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11.桜の木の下で

桜の木の下で①

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 レセプションの最中も、片倉は浅緋を片時も側から離さなかった。

「片倉さん、素敵な方ですね」
「ええ。婚約者なんです」

 色んな人に話しかけられる片倉は、誰かに浅緋のことを聞かれると、必ずそう答えていた。

「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます」

 どれだけ歳が上の人でも、片倉は臆さないし、侮るようなことを言われても、笑顔で流す。
 それを見ているだけでも、浅緋はつい、うっとりしてしまいそうになるのだ。

 浅緋はその隣で張り付けたような笑顔を浮かべるだけで、返事すらままならないというのに。

 お客様との話は全部片倉に任せていて、その全てに片倉はそつのない対応を返していた。

「大丈夫ですか?」
 宴もたけなわになってきた頃、片倉が浅緋を思いやってなのだろう、そう声をかけてくれた。

「片倉さん、尊敬しますわ。私、顔が筋肉痛を起こしそうです」

 もう疲労もマックスだったせいか、つい、浅緋がポロリと本音をこぼしてしまうと、ワインを片手にしていた片倉はぷっと吹き出した。

 笑っている片倉の眼鏡の奥の瞳が柔らかく細まってとても楽しそうで、浅緋はどきん、とする。

「可愛いことを言いますね。あなたが素敵な笑顔なので、皆さんお話したくて仕方ないんでしょう。普段はこんなに話しかけられないんですけどね」

 経済界の中でも注目を集めるほどの資産家である片倉が誰と結婚するのかは、実は注目の的ではあったのだが、本人はそれには気づいていない。

 浅緋には怯んでしまうほどの華やかな世界だった。

 それでも、躾には厳しかった父のおかげで所作には問題ないはずだし、年に何度かはこういう場所にも連れてこられてはいた。
 ただこういう場所が、浅緋にはあまり得意ではないのだ。

 振る舞いが自然に出来ているか、きちんと笑顔になっているか、感じ悪くしていないか、そんなことばかりがとても気になってしまって、人と接するのはもちろん、お食事すら楽しんだことはない。

 ただ片倉と自然に話ができたのはよかった、と浅緋が思った頃だ。

「片倉さん」
 とてもセクシーで華やかな女性が片倉に話しかけてきた。
 身長がすらりと高くて、胸元が大きく空いたドレスを着ている。

「村上部長」
「あら、水臭いわね、菜都と呼んでくださって構わないのに」

 ロングヘアを片方の肩に流して、華やかなドレスと高いヒール。片倉相手でも堂々としたその態度に浅緋は臆してしまう。

「こちら、どなた?」
「婚約者なんですよ」
「そんな方いらっしゃったの? 初めて聞いたわ」

 部長、と呼ばれたからにはどこかの会社の偉い人なのだと分かるし、このパーティの中でも若い方なので、片倉と同じくやり手の人なのだろうと言うことも分かる。

 とても綺麗で、片倉に臆することのない落ち着いた大人の女性。

 こういう人が彼の隣に立った方がいいのではないか……そんな風に浅緋が思っても仕方のないことだ。

「そういう人がね、できたんですよ」

「ふうん? それで、先ほどからマーキングして回っているの?」
 マーキング?って何かしら?
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