政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。

如月 そら

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12.特別な存在

特別な存在③

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 そう、唇は重なった。最初は。
 
 そうして何度も片倉が角度を変えて唇を重ねるから、その度に唇の別の場所に触れ合って何度も片倉を感じてしまう。

「浅緋さん……口、少し開けて?」
 ──開ける?
 素直に浅緋は口を緩く開けた。

 にこりと笑った片倉が眼鏡を外す。
 綺麗な指が眼鏡を外して胸ポケットに入れるのを浅緋はただ見ていた。

 そうして、その指がゆるりと浅緋の唇に触れたのだ。
 なんだか……今までにない雰囲気だった。

 それは甘いだけではなくて、なんと言うか艶がある、とでも言うのだろうか……。

 ふっと近づいた片倉と、唇が重なって、そして浅緋が開けた口の中に片倉の舌が侵入してくる。

「……っ⁉︎」
 驚いて目を開けてしまうと、大丈夫、と言うように目で微笑まれた。

 緩く舌が絡み合うことにどうしたらいいのか分からなくて戸惑うばかりだ。

 けれど、ゆるりと舌を舐められた時に、ひどく浅緋はどきん、とした。
 顔に、熱が集まる。

 心臓の鼓動の音がどんどん激しくなってきて、耳にはどくんどくん、というその音しか聞こえない。

 その間にも口の中の色んなところに片倉の舌が触れ、その繊細な感触に身体の中心がぞくんとしたのだ。

 浅緋はそれをどうすればいいのか分からない。
 お腹の奥がきゅっとするような、背中がぞくぞくするような足元も不安定になりそうな、そんな感じだ。

 口がすっかり塞がれているから鼻で息をしているけれども、それも大きく息を吸ったりしたら、息が荒くなっているのを片倉に知られそうで恥ずかしくて、大きく息をすることも出来ない。

「んっ……」
 必死でそのキスを受け止めていたら、つい、そんな声が漏れてしまって、浅緋はさらに恥ずかしくなった。

 その時、やっと片倉が浅緋をそっと離してくれた。
 ぷはっ……と水面から顔が出た人のように息をしてしまう。

「浅緋さん、鼻で息して?」
「い……ちおう、してたんですけど。それでも間に合わなくて。ドキドキしすぎて……」

「本当だ。顔、真っ赤だな」
「すみません……」

「可愛いです。僕の気持ちも伝わった、と思っていいのかな」
 こくっと浅緋は頷いた。

「まだ、婚約は破棄しますか? 僕はあなたとしか結婚したくないんですけど。改めて、婚約者になってもらえますか?」

 それはもちろんだ。
 浅緋にだって、片倉としかこんなことは出来ない。
「はい」

「これからも、思ったことは口にしていきましょう。僕もあまり得意ではないんですけど、そうしないとあなたは一人でとんでもないことをしそうだ」

 眼鏡をかけ直した片倉はくすくす笑っていた。
 そんな表情は今まで見せてくれたことはない。

 ──こんな風にすれば良かったのね。

 困っている時は困っている、と、好きな人には素直に言ってもいい。
 この人には、心を開いても大丈夫。

 今までは家族が浅緋のことを守ってくれていたけれど、片倉には弱みを見せても大丈夫なのだ。
 そして、片倉のことも浅緋はとても大切だと心から浅緋は思える。

「で、浅緋さん? 浅緋さんのお願いって何ですか」
「……あ」

 そう片倉に聞かれて、浅緋は言い淀んだ。
「……っ、その、し……」
「し……?」

 片倉の白皙とも言える顔に覗き込まれて、浅緋は彼を真っ直ぐに見ることができなかった。

 ──どうしよう。慎也さんが素敵すぎるんです。

 改めて、あんな告白してキスしたあとに、こんな風に見られるととても恥ずかしい。
 片倉は浅緋の好みの顔立ちなのだが、浅緋自身ではそういうことが分かっていないのだ。
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