そして嫌じゃない。怖い、けれど大事に思ってる、という浅緋の気持ちも理解している。
もう、2人の間に障壁はないと思っていたが、お互いが大事な気持ちが障壁になるなんて、片倉は思っていなかった。
片倉は綺麗なラインの口元に指をあてて考える。
園村の浅緋に対する言葉が蘇ってきたから。
『積極的ではないけれども、落ち着いて物事をしっかり見ることのできる子だと思う。思慮深い子なんだ』
その思慮深さで自分の気持ちを理解してほしいと思った片倉は、タブレット端末の操作を始めた。
「到着しました」
渡辺の声に片倉は自分が集中していたことを知った。
「ありがとう」
お礼を言って車を降りた片倉は、マンションのエントランスに向かう。
今日も0時を過ぎての帰宅で、浅緋はすでに休んでいる。
1
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
2023.6.12 全話改稿しました
表紙絵/灰田様
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる