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12.特別な存在
特別な存在①
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「浅緋さん。僕はあなたのお願いならなんでも聞きます。けれど、その前に一つお伝えしなくてはいけない」
「なんでしょう?」
急に、改まってそんなことを言われたので、不安になった浅緋は自分の腰に手を回している片倉の顔を見上げた。
目が合うと、片倉はふわりと優しく微笑んでくれて、浅緋は安心する。
「少しだけ話したいんですけど、寒くない?」
そう言えば、外なのだった。
まだ春と呼ぶには早い季節に普通なら少し肌寒いはずなのに、片倉がしっかりと抱きしめてくれているからそれが温かい。
とても守られているのだ、とよく分かった。
「寒くないです」
そう、と言った片倉は一度浅緋をそっと離して、自分のコートのボタンを外していく。
どうするんだろうと浅緋が見ていたら、きゅっとコートの中に包んでくれた。
「ここで、もう少しだけ話したいんです」
そう言って自分のコートで浅緋を包みなおした片倉は桜の木を見上げた。
なにか片倉にも想いがあるのだろうかと浅緋は思う。
先程まで、しっかりボタンを締めていたコートの中は、温かくて、それに片倉が使っているパフュームの香りまでして浅緋はくらくらしそうだ。
浅緋は抱きしめてくれている片倉にしがみつくのがやっとだった。
「その……今朝、妙な態度を取ってしまった理由についてと、その経緯についてです」
さっきよりも近い距離とその声に、浅緋は鼓動が大きくなるのが分かった。
「はい」
「嫉妬していたんです。あなたが男性といる、と聞いて」
──嫉妬? 慎也さんが?
浅緋から見た片倉は、そんなこととは無縁に見える。
「あの、でも私その方のことはなんとも思っていませんし、本当に私知らない方が苦手で……」
「分かっています。それでも、そんな人見知りのあなたが男性と同席しているというだけで、おかしくなりそうでした。それくらい、僕はあなたが好きなんだ。そして、僕はそれを知られたくなかったんです」
「どうして?」
「僕はあなたに怖がられて、嫌われることを恐れていたんです」
「怖がるなんて、そんなことありえないのに」
片倉は浅緋をきゅっと抱きしめる。
「そんなに人見知りで苦手なのに、僕のこと、怖くないんですか?」
「本当……そういえばそうだわ。でも、怖くないです。苦手でもないです。だって、慎也さんはそんな私が怖がらないようにいつも気遣ってくださっていますよね」
「あの時はタガが外れてしまったので怖がらせてしまったのではないかと、思ったんですよ」
「あの時……」
「うちの玄関でのことですよ?」
そう耳元で囁かれて、浅緋はついドキンとして抱きしめられている片倉にぎゅっと抱きついてしまった。
そんなことを急に言われたら、ドキドキしてしまう。やっと鼓動が落ち着きかけていたのに。
「初めてだった?」
キスのことだろうと気付くと、浅緋はさらにとくとく音を立てる鼓動を抑えることなんて、できなかった。
先程からのはわざとなんだろうか、甘く熱っぽく耳元に囁かれているような気がするのは。
「はい」
片倉に届くか届かないかの声で言うのがやっとだった。
もっともの慣れた女性なら、そうじゃないのだろうに。そう思うと、レセプション会場での出来事が頭によみがえってくる。
片倉が綺麗な菜都、という女性と話していた時だ。
とても大人の女性で仕事も出来そうで、敵うわけがないという感じがして。
「なんでしょう?」
急に、改まってそんなことを言われたので、不安になった浅緋は自分の腰に手を回している片倉の顔を見上げた。
目が合うと、片倉はふわりと優しく微笑んでくれて、浅緋は安心する。
「少しだけ話したいんですけど、寒くない?」
そう言えば、外なのだった。
まだ春と呼ぶには早い季節に普通なら少し肌寒いはずなのに、片倉がしっかりと抱きしめてくれているからそれが温かい。
とても守られているのだ、とよく分かった。
「寒くないです」
そう、と言った片倉は一度浅緋をそっと離して、自分のコートのボタンを外していく。
どうするんだろうと浅緋が見ていたら、きゅっとコートの中に包んでくれた。
「ここで、もう少しだけ話したいんです」
そう言って自分のコートで浅緋を包みなおした片倉は桜の木を見上げた。
なにか片倉にも想いがあるのだろうかと浅緋は思う。
先程まで、しっかりボタンを締めていたコートの中は、温かくて、それに片倉が使っているパフュームの香りまでして浅緋はくらくらしそうだ。
浅緋は抱きしめてくれている片倉にしがみつくのがやっとだった。
「その……今朝、妙な態度を取ってしまった理由についてと、その経緯についてです」
さっきよりも近い距離とその声に、浅緋は鼓動が大きくなるのが分かった。
「はい」
「嫉妬していたんです。あなたが男性といる、と聞いて」
──嫉妬? 慎也さんが?
浅緋から見た片倉は、そんなこととは無縁に見える。
「あの、でも私その方のことはなんとも思っていませんし、本当に私知らない方が苦手で……」
「分かっています。それでも、そんな人見知りのあなたが男性と同席しているというだけで、おかしくなりそうでした。それくらい、僕はあなたが好きなんだ。そして、僕はそれを知られたくなかったんです」
「どうして?」
「僕はあなたに怖がられて、嫌われることを恐れていたんです」
「怖がるなんて、そんなことありえないのに」
片倉は浅緋をきゅっと抱きしめる。
「そんなに人見知りで苦手なのに、僕のこと、怖くないんですか?」
「本当……そういえばそうだわ。でも、怖くないです。苦手でもないです。だって、慎也さんはそんな私が怖がらないようにいつも気遣ってくださっていますよね」
「あの時はタガが外れてしまったので怖がらせてしまったのではないかと、思ったんですよ」
「あの時……」
「うちの玄関でのことですよ?」
そう耳元で囁かれて、浅緋はついドキンとして抱きしめられている片倉にぎゅっと抱きついてしまった。
そんなことを急に言われたら、ドキドキしてしまう。やっと鼓動が落ち着きかけていたのに。
「初めてだった?」
キスのことだろうと気付くと、浅緋はさらにとくとく音を立てる鼓動を抑えることなんて、できなかった。
先程からのはわざとなんだろうか、甘く熱っぽく耳元に囁かれているような気がするのは。
「はい」
片倉に届くか届かないかの声で言うのがやっとだった。
もっともの慣れた女性なら、そうじゃないのだろうに。そう思うと、レセプション会場での出来事が頭によみがえってくる。
片倉が綺麗な菜都、という女性と話していた時だ。
とても大人の女性で仕事も出来そうで、敵うわけがないという感じがして。
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