上 下
59 / 87
13.ふたりの休日

ふたりの休日⑤

しおりを挟む
 片倉がふと顔をあげると、確かに本屋の店舗につながって雑貨を取り扱っている店が見えた。

 重い本を片倉は持ってくれて、浅緋は申し訳ないような、嬉しい気持ちになった。
 雑貨屋の店頭では可愛らしい加湿器がたくさん並んでいる。

 片倉の家にはスタイリッシュで何万もするような最新の空気清浄機付きの加湿器があるので不要ではあるのだが、つい、その可愛らしさに、浅緋は足を止めてしまった。

「アヒルです……」
「アヒルだな。しかも頭から湯気が出てる……」
 片倉が真面目な顔でそんなことを言うので、浅緋は笑ってしまった。

「本当。なんで頭なんでしょうね? 可愛いけれども」
「欲しいの?」
「いいえ。あのお部屋には合いませんもの。でも、可愛いわ」

「あ、あのコーヒーメーカー面白いな」
「本当だわ。すごくおしゃれですね。あ……そうだわ。見たいものがありました」

「何?」
「エプロンとランチョンマットの予備が欲しいなって思っていて」
「それは買おう」

 浅緋のエプロン姿など見たいに決まっているからだ。

 2人でいくつか見ていて、最終的に花柄のものとパステルカラーの大きなシャボン柄のもので、浅緋は迷っていた。

「浅緋、両方買ったら。洗い替え用にしても困らないものだから」
「はい」
 それも片倉がさっと手にしてしまう。

「え? あの慎也さん!」
「家のものなんだから、僕が買うに決まっているよね?」

「あの、ありがとうございます」
「着て見せてくれたら、それでいいよ」
「もちろんです!」

 笑顔が可愛い。
 もう、今すぐ帰って着て見せてほしい。

 夜は本屋が入っている駅前の複合ビルの上にあるレストランで食事をして、帰ることにした。

「慎也さん……」
「ん?」

「ありがとうございます。いろいろ買っていただいてしまったし、それにとても楽しかったです」
「僕もだよ」

 浅緋は今まで、片倉とのことは政略結婚だと言われ続け、一時は諦めかけていた関係だった。
 けれども一旦それを白紙にして、自分たちで婚約を決め、そして今日は片倉からデートに誘ってもらったのだ。

 浅緋にとっては初めての経験だったけれども、とてもとても楽しかった。

 本屋や雑貨屋なんて、片倉はくだらないって思うかもしれないと言い出しづらかったけれど、片倉は一緒に楽しんでくれた。

 一緒に本を買って、エプロンを選んでくれて、この人とずっと一緒にいたい、と強く思ったのだ。
 浅緋のために一緒に楽しんでくれる人。

 レストランの大きな窓からは、夜景が綺麗に見えていた。

「慎也さん……」
「なに?」
「ずっと一緒にいたいです」

 一瞬目を見開いた片倉が、ふわりと笑って、ぽんと浅緋の頭を撫でる。
「ずっと、一緒にいましょうね」

「ずっとです」
「うん」

 ずっとはずっと、だ。
 子供が出来ても……、歳を重ねても。

 片倉は嬉しい気持ちではあったけれど、浅緋の真意を測りかねていた。

 ずっと、と言ってもらえるのはとても嬉しいし、自分はもとよりそのつもりだ。

 何なら、本当に浅緋以外はいらないし、世の中が全員浅緋だったらいいのにくらい思っている。

 しかし、今の問題はそこにはない。
 ずっとってまるでプロポーズのようだけれど、それは……。

 それは……⁉︎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【R18・完結】蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない〜

花室 芽苳
恋愛
契約結婚しませんか?貴方は確かにそう言ったのに。気付けば貴方の冷たい瞳に炎が宿ってー?ねえ、これは大人の恋なんですか? どこにいても誰といても冷静沈着。 二階堂 柚瑠木《にかいどう ゆるぎ》は二階堂財閥の御曹司 そんな彼が契約結婚の相手として選んだのは 十条コーポレーションのお嬢様 十条 月菜《じゅうじょう つきな》 真面目で努力家の月菜は、そんな柚瑠木の申し出を受ける。 「契約結婚でも、私は柚瑠木さんの妻として頑張ります!」 「余計な事はしなくていい、貴女はお飾りの妻に過ぎないんですから」 しかし、挫けず頑張る月菜の姿に柚瑠木は徐々に心を動かされて――――? 冷徹御曹司 二階堂 柚瑠木 185㎝ 33歳 努力家妻  十条 月菜   150㎝ 24歳

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

お前を必ず落として見せる~俺様御曹司の執着愛

ラヴ KAZU
恋愛
まどかは同棲中の彼の浮気現場を目撃し、雨の中社長である龍斗にマンションへ誘われる。女の魅力を「試してみるか」そう言われて一夜を共にする。龍斗に頼らない妊娠したまどかに対して、契約結婚を申し出る。ある日龍斗に思いを寄せる義妹真凜は、まどかの存在を疎ましく思い、階段から突き落とす。流産と怪我で入院を余儀なくされたまどかは龍斗の側にはいられないと姿を消す。そこへ元彼の新が見違えた姿で現れる。果たして……

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

処理中です...